家の選び方で老後が変わる。50代から考えたい住まいのこと①

ミドルエイジの住まい選びは、トータルコストを左右する〝出口戦略〟がポイント

文●杉山幸恵

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 マイホームを購入するということは、多くの人にとって人生の一大イベント。戸建てかマンションか、新築か中古か、立地はどうする?予算は?などなど、悩みが尽きないことだろう。また、ミドルエイジからの購入にあたっては、老後のことも見据えて、さらに頭を悩ますことになるかもしれない。そんな人に対し、「住まい選びの悩みを解消する方法は、視野を広くし、知識を増やすことです」と語るのは、職人社長として幅広く〝家づくり〟について発信する平松明展さん。なかでも最も知っておくべきは、家を〝消費〟していくのではなく、〝資産〟として手に入れるという考え方だという。そこで50代の住まい選びについて教えてもらう連載企画の第1回では、老後に後悔しないための〝住まいのトータルコスト〟について聞いてみた。

30年後にどんな選択をするのか、家の〝出口戦略〟を立てることが最も重要

 家を購入すると決めた時、多くの人が〝今の自分たち〟の暮らしに最適な物件を探すことだろう。通勤のこと、家族構成、住みやすさ、間取りも含めたデザイン、そして予算など。しかしながら50代の場合、「その視点だけでは不十分」と、平松さんは言う。  

 「50代からの住まい探しにおいて、長持ちする家にすることを大前提として、数十年後も住み続けるのか、貸すのか、売るのか、引き継ぐのか、この4つのパターンを考慮する必要があります。これは全世代に言えることではありますが、年代が上がれば上がるほど重要に。建ててから住む期間が短くなるので、50代以上の場合はあらかじめ〝出口戦略〟を考えたうえで家を購入するべきでしょう」  

 〝出口戦略〟を考えるうえで、平松さんは日本における戸建て住宅の問題点を指摘する。それは建てた途端に資産価値が右肩下がりに落ちていくということ。新築で購入した家の多くは、20年から30年経つと建物の価値がなくなってしまうというのだ。

 「今の日本で一般的なのが、〝消費型の家〟と呼ばれるものです。住宅を2,500万円で建築しても、その後の点検やリフォーム、光熱費といった維持管理には、建築費に匹敵する2,000万円ほどの費用がかかります。さらに、昨今のインフレ傾向を考慮すると、将来的な維持コストはこれまでの平均を上回る可能性が極めて高い。

 そして30年後に売却を検討しても、建物としての価値はほぼゼロ。それどころか土地を売ろうとしても、建物が邪魔だから更地にしてほしいと言われ、解体費用がかかってしまうことも考えられます。

 つまりは市場環境によっては売却益が出るどころか、実質的なマイナスを抱えてしまうリスクさえあるということです。そうなってしまうと、2,500万円で購入したこの家のトータルコストは4,500万円を超えるという計算です」

 建物の価値が無くなってしまう要因として、建材の問題もあるという。一般的に大手ハウスメーカーでは、住宅の販売価格のうちおよそ半分が原価とされ、残りに販売管理費や営業利益が含まれている。こうした構造の中で、企業は原価を抑えるために建材の大量仕入れを行う。

 「大量仕入れによってコストを下げること自体は合理的ですが、その結果として多く使われるのが、いわゆる〝新建材〟です。例えば、複合フローリングや合板などの工業製品といった建材は、見た目は整っている一方で、時間の経過とともに味わいが出る〝経年変化〟ではなく、単なる〝経年劣化〟になりやすい。

 今、売られている戸建て住宅はそういった〝新建材〟を使用している率が高いです。コストを抑えるための仕組みが、結果として住宅の資産性を下げてしまう。それも、日本の住宅において価値が残りにくいとされる理由の一つです」

 そこで平松さんが強く訴えるのは、ただ〝消費〟するための家ではなく、30年後に〝資産〟として残る家を選ぶこと、建てるということだ。〝資産〟として価値が残っている家なら、売却代金を施設への入居資金にする、コンパクトな家に住み替えるなど、老後の選択肢を広げることも可能になってくる。

 「住宅における資産価値とは、新築時の価値をどれだけ持続できるかがテーマです。加えて耐久性と耐震性、省エネ性に優れた家かどうか。こういった高性能の家は、将来的な経済メリットに直結する〝資産構築型の家〟です。

 高性能の家とは、国が定めた厳しい基準をクリアした長期優良物件のほか、エネルギー消費量の収支を実質ゼロ以下にするZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)のこと。

 太陽光発電による売電収入が得られたり、日々の光熱費も大幅に削減できたり、経年によるメンテナンス費を抑えられたりします。そのため、住んでいる間の維持費、すなわちランニングコストを劇的に減らすことが可能なのです。

 こういった維持費が安く快適な家は中古市場でも価値が認められやすく、将来的に売却しやすいという利点も。その結果、購入費と維持費、売却料金といったトータルコストを見ると、〝消費型の家〟と比べて数千万円もの開きが出る場合も少なくありません」

 つまりは初期コストをかけることで将来的に家を資産として残すというのが、〝出口戦略〟としてベストな選択肢と言えるのかもしれない。

利便性を求めるならマンションも選択肢の一つ。ただしトータルコストは高い傾向に

 では、分譲マンションの場合はどうだろうか。

 「購入して数十年後と考えると、一般的に〝出口戦略〟は取りにくいです。都市部においては、インフレによって購入時より高く売却できるケースもあります。当然、築年数の浅い物件であれば、耐震性や性能の面から見ても需要が高いです。しかしながらマンションは築年数が経つにつれて価値が下がりやすく、特に35年、40年と経過すると売却が難しくなるということも想定しておきましょう」

 たとえ資産価値が下がったとしても、最終的には土地が売却できる可能性が残されている戸建てと比べると、老後を見据えた〝出口戦略〟のうえではマンションはやや分が悪いといえる。

 「一方で、庭の手入れや建物の管理などが必要な戸建てに対し、マンションは共用部の管理が行き届いているため、こうした負担が少なく、日々の手間を抑えられるという利点もあります。駅近な物件も多いですし、利便性を求める人には最適です。

 注意すべきは管理費や修繕積立金といった月々の費用。これらは住宅ローンを完済したあとも支払いは続くため、長期的に見るとトータルコストは高くなりやすいのが特徴です。さらに修繕積立金は、建物の老朽化やインフレに伴って値上がりする傾向にあり、老後の家計を圧迫してしまうかもしれません」

 結局のところ、どちらを選ぶのが正解なのか。平松さんは「その人のライフプランによる」と前置きしつつ、判断の土台となる考え方を教えてくれた。  

 「大切なのは、今の年収や貯蓄、そしてこれからどう生きていきたいかという〝現在地〟と〝目的地〟を明確にすることです。その上で、マンションと戸建てそれぞれの道筋をシミュレーションし、自分の人生の目的に合致する方を選んでいく。住宅は人生で最大級の支出ですから、戦略なしに選ぶのはあまりにもリスクが高いと言えるのではないでしょうか」  

 まさに家づくりと人生は切っても切り離せない関係。数十年のローンが終わった時に、手元に丈夫で価値のある家が、資産として残っていると、老後の暮らしに安心が生まれるはず。では、30年後に価値を残すためにすべきことは何なのか、中古物件という選択肢はどうなのか。続く連載の第2回では、より具体的な事例をもとに紹介していく。

「よりよい家づくりを提案する工務店をテーマ」に全国で同業に向けて講演会を開催するほか、同業工務店のコンサルも行っている平松明展さん。全国の工務店とユーザーをつなぐプロジェクト「SUMMUT(スムット)」を主宰している

2026年1月に発行された最新著書「お金の不安が消える 住まいのコスト大全 快適に暮らせて資産が残る家の選び方」(KADOKAWA)。住宅購入・リフォームで削れる費用について、図表などを交えてわかりやすく説明している

Profile:平松明展

ひらまつあきのぶ/「平松建築株式会社」代表取締役社長。1980年静岡県磐田市生まれ。19歳から大工として10年間で100軒以上の住宅を解体、修繕し、住宅の性能や特徴を現場で体得。2009年に平松建築を創業。会社経営を行いながらも、ドイツやスイス、アメリカに赴き世界中の家づくりを学ぶほか、地震後の現地取材を行うなど、地域の気候風土にあった家づくりを研究し続けている。著書に『住まい大全 ずっと快適な家の選び方、つくり方、暮らし方』『住んでよかった家 理想の暮らしがずっと続く15の空間』『お金の不安が消える 住まいのコスト大全 快適に暮らせて資産が残る家の選び方』(KADOKAWA)がある。リアルな家づくり情報を発信するYouTubeチャンネル「職人社長の家づくり工務店」のチャンネル登録者数は23万人を超える。

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