第13回 SORACOM対応 特選デバイス&ソリューションカタログ

「市場にない機械でも必要があれば作ればいい」 顧客と共にIoTによる課題解決を開発から量産まで伴走するTTS

インタビュー 大谷イビサ 編集●MOVIEW 清水

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 いまや様々な製品に組み込まれ、人々の日常生活を影ながら支えているIoT。その製品そのものを意識することは少ないが、様々な物がつながる現在ではなくてはならない存在であり、より便利で豊かなデジタル社会に向けて日々新たなIoTが社会実装されている。そうしたIoTを秋葉原を拠点に生み出しているのがTTSだ。

 TTSは公共性の高い案件を手掛けてきた老舗電気・通信事業者である田中電気のグループ会社で、「世の中に売っていない機械でも、必要があれば作ればいい」という考えのもと、様々なIoTを手掛けている。今回はTTSの代表取締役 CEOの小海悟士氏にこれまで手掛けてきた製品や、IoT開発への取り組みなどについてお話を伺った。

TTS 代表取締役 CEO 小海悟士氏

公共性の高い案件を長年支えてきた田中電気のIoT関連を担当するTTS

 創業75年を超える老舗電気・通信事業者の田中電気は公共インフラ分野を中心に事業を展開してきた企業。秋葉原に本社を置き、通信インフラ、無線システム、電気設備工事、機器保守などを手がけている。同社が手掛けた実績としては防災無線・行政無線、自治体向けの緊急連絡システムや公共アナウンスシステムの構築、東京都交通局の都営バス運行管理無線システム、警察向けのドローン監視連携システムなど公共性の高い案件を多数担当している。

 民間向けではテレビ放送用アンテナの保守管理や、携帯キャリアの販売代理など通信事業に深く関わっており、その通信インフラへの造詣からIoT関連の相談を受ける機会も多く、IoT開発案件を担当するグループ会社としてTTSが設立された。TTSではIoTデバイス開発や遠隔制御ソリューションの提供など、ハードウェアと通信技術を用いた事業を展開している。

 TTSも田中電気同様に秋葉原に拠点を置き、ハードウェアや電子工作に強い技術者が多く在籍しており、「世の中に売っていない機械でも、必要があれば作ればいい」という発想で取り組んでいる。「お客様から「こういう装置を作りたい」と相談いただければ、当社のエンジニアが調査し、「この構成であれば実現できるのではないか」という形で提案します。秋葉原に電子部品やモジュールが揃っているので、それらを組み合わせて試作機を作り、必要であれば量産体制へ進めることも可能で、量産も提携している工場で製造まで対応できます」(小海氏)と、ハードウェア開発まで一気通貫で対応できるのが強みだ。

TTSが手掛けるユニークなソリューション

 TTSの製品は既存製品ありきではなく、課題ありきで製品開発を進める。さらに顧客の課題解決の仕組みを作り、導入して終わりではなく、運用と改善を繰り返すことで生まれた価値を大切にし、そこから派生する新しいアイデアを製品改善につなげていくことで継続プロセスを顧客と一緒に作るのだという。

 「機器を売ることではなく、課題解決の仕組みを作り、運用まで責任を持つことです」(小海氏)というTTSのこだわりは、様々なユニークなソリューションを生み出している。それではTTSの主要ソリューションをいくつか紹介しよう。

遠隔始動制御GPSデバイス:大手中古車販売店が採用する車両管理ソリューション

 「遠隔始動制御GPSデバイス」は、大手中古車販売店に採用されている車両管理ソリューション。本製品は、ローン支払いが滞った際に遠隔からエンジンの始動を制御することが可能だ。遠隔制御機能は走行中には作動しない安全設計となっており、スターター回路にのみ干渉することで危険のない制御を実現している。また、同社はこれまでに対応検証を重ね、約4000車種分の配線・取り付けマニュアルを独自に蓄積しており、幅広い車種への実装を可能としている。

 本デバイスは車両の位置情報を取得するGPS機能も備え、支払い未履行時の車両所在確認にも活用されている。大手中古車販売店では導入後、ローン回収率の向上という実証的な効果が得られており、「車両回収リスクの低減」「支払い遅延の抑止」といった経済的効果も生み出している。

「「本当に遠隔で止められるわけないだろう」と思っているが、いざ止まると「本当に止められるのか」と驚いてローンの支払いが優先的になる」(小海氏)という遠隔始動制御GPSデバイス

AIドライブレコーダーによる動態管理ソリューション

 法人車両向けに提供しているAI搭載型ドライブレコーダーを核とした動態管理ソリューションは、車両のリアルタイム位置管理と安全運転支援を目的とし、物流業界や営業車を保有する企業を中心に導入されている。

 クラウド連携型の車載デバイスにより、速度超過、急加速、急減速などの運転特性を検知できるほか、ドライバーの危険挙動もAI映像解析により把握可能だ。具体的には、ながらスマホ、居眠り運転、前方不注意などをカメラ映像からリアルタイム検出し、警告機能と運転改善レポートを提供することで、法令遵守や事故防止に加え、運送品質の向上やドライバー教育の効率化にも寄与している。また、クラウド管理により全車両の運行状況を一元管理でき、管理者はWeb画面から稼働状況・危険運転履歴・映像記録を確認し、運行管理業務を効率化できる。

ドライバーの挙動を分析可能なAIドライブレコーダー

非車両資産にも対応するIoT資産管理ソリューション

 TTSは車両以外の資産を対象としたIoT資産管理ソリューションも提供している。このソリューションは、コンテナ、建設機械、産業機器、電動アシスト自転車などの「移動する資産」の所在管理や稼働状況の可視化するもの。GPS通信デバイスとクラウド管理システムを組み合わせることで、資産の位置情報や運用状況を遠隔から一元管理できる。

レンタル機材の位置などを把握できるIoT資産管理ソリューション

 また、設置環境に電源が存在しない場合にも対応するため、同社はソーラーパネルと内蔵バッテリーを組み合わせた電源供給方式を開発し、長期間の独立稼働を実現している。さらに資産管理ソリューションとしてはGPS追跡までは必要としないケースに向けて、簡易に位置情報が取得できるBluetoothトラッカーを提供している。

AI活用による運用効率化と技術継承の推進

 TTSはIoTソリューションの提供に加え、AIを積極的に活用したサービス高度化を進めており、AIを単なる業務効率化ツールとしてではなく、「現場課題の解決」と「専門スキルの継承」を実現するための実践技術として位置づけている。

 具体的には、AIドライブレコーダーの映像解析機能を強化し、安全運転支援ソリューションを提供している。映像とセンサーを組み合わせた危険運転検知に加え、画像認識AIによるシートベルト未着用検出、一時停止違反検知、信号無視判定などの機能拡張にも取り組んでいる。これにより、車両管理の高度化と運転行動データの活用が進みつつある。

 また、AIによるノウハウ継承にも注力している。TTSのソリューションである車両向け遠隔制御デバイスの取り付けには高度な知識が必要とされるが、4000車種以上に及ぶ車両配線データとサポート問い合わせの履歴を基に、AIによるノウハウの蓄積とその継承の開発を進めている。このシステムは、車種や症状に応じて適切な取り付けポイントや作業手順を提示するものであり、属人化しがちな現場技術の標準化とサポート効率化が可能となる。

 AIを活用したこれらの取り組みは、TTSのIoTソリューションが単なる機器導入に留まらず、運用改善と継続的な価値提供を重視する姿勢といえるだろう。

ソラコムとWIN WINなパートナーシップ

 TTSがソラコムとの協業は大手中古車販売店とのプロジェクトをきっかけとして始まった。4、5年前からSIMは採用していたが、2024年から数万、数十万という単位となり、正式に契約を結んだ。「ソラコムを評価している点はまず「難しい案件に一緒に取り組んでいただける」という点です」という小海氏は、「通信に困っている会社があるので、一度相談してみては?とソラコムから紹介をいただくケースが多くあります」と語り、海外製の製品を日本で使う際に通信がうまく接続できないケースがあり、そのようなトラブルを抱えている企業の改題解決にも前向きに取り組んでくれる点を評価しているという。

 また、ソラコムは他社にはないセキュアな仕組みを提供しており、安全性が確立されていることや、閉域網や限定的なネットワーク構成においても確かな技術で対応してもらえる点、パートナー支援とサポート体制が充実していて、技術課題の解決方針がすぐ返ってくる対応力も魅力で「TTSは振ったらなんとかしてくれる会社」と評価されていると小海氏は、ソラコムからの案件紹介による新規ビジネス機会の獲得と、通信領域における技術支援を受けられる点が大きなメリットだと語った。

 TTSは大手通信キャリア3社とも取引があるが、小規模案件では対応が進まず、相談が前に進みにくいケースが多い。一方、ソラコムはIoTに特化した通信事業者として小規模案件にも柔軟に対応し、実現に向けて積極的に取り組んでくれるという。小海氏は「GPSによる位置管理を基軸にソリューション展開していること」をソラコムから評価されていると感じており、提供して終わりではなく、運用まで伴走する必要のあるソリューションに対し、ソラコムはハードウェア・ソフトウェアの両方で相談に乗ってもらえる、とても協力的なパートナーと感じているという。

 TTSは導入後の改善にも力を入れており、運用中に発生した課題を次期製品に反映し、毎年機能改善を行う継続的なアップデート体制を持っている。このような運用サポートまで含めて対応している点はTTSの強みであり、ソラコムから案件を紹介される理由の一つとなっている。

「他パートナーとバッティングしないように距離感を取りながら、協業の場はきちんと提供してくれるのが非常にありがたい」(小海氏)

難しい課題に挑むことを歓迎するTTSの今後の事業展開

 TTSはIoTソリューション事業の拡大に向け、中長期的な成長戦略を掲げている。今年8月時点で累計3万台のIoTデバイス出荷実績を持ち、来年度には年間12万台の出荷を計画している。このうち、車両向けソリューションが約8万台、動態管理・資産管理分野が約4万台を提供する予定で、その先も継続的に成長させていく計画だ。

 今後も「社会課題の解決に直結するIoTの提供」を事業方針として掲げており、遠隔制御、車両管理、物流管理、安全運転支援といった需要の高い領域への集中を強める。また、単なるハードウェア提供ではなく、運用監視・保守支援・ソフトウェア連携を含めたトータルソリューションとしての提供力をさらに強化する方針である。

 「TTSは難しい課題に挑むことが好きな社員が多く、普通では解決できないような案件をむしろ歓迎する文化があります」という小海氏は最後に「他社で断られた、IoTで解決できずに困っているといった課題があれば、ぜひご相談いただきたい。一緒にチャレンジしていける会社でありたいと思っています」とアピールした。

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