日本発で米国での展開もスタート、スタートアップ支援に注力するZoomも期待

尿がん検査「マイシグナル」のCraif、GRIC 2025でGRAND AWARDやZoom賞を受賞

文●大塚昭彦/TECH.ASCII.jp

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ヘルスケアスタートアップのCraifが、GRIC 2025のピッチコンテストでZoom賞を受賞した。Craif COOの水沼未雅氏(右)、ZVC JAPAN 執行役員の佐藤仁是氏(左)

 スタートアップ/成長産業にフォーカスした大規模カンファレンスイベント「GRIC 2025」(主催:フォースタートアップス)が、2025年11月11日~13日にハイブリッド形式で開催された。総登録件数は1万2000名を超え、3日目のオフラインイベント(渋谷 ヒカリエホール)にも数千人規模の来場者が詰めかけた。

 Zoom Communications(ZVC JAPAN)では、グローバルでスタートアップ支援にも力を入れており、今回のGRIC 2025にゴールドパートナーとして協賛。ピッチコンテスト「GRIC PITCH」では、がんのスクリーニング検査が自宅でできるサービス「マイシグナル(miSignal)」を展開するCraif(クライフ)に「Zoom賞」を授与した。

 なおCraifは、Zoom賞と同時に、GRIC PITCHの3テーマそれぞれで選ばれる「THEME AWARD」、全18社から1社だけ選ばれる総合アワード「GRAND AWARD」も受賞している。

Craifは今回、THEME AWARD、GRAND AWARDも受賞した

バイオ×AI技術の「マイシグナル」で、がんの早期発見を促すCraif

 Craifは、「人々が天寿を全うする社会の実現」をビジョンに掲げる、ヘルスケアスタートアップだ。現在は、バイオテクノロジーとAI技術との融合によって、世界のがん医療のあり方にイノベーションを起こそうとしている。

 Craif COOの水沼未雅氏は、現状のがん医療の問題点として「半分以上の人がスクリーニング検査を受けていない」ことを指摘する。

Craif COO(最高執行責任者)の水沼未雅氏

 がん患者の生存率を高め、医療費を低減するためには、スクリーニング検査(がん検診)の定期的な受診による「早期発見」が最も重要だ。その事実は広く知られているにも関わらず、実際のがん検診の受診率(日本)は50%にも満たない。人々が積極的に検診を受けないのは、「時間がかかる」「検査を受けられる場所(病院)が遠い」「コストがかかる」などが理由だ。

がん検診の受診率は50%にも満たないのが現状。その結果、がんのステージが進行してから発見されるケースが多く、生存率や医療費に負の影響を与えている

 そこでCraifでは、自宅でスクリーニング検査(尿がん検査)ができるマイシグナルシリーズを開発した。シリーズの主力サービスであるマイシグナル・スキャンの場合、尿サンプルを採取して郵送するだけで、10種類の臓器ごとにがん化のリスクが解析できる。リスクが高いと判定された場合は、医療機関などで精密検査を受けることが推奨される。

 マイシグナルのローンチからこれまで3年間で、2000の医療機関に提携を広げ、累計で5万回の検査が実施された。1回あたり6万円程度(マイシグナル・スキャンを定期購入する場合)と決して安い検査ではないが、「定期購入していただいている割合が50%以上」(水沼氏)と、がんの定期検診に役立てているユーザーが多いという。

現在の10種類の臓器に対してがんリスクの解析が可能

(左)がん化のシグナルが早期に表れる、尿中のマイクロRNAを解析する「尿がん検査」 (右)レントゲン検査では発見できない「ステージ0の肺がん」を発見した例も

 もうひとつ、Craifでは受検者向けの電話相談窓口を設け、検査後の“次のステップ”を案内することにも力を入れているという。マイシグナルではがんリスクが臓器ごとに判定されるため、次は病院のどの診療科に行き、どんな精密検査を受けるべきか、本人が迷ってしまうことがある。ここをCraifから案内することで、スムーズに次の検査や診察、治療につながる。

 さらに新たなチャレンジとして、Craifは米国への展開をスタートしたところだ。サンディエゴに拠点を構え、まずは米国の医療機関と提携して、検体収集などの研究開発活動を進めていく。同社CEOの小野瀨隆一氏も現地に移住したという。「日本発のテクノロジーで世界を変えるべく、挑戦を続けていきたい」と、水沼氏はコメントした。

「日本から世界に進出するスタートアップを支援したい」Zoom佐藤氏

 GRIC PITCHの審査員を務めたZoom日本法人 執行役員の佐藤仁是氏は、「がんの早期発見を実現するテクノロジーが日本から世界に出て行く、そこを何かご支援できればと考え、Zoom賞を贈らせていただいた」と、Craifへの授賞理由を説明する。

 またCraifが現在、顧客相談窓口の規模拡張に取り組んでいることから、「Zoom Phone」や「Zoom Contact Center」といったサービスを通じてそこに協力できるのではないか、とも語った。

GRIC会場内のZoomブースでは「Zoom AI Companion」や「Zoom Revenue Accelerator」を紹介し、多くの来場者が足を止めて説明を受けていた

 なおZoomでは、グローバルな取り組みとしてスタートアップ支援を強化している。たとえば、今年9月に開催した年次イベント「Zoomtopia 2025」では、米国を拠点として、AIやイノベーションを活用した個人創業者(ソロプレナー)/高成長企業を表彰する「Zoomソロプレナー 50」の取り組みを開始することを発表している。

優れた個人創業者を表彰する新たなプログラム「Zoomソロプレナー 50」をスタートしている