お金ズボラさんのための〝老後トク〟するお金の話①

知らないと損をする⁉いざという時、頼りになる公的保障のこと

文●杉山幸恵

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 病気やケガ、失業など、人生はいつ何が起こるかわからないもの。そして、ミドルエイジならではの老後の不安。それらのために、民間保険などで備えをしている人も多いはず。しかしながら、なかには民間の保険に頼らずとも、公的保障で十分にカバーされているものも少なくない。その結果、本来なら資産として残したり、投資にまわしたりと、もっと役立つはずだったお金を失ってしまうなんてことも起こり得るのだ。もちろん病気もケガも不測の事態、絶対の正解はないだろう。しかし、「難しい正解を探すより、まずは〝今持っている権利〟を知るだけで、老後の不安は激減します」と語るのは、2800人以上の家計改善を支援してきたファイナンシャルプランナーの塚越菜々子さん。日常生活におけるさまざまなリスクに備えるためにある社会保障制度のなかでも、もっとも身近な〝社会保険〟もその〝今持っている権利〟の一つ。そんな社会保険について、塚越さんに3回にわかってわかりやすく説明してもらう。

毎月支払っている社会保険料、実際に使える公的保障を知っておくことが大切

 社会保障制度というのは、病気やケガ、失業、老後など、暮らしの中で突然起こりうるさまざまな人生のリスクに備えるための仕組みのこと。自分で備えられることもあるが、突発的な出来事や、個人ではとてもカバーしきれないリスクも少なくない。そうした「誰に、いつ起こるかわからないこと」に対して、みんなで助け合おうという考え方が、社会保障制度のベースにある。

 そして、この社会保障制度のなかで、もう少し範囲を絞ったものが社会保険。年金や医療保険、介護保険、労災保険などがそれにあたり、多くの人が日常的に関わっているのではないだろうか。社会保険は原則、誰もが加入する〝義務〟があるが、その〝権利〟については正確に把握していない人が多いと、塚越さんは言う。

 「社会保険は、社会全体でお金を出し合って成り立っている〝みんなの保険〟です。ただ、保険料は給与から天引きされていることが多く、自分で払っているという実感を持ちにくいのが実情です。消費税などの税金も社会保障に使われていますが、こちらも同様に〝支払っている意識〟を持ちづらいですよね。

 その結果、保険料をきちんと納めていて、本来使える権利があるにもかかわらず、そのことに気づかないまま、さらに民間保険に加入してしまう、ということも起こりがちです」

 社会保険を理解するうえで大切なのは、〝自分はすでに何を持っているのか〟を知ること。まずはそこをきちんと押さえておくことで、無駄な負担を防ぐことにもつながっていくという。

 「これはお客様によくお伝えしている例えなのですが、たとえば『今日はカレーを作ろう』と思った時、まず冷蔵庫を開けて、何が入っているかを確認しますよね。そして、足りないものだけをスーパーに買いに行くはずです。

 この〝冷蔵庫に入っているもの〟が、社会保険だと考えてみてください。社会保険は、すでに保険料を払って〝買ってある〟ものなんです。にもかかわらず、中身を確認しないまま、カレーの具材をすべてスーパーで買いそろえてしまったら、同じものがダブってしまいますよね」

 塚越さんは、「意外と多くの人が、給料から天引きされている社会保険の〝使える権利〟を認識していません」と話す。その結果、すでに社会保険でカバーされている内容なのに、不安に煽られて民間の保険に過剰に入ってしまう…。これこそが、〝お金ズボラさん〟が陥りがちな最大の〝損〟なのだ。

 「まずは自分が何を持っているかを知る。そして不足している部分だけを民間の保険などで補う。この順番にするだけで、無駄な支出が抑えられ、その分、今を楽しむためのお金や将来の運用に回せるようになります」

民間の保険に加入する場合は社会保険との〝ダブり〟を見極めることが必要

 では、ミドルエイジである私たちが知っておくべく、社会保険にはどんなものがあるのだろうか。塚越さんに今と、そして老後のために必要なものを教えてもらった。知っているものもあるかもしれないが、改めておさらいの意味も込めてチェックしてみよう。

 まずは保険適用の医療費が対象となる高額療養費。医療費の負担が家計を圧迫しないよう、同一月に支払う医療費の自己負担額の限度額が定められており、一定の限度額を超えたら、その額が支給される。

 「『がんの治療をすると、家計が破綻してしまうのでは』と不安に感じている人は、実は少なくありません。でも、がん治療で最も効果があるとされているのは、いわゆる標準治療と呼ばれるもので、健康保険が使えます。自己負担は原則3割で、さらに高額療養費制度によって月ごとの負担額には上限も設けられています。

 こうした仕組みを知らないままだと、不安ばかりが先に立ってしまい、『もしものために』とがん保険や医療保険にたくさん加入してしまいがち。もちろん個室に入院したいなどの希望があれば、それにかなった民間保険は必要です。でも社会保険でカバーされる部分を確かめず、過剰にあれもこれもと、加入してしまうと結果的に〝損〟をすることに」

 加えて、病気やケガで一定の障害を抱えることになり、仕事や日常生活が制限されることになった場合に受け取れる障害年金。家計を支える人が亡くなった時、遺族が経済的に困らないように支給される遺族年金。これらもつい民間保険に頼りがちで、結果的に社会保険との〝ダブり〟が出やすいものだそう。

 「ほかにも〝ダブり〟が出そうなケースで言えば、病気やケガで長期間会社を休むことになった時の傷病手当金。会社から給与が支払われない場合、基準となる標準報酬の日額の約3分の2が最大1年半支給されるものです。

 所得補償保険など民間のものもありますが、この制度を利用しない手はないでしょう。ただし、国民健康保険加入者は、この給付を受けることができません。貯蓄や民間の保険などで備えておくことが必要です」

 仕事中や通勤中の事故・災害などによって労働者がケガや死亡した場合に給付される労災保険のほか、介護休業給付金も働くミドルエイジが知っておくべき社会保険だ。

「介護休業給付金はイメージとしては、育休の介護版のようなものですね。育児休業と同じように、家族の介護のために休業を取得した場合に雇用保険から給付金が支給されます。ただし、大きな違いは期間の短さです。

 育休が原則として子どもが1歳、場合によっては2歳まで取得できるのに対し、介護休業はおおむね3か月と、かなり短い期間に限られています。もちろん、その間は手当が出るのですが、ここで大切なのは、この制度を〝介護をするための期間〟だと考えないこと。介護休業は、目の前の介護を担う時間というよりも、〝この先10年続くかもしれない介護に備えて、体制を整えるための期間〟だと捉えるほうが現実的です。3か月介護をしたからといって、その後に親が介護不要の状態になるわけではありませんから」

ミドルエイジからのステップアップやライフシフトに役立つ公的保障も

 この先や老後の働き方のことを考えて、ステップアップやライフシフトをしようと考えているミドルエイジに向けた保障も教えてもらった。

 「みなさんご存じかとは思いますが、雇用保険の基本給付、いわゆる失業保険ですね。雇用保険は、これまでかけてきた年数が長いほど、給付を受けられる期間も長くなる仕組みになっています。

 今は働く期間そのものがどんどん延びています。たとえば50代前半でも、そこからまだ十数年、十分に働くことができることでしょう。そうした先の働き方を見据えて、あえて転職を選ぶ人も増えてきていますし、そういう場面で雇用保険は、実はしっかりと力になってくれる制度なんですよね。

 また、雇用保険には、スキルアップや学び直しのためにかかる費用の一部を、国が補助してくれる教育訓練給付金という制度も。そのうち専門実践教育訓練は45歳未満だと、さらに教育訓練支援給付金という手厚い給付があるので、比較的早い段階で今後の働き方を考えて次のステップに進みたい人にとって、心強い仕組みです。

 この教育訓練給付金は、〝失業しないと使えない〟と思われがちですが、実は在職中でも利用できます。働きながら勉強をして、その費用の一部が戻ってくる、という形です」

 専門実践教育訓練のほかにも、雇用の安定・就職の促進に資する一般教育訓練や、再就職及び早期のキャリア形成に資する教育訓練が対象の特定一般教育訓練といった給付金制度も。これらも在職しながらの利用ができるほか、年齢制限がないのがポイント。ただし、雇用保険の加入期間など、支給要件が異なるため確認が必要だ。

 社会保険で利用できる公的保障を正しく知り、無駄にお金を払っている部分がないかを見極める。そうして浮いたお金で〝今〟を楽しみつつ、将来の不安を解消していく。これが、お金ズボラさんが目指すべき〝老後トク〟への第一歩だ。

 「こうした公的な保障や給付制度は、本当にたくさんあります。全部を把握するのは大変ですが、〝知らないまま使えない〟のはもったいないものばかりです。だからこそ、最低限〝知っておくべき制度〟を押さえておくことが大切なんですよね」

 続く連載第2回では、公的保障のなかでも最も関心が高いであろう〝年金〟の仕組みについて、お金ズボラさんでもわかるよう塚越さんに解説してもらう。

夫と2人の子どもと暮らすワーキングマザーである塚越菜々子さん。税理士事務所で法人の労務・税理に携わる中で、一般消費者や従業員のマネーリテラシーの底上げの必要性を実感。保険や金融商品を取り扱わないファイナンシャルプランナーとして独立した

2025年6月に発行された最新著書「ファイナンシャルプランナーのお金の知識『暮らしでトクする部分だけ』まとめました」(KADOKAWA)。FP1級の知識から〝暮らしのトク〟に直結する部分だけ抜き出して、誰にでもわかるよう優しくまとめた一冊だ

Profile:塚越菜々子

つかごしななこ/1984年、神奈川県生まれ。保険や金融商品を取り扱わない独立系ファイナンシャルプランナー。株式会社KANATTA代表。税理士事務所に15年間勤務し、500件を超える企業や個人の財務経理に携わる。2017年に独立後、「お金の悩みから解放され、自分の人生を思い通りに生きるサポートを」をモットーに、これまでに2800人以上の家計改善や資産運用を支援。「専門的なお金の知識をわかりやすく」をテーマにSNS発信にも力を入れ、「FPナナコ」名義で活動。YouTube登録者数は11万人を超える。多数のメディア出演があるほか、『書けば貯まる! 共働きにピッタリな一生モノの家計管理』(翔泳社)、『お金の不安をこの先ずーっとなくすために今できる46のこと』(扶桑社)、『「扶養の壁」に悩む人が働き損にならないための38のヒント』(東京ニュース通信社)などの著書も。

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