「Nulab Conference 2025」にて日本クラウドの盟友たちがかく語りき
境界を越えた“新陳代謝”が生き残りの鍵に サイボウズ青野氏、さくら田中氏らが考える「未来のチーム・組織」
“主体性”や“心理的安全性”を生む文化づくりはトップダウンで
蜂須賀氏:イベントのテーマでもあるチームワークマネジメントについて再確認したいです。橋本さん、ヌーラボの定義するチームワークマネジメントの5つの要素を説明いただけますか。
橋本氏:共通の目標や目的のためにチームが協力する「目的の共有」、誰が何の責任を果たすかを決めておく「役割の明確化」、ひとりの役割ではなく個々が持つべき「リーダーシップの発揮」、情報の共有や意思疎通によって協働を加速させる「コミュニケーション設計」、相談しやすい関係づくりで問題解決のスピードを上げる「心理的安全性を高める」の5つがチームワームマネジメントの5つの要素です。
青野氏:サイボウズでもチームワークで大切な5つの文化を定義していて、「理想への共感」「多様な個性を重視」「公明正大」「自主自律」「対話と議論」とかなり被っていますが、現場で実践してもらうには、かなりの工夫がいります。例えば、リーダーシップや自主自立な主体性は、無理やりでも引き出さないと定着しないです。
サイボウズだと、説明責任だけではなく「質問責任」という言葉をつくっています。おかしいなと思った時には質問する責任が生じて、後から「こうなると思った」と愚痴るのは他人事だとみなす風土をつくりました。
蜂須賀氏:確かに、これらの要素のための文化や風土づくりは、トップが主導すべきですね。ただ、新入社員だと青野さんに直接質問しづらくないですか。
青野氏:トップとしての受け止め方を社員に見せないといけないです。例えば、僕がXで炎上した時に、社長にモノ申したいと100対1でつめられたこともありますが(笑)、質問責任の手前、すべて受け止めています。心の中でチクショウと思ったとしても、柔らかく対峙すべきですし、言葉遣いひとつで心理的安全性が低くなってしまいます。
田中氏:私も5つの要素すべてが難しいと思いますし、トップが率先して実践するしかないと思います。ただ、他の要素にも影響するコミュニケーション設計がポイントになりますね。
さくらインターネットでも、全社員向けのオールハンズで、Slackの質問に僕が答えるという取り組みをしています。最初は血気盛んな社員のみだったのが、だんだんと直接質問していいんだという雰囲気が生まれました。この前は、「社長は承認欲求が強い」といった書き込みもありましたが(笑)、それも批判ではなくアドバイスだと「肯定的に翻訳」すると、感謝に変換され、社員も話やすくなっていきます。
蜂須賀氏:チームワークマネジメントでは、社外パートナーのような会社を越えたチームワークも必要となるケースもあると思います。その場合に意識するべき要素はどれになるでしょうか。
橋本氏:「目的の共有」ですね。心理的安全性を高めることにも、役割の明確化にもつながります。特に心理的安全性では、目的のために発言しているという状況をつくれますし、そもそも目的がないと個人戦に陥ってしまいます。
蜂須賀氏:目的の共有で青野さんに聞きたいことがあるのですが、サイボウズがバスケットボールチームを持った目的はどう社内に共有したのですか。
青野氏:グループウェア以外の事業をしませんと言い続けてきたのですが、急にバスケットボールチームを買いたいと言いだして、「青野さんはついにおかしくなったのか」と心配されましたね(笑)。
ただ、もともとグループウェアを始めたのは、「チームワーク溢れる世界にする」という理想からです。そこで、5勝55負のバスケットチームを買収して55勝5敗にすれば、「チームワークのことはサイボウズに聞こう」となるのではと思いました。それを皆に話したら盛り上がってくれて、今は、3勝2負で去年の半分以上勝っています。
裏の目的としては、kintoneが急成長している一方で、社内では「同じことをやっているよね」という空気が生まれていたので、そこに揺さぶりをかけたかったというのもあります。皆に全然違う課題を与えて、脳のトレーニングのような機会を提供したかったのです。
田中氏:さくらインターネットもサーバー・クラウドをずっと続けていて、それ以外はだいたい失敗しているというのもありますが(笑)、何も新しいことをしてこなかったわけではないです。2011年にはさくらのクラウドを始めて、省エネ型も必要だねと北海道石狩市にデータセンターを開設しました。2016年にはGPUを早々に始めて、2年前からはガバメントクラウドにもチャレンジしています。
そういったことをしていると社員もどんどん変わるのです。やっぱり「新しい挑戦なくして会社は絶対に続かない」と思います。


