家の選び方で老後が変わる。50代から考えたい住まいのこと②
無理なく無駄なくコストダウン。ミドルエイジが家を購入する際の最適解とは
「予算が限られているから、何かを削らなきゃ」「中古にすれば安く済むかも」。家を購入するに当たって、少しでも出費の負担を減らそうと、私たちはつい目先のコストを削減することに目を奪われがち。でも、そのコストカットが、将来の修繕費や光熱費を増大させ、結果的に老後のお金に影響が出るとしたら?将来、後悔しないために50代からの住宅購入で大切になってくるのは、家を資産として捉え、出口までを見据えたトータルコストを考えるということ。初期段階で家のどこに投資し、どこで節約するのかという戦略が必要だ。50代が無理なく、かつ無駄なく理想の住まいを手に入れるためのポイントを、家づくりのリアルを幅広く発信している平松建築の平松明展さんに聞いていく。
一生に一度の大きな買い物だからこそ、人任せにはせず、知識武装することが必要
家を購入する際にお金の問題は切っても切り離せないもの。そして、住宅を取得して時間が経過するごとに出てくる〝不満〟や〝後悔〟なども、お金と関係していることが少なくない。
あれもこれもと理想を追い求めすぎた結果、住宅ローンにより生活がひっ迫することになった、価格を下げることを最優先したら経年劣化で修繕コストがかさんでしまった、住んでみたら使い勝手が悪かった…など。そんな事態を避けるためにも、どうすればいいのか。まずは自分自身で〝知識武装〟をすることが第一だと、平松さんは言う。
「人生に大きな影響を与える住宅購入を、すべて人任せにしてはいけません。自分自身がしっかりと知識を身につけておかないと、言われたことをそのまま信じてしまい、結果的にそれが誤った判断につながることもあります。時には売主側の都合が優先され、気づかないうちに不利な選択をしてしまうケースも少なくありません。
なぜこのようなことが起きるのか。それは、住宅購入という取引の回数が圧倒的に少ないからです。多くの人にとって、家を買うのは一生に一度か、せいぜい二度ほどでしょう。たとえばスーパーでナスを買う場合、これまでに何度も購入経験があるため、『今回は色が悪い』『前回はおいしくなかった』『高いから別のものにしよう』といった判断が自然とできるようになります。
しかし住宅は、そうした試行錯誤を重ねる機会がほとんどありません。それにもかかわらず、相手は何十回、何百回と取引を重ねてきたプロ。経験値も立場も大きく異なるため、知識がなければ主導権を握られてしまい、結果として不利な判断に導かれてしまうこともあるのです」
また、住宅会社を選ぶ時にも注意が必要だという。「大手だから安心」「やっぱり地元の工務店が親身になってくれそう」など、目先のイメージだけを優先させるのは避けるべきだ。
「実際に調べてみると、大手企業であっても欠陥住宅の事例は存在し、トラブルが起きても解決が難しいケースもしばしば。弁護士を立てても思うように解決しない、といった話も見られます。
一方で、より深刻なリスクが潜むのは小規模な工務店。特に注意したいのが、工事途中での倒産です。着工金や前払い金として数千万円を支払った後に倒産し、〝家は完成せず、お金も戻らない〟という事態に陥ることも…。近年はこうしたニュースも増え、計画的な倒産が疑われるケースもありますが、意図の証明は難しく、法的責任を追及できないまま終わることも少なくありません。
こうしたリスクを避けるために確認しておきたいのが〝完成保証制度〟。万が一施工会社が倒産しても、別の会社が工事を引き継ぎ、住宅の完成を保証する仕組みです。
この制度には審査があり、財務状況が悪い企業は基本的に加入できません。つまり〝完成保証に加入しているかどうか〟は、会社の健全性を見極める指標のひとつに。未加入の場合は、より慎重な判断が必要です」
家づくりは初期コストの〝投資配分〟が命。構造にお金をかけ、設備を抑えるのが正解
家の購入にあたっては〝知識武装〟が必要ということがわかったところで、いくつかプロからコストダウンの方法を聞きたいところ。そこで規格住宅、注文住宅を購入する際の注意点を教えてもらった。
「コストを抑えるうえで最優先は、内装や設備のグレードダウンです。基礎や構造といった後から変更しにくい部分にはしっかりと初期投資をし、内装や水回りなど変更しやすい部分でコスト調整するのが基本です。
キッチンやトイレなどの設備は交換前提のため、多少グレードを落としても長期的な差は大きくありません。ただし、外装や防水など耐久性に関わる部分のコスト削減は、将来的な負担増につながるため避けるべきです。
次に有効なのが外構工事の調整です。建物本体の性能を優先し、ウッドデッキなどは後回しにするという選択も有効。外構は後から追加できるため、最初は必要最低限に抑え、余裕ができたタイミングで整える方法もあります」
さらに売却という〝出口戦略〟を考えるうえで、注文住宅においては〝過度なこだわり〟にも注意が必要だという。
「注文住宅はすべて自分好みにできるのが魅力ですが、変更を重ねるほど設計や工事のミスが生まれるリスクが高まります。実は平均的な工務店が建てる場合、間取りの決まった規格住宅のほうが、トラブルが少なく質が安定していることも。標準的なプランはコストを抑えやすく、将来的にも売却しやすい傾向にあります。
また、造作収納も作り込みすぎるとコストが膨らむだけでなく、売却時に〝クセ〟として敬遠されることが…。取り外しが難しい点も含め、趣味性の強い仕様は避けたほうが無難です。一方で、老後を見据えた住みやすさや、太陽光発電や高断熱化といった省エネ性などのこだわりは売却時の魅力にもつながり、〝出口戦略〟として功を奏すこともあり得ます」
逆にコストダウンをしてはいけない部分として、「大前提として耐震性や耐久性といった基本性能だけは絶対に削ってはいけません」と、平松さんは断言する。
「耐震性や耐久性を妥協するくらいなら建てない方がいい、と言えるほど重要なポイントです。また、最近はデザイン性やコストカットを理由に、軒(のき)がまったくない〝軒ゼロ〟の家が増えています。しかし、職人の目から見ると、これは非常に危うい。
軒が出ていないと雨が直接外壁に当たり、雨漏りのリスクは5倍ほどに跳ね上がります。将来的に数百万円の修繕費を払うことになれば、目先のコストカット分なんて一瞬で吹き飛ぶことに。長持ちしている古い家を見れば一目瞭然ですが、100年持つ家に〝軒ゼロ〟なんてまずありません。ここは、将来の出費を抑えるための必要な初期投資なのです」
中古物件は耐震等級3を基準に。第三者の目を通した〝現状認識〟がマスト
コストを抑えるため、または安く家を購入してリノベーションをしたいなどの理由で、中古物件を検討する人もいるだろう。しかし、平松さんは「中古選びこそ、厳しい目が必要」と断言する。
「中古戸建てで最も重要なのは耐震性です。1981年以前の『旧耐震基準』は論外ですが、それ以降の家でも、実は今の基準からすると不足しているものが大半。地震に対する建物の強度を示す指標である耐震等級は、1が最低限、2が学校・病院レベル、3が消防署・警察署など災害復旧の拠点となる施設レベル。
阪神淡路大震災の5年後にできた2000年基準が現行の基準なのですが、これはあくまで最低ラインの耐震等級1。巨大地震が発生すると倒壊の可能性が大きい。実際の地震データでも、倒壊例がほぼ確認されておらず、仮に被害が出ても軽微で住み続けられるケースが多いのは耐震等級3の住宅です。
例えば見た目や販売価格など、条件に当てはまった中古物件があったとします。でも、耐震等級1で、大地震での倒壊確率が4割と言われたら、買いますか? 多くの人が躊躇するのではないでしょうか」
戸建てを中古で探す際は耐震等級3であること。それが最低限の条件だと平松さんは断言する。しかしながら、現実問題として市場に出ているほとんどが、長期優良住宅でなければ、耐震等級3どころか1に満たない物件だという。それでも、さまざまな事情や理由から中古物件という選択をする場合があるかもしれない。その際に気を付けるべき点はなんだろう。
「コスト面の観点で言えば、第一にリフォームが不要な物件を探すということ。そのためには、 耐震性や耐久性の観点から〝現状認識〟するべく、必ずホームインスペクション(建物状況調査)を依頼してください。売主ではなく、第三者のプロに頼んで、現状の価値を正しく認識し、耐震補強をするなど性能を上げるためにいくらかかるのか把握することが大切です。
そしてリフォームが必要な場合は、中途半端に直すのではなく、新築と同じ考え方できっちりやること。その時安く済んでも、のちのち修繕費がかかってしまうと、トータルコストが増えます。ただ、中古物件の場合は〝出口戦略〟としての資産価値はあまり期待できないので、リフォームにコストをかけすぎるのも注意が必要です」
〝出口戦略〟を見据えた住まい探し、家を購入する際のコストダウンに続き、最終回となる第3回では、修繕・リフォームという持ち家ならではのコストについて解説。経年劣化による修繕だけではなく、家族構成の変化によるダウンサイジングや老後のQOLを上げるためのリフォームについても深掘りする。
建築歴25年という平松明展さん。代表取締役社長を務める「平松建築株式会社」では、〝人と地球と財布に優しい大満足の家〟をテーマに、光熱費やメンテナンス費を含む生涯のトータルコストを考えた家づくりを提供している
2026年1月に発行された最新著書「お金の不安が消える 住まいのコスト大全 快適に暮らせて資産が残る家の選び方」(KADOKAWA)。住宅購入・リフォームで削れる費用について、図表などを交えてわかりやすく説明している
Profile:平松明展
ひらまつあきのぶ/「平松建築株式会社」代表取締役社長。1980年静岡県磐田市生まれ。19歳から大工として10年間で100軒以上の住宅を解体、修繕し、住宅の性能や特徴を現場で体得。2009年に平松建築を創業。会社経営を行いながらも、ドイツやスイス、アメリカに赴き世界中の家づくりを学ぶほか、地震後の現地取材を行うなど、地域の気候風土にあった家づくりを研究し続けている。著書に『住まい大全 ずっと快適な家の選び方、つくり方、暮らし方』『住んでよかった家 理想の暮らしがずっと続く15の空間』『お金の不安が消える 住まいのコスト大全 快適に暮らせて資産が残る家の選び方』(KADOKAWA)がある。リアルな家づくり情報を発信するYouTubeチャンネル「職人社長の家づくり工務店」のチャンネル登録者数は23万人を超える。
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