ミドルエイジから考えたい〝おひとりさま〟の老後②

老後はご褒美タイム。終活ではなく、人生後半戦の作戦会議を立てよう

文●杉山幸恵

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 ミドルエイジのみなさんに「そろそろ老後のことを考えましょう」と提案しても、「いやいや、まだ何十年も先だから」「40代で老後のことを考えるのは早すぎる」なんて答えが返ってくるかもしれない。しかし、それは終活=終わるための活動、人生を片付ける準備と考えているからではないだろうか。でも、この考えこそが「老後を不安にする原因の一つ」と、長年おひとりさまのサポートを続けてきた司法書士の太田垣章子さんは言う。そこでミドルエイジに向けたおひとりさま老後に関する連載の第2回では、終の棲家の話をはじめ、この先の将来を前向きに生きるためのアドバイスをもらった。

「人生の後半戦、どんな生き方をしたいか」の作戦会議を早めに始めよう

 「老後に備えよう」「終活をしよう」。そんな言葉に40代、50代がピンとこないのは当たり前。現在進行形で仕事に子育てに毎日が慌ただしいのに体力は下り坂。正直、将来のことより今が精いっぱいという人が多いのではないだろうか。「そんな状況で終活=終わるための活動のことを考えましょうと言われても、少し寂しくて後ろ向きな気分になりますよね」と、太田垣さんは語る。

 「人生100年時代と言われる今、定年後にはまだ30年、40年の時間が残されています。私はこの時間を、終わるための活動期間ではなく、人生後半戦の〝ご褒美タイム〟だと捉えています。これって、子育ても仕事の重責も下ろして、もうワガママを言っても許される、自分へのご褒美の期間なんです。そうすれば終活とはすなわち、ご褒美を最大化するための〝作戦会議〟になるはずです」

 老後の話というと、つい「いくらお金が必要か」という話になりがちだが、本来はまず「人生後半戦をどう生きたいのか」を考えることが先決だという。

 「社会とつながり続けたいのか、何らかの仕事をしていたいのか、それとも余暇を楽しみたいのか。都心に住みたいのか、自然の多い郊外で暮らしたいのか。自分の趣味や得意なことを生かして、どんな生活を送りたいのか。そうした生き方によって、住まいの選択も大きく変わってきます。

 たとえば、現役時代は通勤に便利な都心の家賃の高い場所に住んでいても、後半戦は自然の多い地域で暮らしたいのであれば、住宅費は抑えられるかもしれません。空き家が増えている今なら、空き家を購入してフルリノベーションしても、それほど住居費がかからないケースもあります。まずは『どう生きたいか』を決めることが、何よりも重要なのです。

 そのうえで、自分は生涯稼ぎ続けられるタイプなのか、そうではないのか。働き続けたいのか、ボランティア中心に生きたいのか。そもそもでいくつまで働くつもりなのか。こうしたことは、40代・50代のうちに考えておいたほうがいいと思います。

 親からの資産がある人なら、必ずしも無理に働かなくてもいいかもしれません。一方で、相続に頼れない人は、自分自身でどれくらい稼げるのか、退職金はいくらくらいなのか、年金はどの程度見込めるのかを踏まえて、生活のイメージを描く必要があります」

 理想と現実を整理して考えていくことで、「どんな暮らしが現実的か」が見えてくるはず。収入や資産とのバランスを考えれば、理想だけを追い求めるのは難しい場合もあるだろう。だったら、どんな生き方なら納得できるのか。ミドルエイジであれば、資格を取る、学び直すといった選択肢もまだ十分にある。将来、経済的に厳しくなりそうだと感じたなら、何かしら収入につながるスキルや仕事を今のうちから考えることもできるはずだ。

 「60代、特に65歳を過ぎてからでは、できることはどうしても限られてしまうかもしれません。でも、これから高齢者が増えていけば、料理ができる人が高齢者の家を訪ねて食事を作る、といった仕事も確実に需要が出てくるでしょう。ウェブライターになる、AIを活用して仕事をするなど、形はいろいろあります。副業が可能なら、老後に月5万円、10万円でも稼げる仕組みを、40代・50代から少しずつ仕込んでおくこともできるはずです。

 こうした生き方や働き方を考えないままでは、老後にいくらお金が必要なのかも見えてきませんよね。さらに、医療との向き合い方によっても、かかるお金は大きく変わります。最先端の治療をできるだけ受けたい人もいれば、一定の年齢を過ぎたら人間ドックは受けない、標準治療だけにする、積極的な延命治療は望まない、という選択をする人もいます。どれが正解ということではなく、その人自身の判断ですが、選択次第で医療費は大きく変わります。

 だからこそ、先に決めるべきなのは〝お金〟ではなく〝生き方〟です。生き方が定まらないまま、『老後が不安だ』と言い続けている限り、不安は消えません。自分がどう生きたいのかを具体的に考えることが、老後の不安を減らす第一歩になるのです」

〝現役時代の家〟と、ご褒美タイムの拠点となる〝人生後半戦の家〟は別物と考える

 ご褒美タイムを謳歌するために、最も重要で、かつ最もお金がかかるもの一つが住まいだろう。太田垣さんは「現役時代の家と、人生後半戦の家は別物だと考えるべき」と話す。

 「持ち家でも賃貸でも自分が80代でも住み続けていることを想像してみてください。その家は築何年ですか? メンテナンス費用や修繕積立金は高騰していませんか? ローンは完済できていますか?家賃は払えますか?と。

 もし、今の家を売ってリタイア後に安い賃貸に住もうと考えているなら、それは非常に甘い考えかもしれません。歳を重ねるごとに賃貸住宅を借りるハードルは一気に上がります。家主からすれば、認知症や孤独死のリスクがある高齢者に貸し渋るのは、経営判断として当然だからです。

 特に女性の場合、60歳を過ぎると賃貸住宅を新たに借りることは、現実的にかなり難しくなります。だからこそ、50代のうちに終の棲家をどうするかを考えておくことが大切なんです。たとえば、〝この先40年住み続けられる賃貸〟を想定して、家賃を無理なく払い続けられる物件へ、早めに住み替えておくという選択もあります。

 また、意外と見落とされがちなのが、建物の築年数です。建物が老朽化して取り壊しが決まり、『立ち退いてください』と言われるころ、その物件に住んでいるのは高齢者であるケースが少なくありません。高齢になってから住まいを失うと、新たな住居を探すのはさらに困難になります。だからこそ、年齢だけでなく、建物の将来まで見据えた住まい選びを、早い段階から考えておく必要があるのです」

 では、どのような視点で〝人生後半戦の住まい〟をプロデュースすればいいのだろうか。

 「まずはご褒美タイムの拠点を探す〝作戦会議〟として、ワクワク楽しみながら検索してみてください。都会で美術鑑賞やコンサート観賞をしたいならアクセスのいい場所を、家庭菜園をしたいなら郊外を。たとえば最近は空き家も増えていますから、数百万円で安く中古物件を買って自分好みにリノベーションするという手もあります。

 どんな場所で、誰と、どんな景色を見て過ごしたいか。その優先順位が決まれば、不足しているお金をどう稼ぐかといった、具体的なアクションプランも見えてきます」

 ただ、ミドルエイジが抱きがちな「老後は自然豊かな田舎でスローライフを」という憧れについては、さまざまな現場を見てきた専門家として冷静に判断することを促している。

 「都会のマンション暮らしに慣れた人が、いきなりポツンと一軒家に移住して失敗するケースを数多く見てきました。田舎は都会よりも人との繋がりが濃く、それが心地よいこともあれば、負担になることも…。

 もし移住を夢見るなら、現役のうちに足繁く通って、週末を過ごしたり二拠点生活を体験したりして、現地で『泊まっていけば?』と言ってもらえるくらいの知り合いを作っておくのもいいかもしれませんね」

 「何事も準備なしには、上手くいきません」と太田垣さん。人生後半戦に向けて若いうちから自分の中で会議を始めて、時間をたっぷりかけて作戦を練れば、 きっと素敵な未来が待っているはず。老後が間近に迫ってきてから急ピッチで物事を進めるより、ソフトランディングを目指すほうが安心も大きい。

 「ご褒美タイムを存分に堪能するための準備は、決して後ろ向きなことではありません。むしろ、自分らしく最高の人生を生き抜くための、最もクリエイティブな作業なんです。ぜひ、今から自分の〝したいこと〟や〝好き〟を探す作戦会議を始めていきましょう」

 連載を締めくくる第3回では、このご褒美タイムに潜むリスクを回避するための備えについて、引き続き太田垣章子さんに話を聞いていく。

年間60回以上、累計700回以上にわたり、家主および不動産管理会社向けに賃貸トラブル対策や、おひとりさま・高齢者に向けた終活に関する講演も行っている太田垣章子さん

2025年12月に発行した最新著書「『最後は誰もがおひとりさま』のリスク33」(ポプラ新書)。その豊富な経験や知見をもとに2023年に出版した「あなたが独りで倒れて困ること30」をもとに、大幅に加筆修正した一冊だ

Profile:太田垣章子

おおたがきあやこ/司法書士、賃貸不動産経営管理士、合同会社あなたの隣り代表社員。30歳の時、生後6か月の長男を抱えて離婚、働きながら6年の勉強を経て2001年司法書士試験に合格。2006年に独立し、2012年事務所を東京へ。18年間の事務所経営を経て、2024年より顧客に寄り添ったコンサルティングをするためフリーとなる。これまで延べ3000件近くの家賃滞納者の明け渡し訴訟手続きを受託してきた、賃貸トラブル解決のパイオニア的存在。現在は「住まいは生きる基盤」をモットーに、住まいを中心とした終活に関するコンサルティングに従事。頼るべき親族がいない、頼りたくないという高齢者のサポートにも注力している。「家賃滞納という貧困」「老後に住める家がない!」「『最後は誰もがおひとりさま』のリスク33」(すべてポプラ社)などの著書がある。

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