月刊アスキー 2008年1月号掲載記事
たとえば、スポーツ中のカッコイイ瞬間を記録することを考えてみる。デジカメで撮る場合、タイミングを狙ってシャッターを押すのが普通だ。しかし、ここぞというときに限って外してしまうことも、素人ならば珍しくはない。では、ビデオカメラで動画として記録し、あとで静止画を切り出せばいいか? というと、それもあまり上手い方法ではない。動画の解像度はHD画質でも約20万画素程度。データから1フレームを切り出しても、鑑賞に堪えうるサイズの静止画にはならないのが実情だ。
カシオ計算機が開発中の高速連写デジカメは、そうした不自由を根底から覆す、圧倒的スペックを持つ。解像度が600万画素のまま、1秒あたり60コマの連写が可能なのだ。一般的なデジカメでは1秒あたり10コマ程度がせいぜいで、動画でも1秒あたり30コマしか記録しないのが普通。動画の2倍のコマ数撮っているということは、「超スロー映像」のような連写が静止画として記録できるということなのだ。
確かにスゴイが、特殊な用途のカメラなのでは? と考える人も多いだろう。ところが、このデジカメの商品企画を担当する中山仁氏によると、「ゆくゆくは、将来的にデジカメのスタンダードな機能になる可能性がある」と語る。
そもそもこれが実現したのは、昨年、ソニーが画像信号を高速で送り出せるセンサーを開発したことによる。カシオはそれを元に、得意のLSIの分野で、今までの10倍ほどの速度で画像信号を処理できるチップを開発。このカメラの実現にこぎつけた。
このカメラを使うと、“シャッターを押す瞬間”を意識せずともベストショットが手に入る。あたかも、ビデオカメラで動画を撮る姿に近い。「動画と静止画の区別が無くなって、何気なく撮っておき、あとで必要な部分を切り出すというスタイルになるでしょう。技術的には、いずれは他社も実現可能だと思います。もしかすると、3~5年ぐらいで世の中のデジカメはすべてこの機能を持つ時代になるかもしれないです」。中山氏は、事実上コンシューマ向けデジカメの第1号になった「QV10」や、薄型コンパクト機の流れを作った「EXILIM」の商品企画を手がけた人物。その先読みの“カン”がこの製品でも発揮されれば、デジカメがまたひとつ新しい局面を開くことは間違いない。