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“ポータルとチケット”から“会話とエージェント”への転換をリード

“Salesforce対ServiceNow” …今度はSalesforceから挑戦状? ITSM市場に本格参入

2025年10月23日 07時00分更新

文● 末岡洋子 編集● 福澤/TECH.ASCII.jp

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 「ITサービスマネジメント(ITSM)」は、ServiceNowが圧倒的な存在感を示す成熟した市場だ。インシデント管理や変更管理、サービスカタログなど、企業のIT部門に不可欠な機能を担うこの領域に、新たな挑戦者が名乗りを上げた。Salesforceである。

 Salesforceは、米サンフランシスコで開催した年次カンファレンス「Dreamforce 2025」にて、AIエージェント技術の最新版「Agentforce 360」を発表した。加えて、製品体系を一新しており、「Service Cloud」も「Agentforce Service」に生まれ変わった。

 そして、Agentforce Serviceのサービス群には「Agentforce IT Service」という新サービスが含まれている。名称の通り、ITSMだ。

 同社は、15万という膨大な顧客基盤、20年にわたるService Cloudの実績、そしてAIエージェント技術を武器として携え、ITSM市場に本格参入。「ポータルとチケット」から「会話とエージェント」へのパラダイムシフトを仕掛ける。

Agentforce IT Service

従来の“ポータルとチケット”のITSMは古い

 Agentforce IT Serviceは、Dreamforceの直前となる2025年10月9日に発表された。

 「インシデント管理」や問題の根本原因を特定する「問題管理」、変更のリスク評価や承認プロセスを含む「変更管理」、「リリース管理」、プロビジョニングやアクセスなどの「リクエスト管理」、ITサービスを一元管理する「統合サービスカタログ」など、ITSMの主要機能を取り揃える。

 最大の特徴は、すべてが単一プラットフォーム上で動作することだ。従業員向けエージェントやITチーム向けツール、マネージャー向けダッシュボードが同一プラットフォーム上で動き、メタデータやワークフローを一元管理できる。

 Agentforce Service担当のエグゼクティブ・バイス・プレジデント 兼 ゼネラルマネージャーであるキシャン・チェタン(Kishan Chetan)氏は、「他のソリューションでは、エージェント用と担当者用でプラットフォームが異なり、統合のオーバーヘッドが発生してしまう」と説明する。

Salesforce Agentforce Service担当エグゼクティブ・バイス・プレジデント 兼 ゼネラルマネージャー キシャン・チェタン(Kishan Chetan)氏

 ユーザー体験の中核となるのがAIエージェントだ。ユーザーは、同社のSlackだけでなく、Microsoft Teams、従業員ポータルなどのツールから離れることなく、自然な会話形式でITサービスを享受できる。重要なのは、単なる「通知」にとどまらず、SlackやTeams上で作業が完結する点だ。従業員側とITチーム側の両方で一貫した体験が提供される。

レガシーITSMは”ポータルとチケット”ベース、Agentforce IT Serviceは“会話とエージェント”ベース

 従来のようにチケットを作成して待つ必要はなく、質問をすればAIエージェントが即座に対応する。例えば、ユーザーが「自分のノートPCはリフレッシュ対象になっている?」と質問すると、エージェントが従業員のプロファイルと社内ポリシーを確認し、リアルタイムに回答する。

 もうひとつの差別化要因が、「プロアクティブ」なアプローチだ。従来のITSMが「問題が発生したら対応する」リアクティブな仕組みだったのに対して、深刻化する前に問題を自動検知し、根本原因を特定する。過去のチケットやナレッジベース、CMDBデータを分析して、ITチームと従業員の両方に解決策を提示する。

 ただし、完全自動化ではない。すべての段階で「ヒューマン・イン・ザ・ループ」を配置し、従業員はいつでもAIエージェントから生身のITチームメンバーにエスカレーションできる。「AIエージェントは間違いを犯す。AIは答えられないリクエストもある。だからこそ、ヒューマン・イン・ザ・ループを用意する」と、 新たにITサービス&HRサービス担当シニア・バイス・プレジデント 兼 ゼネラルマネージャーに就任したマッドゥ・スダカール(Muddu Sudhakar)氏は語る。

Agentforce IT Serviceは、ITIL(IT Infrastructure Library)準拠の「ITサービスデスク」、協調する複数の「専門AIエージェント」、「Configuration Management Database(CMDB)」、エンタープライズグラフである「Service Graph」などで構成される

 デモでは、新入社員がSlack上でコラボレーションのエージェントと対話しながら、オンボーディングの支援を受ける様子を見せた。エージェントはユーザープロファイル情報を確認しながら、必要なSlackチャネルへの追加や配信リストの登録、GitHubリポジトリへのアクセス権限の付与などを実行。マネージャーへの承認依頼も自動で行われ、承認が下りるとその旨が新入社員に通知された。

Slack上でGitHubリポジトリへのアクセス権限をリクエストする様子

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