ミドルエイジから考えたい〝おひとりさま〟の老後①

パートナーや子どもがいてもいなくても、最後はみんなおひとりさま

文●杉山幸恵

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 ミドルエイジのみなさんは今現在、自分の老後のことをどこまでリアルに考えていますか?人間誰しも必ず、老います。そして、自分では意思決定ができなくなる日がやってきます。亡くなる瞬間まで自分で判断し、行動するなんてことは現実的ではありません。

 「でも、そうなった時は、誰かがサポートしてくれるでしょ」と思っていませんか?

 では、その〝誰か〟がいなかったとしたら?「パートナーや子どもの有無にかかわらず、みなさんは1億総おひとりさま時代に生きているんだということを認識する必要があります」と強く訴えるのは、〝人生100年時代における家族に頼らないおひとりさまの終活〟を提言する司法書士の太田垣章子(あやこ)さんだ。そこで老後を安心して過ごすために、ミドルエイジの今こそ知っておくべきこと、備えておくべきことを3回にわたって教えてもらった。

多くの女性を高い確率で待ち受ける〝おひとりさま老後〟という現実

 老後のことを考えるうえで、「私は結婚しているから大丈夫」「子どもが将来なんとかしてくれるはず」。そんなふうに考えているミドルエイジの女性も少なくないはず。しかし、長年、高齢者の住まいや終活をサポートしてきた司法書士の太田垣章子さんは、「老後、女性がおひとりさまになる確率はとても高い」と警鐘を鳴らす。

 「そもそもで平均寿命は女性のほうが長いですからね。加えて、夫が年下ということも増えてきましたが、全体的には年上、あるいは同年代というケースが依然として多い。結婚していても、パートナーが認知症になったり病気になったりした瞬間、家庭内での意思決定や手続きを一身に背負う〝実質的なおひとりさま〟状態になります。そして最後は、多くの女性が物理的にもおひとりさまとして残るのです」

 もちろんほかにも、自分の人生を謳歌してきた生涯未婚の人や、離婚を機に単身となった人、仕事に夢中になるあまり気づいたら婚期を逃していた人など、いろいろなタイプのおひとりさまがいることだろう。いずれにしても老後にさまざまな問題が待ち構えているのは間違いない。

 その理由として太田垣さんは、〝家族が支え合う〟時代のままで時が止まった日本の制度に問題があると指摘する。急速に高齢化が進む現代においてなお、制度だけはまだ〝呼べばすぐに駆け付けてくれる家族がいる〟という前提だからだという。

 「昔は3人、5人、多いと10人の子どもがいた時代もあり、親の面倒を代わる代わる看るというのが当たり前でした。でも、今は1人か2人が当たり前。家族や親族との関係も希薄化してきています。

 そして肝心の子どもたちといえば、なにもかも費用が高騰していて、自分たちが生きるのに必死。親の介護をする余裕がないですし、また介護離職をしたことで貧困に苦しめられるなんてことも。『サザエさん』のような大家族モデルを基準に作られた日本の制度は、もはや現実と乖離しているのです。

 じゃあ、自分がお金を貯めておけばいいのかと言えば、そんな簡単な話でもありません。かつての日本では、親の通帳を預かった子どもが『親の入院費だから』と言えば、銀行が便宜を図ってくれるような〝いい塩梅のなあなあ〟が通用していたんですよね。しかし、2000年に成年後見制度が導入されたあたりから、金融機関や行政の対応は劇的に変わりました。

 詐欺防止や権利保護のため、〝本人の意思確認〟が鉄壁のルールになったのです。たとえ実の親子であっても、本人の判断能力が怪しくなれば、銀行口座の解約や定期預金の引き出し、さらには介護施設の入所契約さえ代行できないこともあります」

 もし認知症が進んでしまったら、「本人のお金でホームに入れよう」と子どもや親族が助けようとしても、時すでに遅し。金融機関に知られると、もうお金が動かせない。結局は家族の持ち出しになるか、非常に制約の多い法定後見制度を利用せざるを得なくなる。つまりは自分のために貯めたお金を、いざという時に使えなくなるのだ。

 当然のことながら、おひとりさまが亡くなってしまったあとも大問題だ。

 「たとえば、私が銀行口座に十分な預金を持っていたとして、子どもはおらず、姉もすでに亡くなっていて、身寄りが誰もいない状態だったとします。その場合、私が亡くなったあと、誰が火葬を行うのかというと、何の備えもしていなければ、最終的には行政が対応するしかありません。

 遺体を長期間保管し続けることは衛生上できないため、行旅死亡人(こうりょしぼうにん)という扱いで、行政が火葬し、無縁仏として納骨されることになります。仮にその火葬や納骨に50万円かかったとしましょう。私は十分に資産を持っているのだから、行政としては本来、その費用を私の口座から回収したいはずです。しかし、行政であっても勝手に個人の銀行口座からお金を引き出すことはできません。

 回収するためには、相続財産清算人を選任する申し立てを行い、その清算人を通じて、立て替えた費用を請求する必要があります。ただ、行政にとっては、そもそも資産があるかどうかも分からない人について、そこまでの手続きを行うのは現実的ではありません。

 つまり、〝自分はお金を持っている〟と言うだけでは意味がなく、きちんとした備えをしていなければ、結局は行政任せになってしまうのです。現在、無縁の骨壷は累計およそ7万柱にのぼると言われており、その火葬費用などはほぼすべて行政が負担しています」

今だからできること、今こそすべきことを、少しでも若いうちから行動へ

 では、そうならないためにしておくべきことは何なのか。老いを実感するよりも前、現役世代の今こそ、知っておきたいことを教えてもらった。

■身元保証会社等がどういうものか、どんなところがあるかを予めリサーチしておく

■任意後見のことをしっかり把握する

■万が一の時にどこまで治療を受けるか、延命治療をどうするかを決めておく

■高齢者向けの施設のことを知っておく

■自分ではできない火葬・納骨・死後のことを想像してみる

■住宅ローンの残高と現在の売値は常にチェックして選択肢を模索する

■代々の墓を維持できるか検討しつつ、墓じまいの知識も入れる

 どれもミドルエイジで考えるにはまだ早いのでは?と、他人ごとのように思った人もいるだろう。しかし、「今日面倒なことは、明日もっと面倒になる。だから早い段階から作戦を練ることが大事」と太田垣さんは言う。体力も理解力もある今こそ、〝自立した備え〟を自分ごととして捉える必要があるというのだ。

 「例えば高齢者向けの施設。有料老人ホームに特別養護老人ホーム、老人保健施設、グループホーム、サービス付き高齢者住宅など、いろいろな種類があります。では、それらの違いはわかりますか?自分はどのタイプの施設に入りたいか、知っておくべきでしょう。それなりの施設はもちろん入居料も高額。そのためには若いうちから蓄えておく必要だってあるのですから。

 40歳を過ぎるとみなさん、〝介護保険料〟を徴収されています。でも、そのお金がどんなサービスに使われ、自分がどう利用できるのかを知っている人はほとんどいないはず。そしていざ70代、80代になって、そのサービスを使いたいってなった時には、もうややこしい書面とか見るのが困難なんですよ。老眼で目をかすむし、複雑な制度を理解する力も低下しているかもしれないし。

 だからこそ、頭がクリアで、内容を自分に落とし込めるミドルエイジのうちに理解しておこうという話なんです。現役のうちに制度を理解しておけば、『自分ならこうしよう』というシミュレーションができます。まずは他人ごとという意識を捨て、自分の将来をプロデュースする感覚を持ってほしいのです」

 「誰かが助けてくれるだろう」は、もう通用しない時代。第1回ではおひとりさまが抱える老後のリスクについて教えてもらったが、第2回・3回では具体的な備えや対策についてを掘り下げていく。

「全国賃貸住宅新聞」での長期連載のほか、「現代ビジネス」「プレジデントオンライン」「相続会議」「週刊ダイヤモンド」など、各種媒体に執筆している太田垣章子さん

2025年12月に発行した最新著書「『最後は誰もがおひとりさま』のリスク33」(ポプラ新書)。その豊富な経験や知見をもとに2023年に出版した「あなたが独りで倒れて困ること30」をもとに、大幅に加筆修正した一冊だ

Profile:太田垣章子

おおたがきあやこ/司法書士、賃貸不動産経営管理士、合同会社あなたの隣り代表社員。30歳の時、生後6か月の長男を抱えて離婚、働きながら6年の勉強を経て2001年司法書士試験に合格。2006年に独立し、2012年事務所を東京へ。18年間の事務所経営を経て、2024年より顧客に寄り添ったコンサルティングをするためフリーとなる。これまで延べ3000件近くの家賃滞納者の明け渡し訴訟手続きを受託してきた、賃貸トラブル解決のパイオニア的存在。現在は「住まいは生きる基盤」をモットーに、住まいを中心とした終活に関するコンサルティングに従事。頼るべき親族がいない、頼りたくないという高齢者のサポートにも注力している。「家賃滞納という貧困」「老後に住める家がない!」「『最後は誰もがおひとりさま』のリスク33」(すべてポプラ社)などの著書がある。

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