10年目を迎えたソラコム 今の玉川社長の頭に中にあるモノとは?

AIは、これから現実のモノと結びついていく──IoTの次は「リアルワールドAIプラットフォーム」

大谷イビサ 編集●ASCII 写真●曽根田元

提供: ソラコム

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IoTにこだわりたい、でもIoTにどどまってはいけない

大谷:10年目を迎えて、企業理念も新しくなりました。

玉川:企業理念の刷新は、10年目に向けて、去年の春くらいから進めてきました。ちょうどスイングバイIPOが終わった直後くらいですね。やはりAIにどう向き合っていくかは社内でも議論ポイントでした。結果的には企業理念を支えるビジョン、ミッションステートメントの中に「クラウド、AI、通信を民主化する」という形で入っています。

あと、企業理念をワンセンテンスで表す「Making Things Happen for a world that work together」には「IoT」という言葉が一言も入ってません。この点も議論ポイントで、「IoTにこだわりたい」という気持ちと、「IoTにとどまってはいけない」という気持ちのせめぎ合いでした。そんなときに出てきたのが「Making Things Happen」というフレーズです。

大谷:Thingsというワードがカギのような気がします。

玉川:「Makersムーブメント」のような、なんか懐かしい感じもあるじゃないですか。Thingsはモノという意味も、コトという意味もある。農業なり、工場なり、今はセンサリングなんだけど、産業やビジネスを支えるプラットフォームに化けるかもしれないという意味を持たせています。Makingが進行形なのも、ソラコムらしい。

Making Things HappenのThingsは、コネクテッドカーでも、ヒューマノイド、でも何にでもなり得る。IoTの拡がりのある世界観を表現できているのではと。こうした声から企業理念が決まり、それを支える戦略である「リアルワールドAIプラットフォーム」が生まれたという流れです。

先日の年次カンファレンスSORACOM Discoveryのテーマも「Crossroad」です。Xは10という意味もあるので、ちょうど10年目の節目に企業理念と戦略が発表できてよかったなと。

きつかったのはコロナ禍とIPO前 でも転んでもただでは起きなかった

大谷:私もDiscoveryの記事をずっと書き続けてきたのですが、改めて10年を振り返ってもらおうかなと。どんな感想でしたか?

玉川:事前に大谷さんのDiscoveryのレポート記事を10年分共有してもらって、読んでみたのですが、まずはありがとうございます。振り返れば、100メートル走のスピードでマラソンしてきた感じ。しかも、前に崖があって、飛ぶかみたいな判断を何度もやってきましたね。

大谷:トム・クルーズかって感じですね(笑)。

ざっくり記事を振り返ると、創業期の1~2年目はスタートから全力疾走していて、躍動感伝わりましたね(関連記事:星の数あるIoTデバイスをつなぐSORACOMの全貌)。「垂直立ち上げ」と言っていただいた創業期、周りの方から素晴らしいと言ってもらったし、僕らも自信があった。あのときのパッションは鮮烈に覚えています。

創業直後の玉川氏(右)と安川健太氏(左)

その2年後にはKDDI入りしましたが、僕たちを応援してくれた人の中でも「ソラコムはスタートアップとしての成長やイノベーションは続けられるのか」と感じた人もいたと思っています。でも、僕らはイグジット(出口)ではなく、エントランス(入口)なんですと言い続けました(関連記事:ソラコム玉川社長に聞いた「KDDI入り」の背景とソラコムのメッセージ)。その点、コロナ禍前は成果にこだわり、2019年に黒字化できました。

大谷:黒字化すると、見える風景も変わりますよね。

玉川:はい。ニチガスさんのような大型案件が立て続けに決まり、僕たちが描いていた世界を実現してくれるお客さまが出てきました。

でも黒字化し、安定感は出てきたのですが、逆にグローバルへの挑戦意欲が萎えてしまいそうだったのも事実です。そこで、KDDIの髙橋社長(当時)の理解を受けて、子会社でありながら上場するというスイングバイIPOに舵を切りました。このときは「またやるぜ!」という疾走感が再び出てきました。採用も多かったし、グローバルでチームも作ってというタイミングでコロナ禍になったんです。

大谷:コロナ禍は大変だったという話もしていましたね。

玉川:一番大変でした。北米はスタートアップを中心としたお客さまの動きがピタッと止まり、2020・2021年はきつかった。確かに大谷さんのDiscoveryのレポート読んでると、コロナ禍のときは僕も苦しそうでしたね(笑)。カンファレンスもオンラインになって、目に見える反応もないし、新しいサービスを作ったとしても、みなさんに届いているかわからない。だから続けてきた年次カンファレンスをやめようという話もありました。

でも、コロナ禍でよかったのは、医療やエネルギー、ユーティリティなどのエッセンシャルビジネスでのニーズを捕まえられた。一気にリモート化が進み、IoTのニーズが高まったんです。

大谷:転んでもただでは起きなかったわけですね。

玉川:はい。ただ、2022年末にいよいよ上場申請したものの、2023年頭に上場延期を発表しました。あれもけっこう辛かったですね。IPOというゴールに向けて走ってきて、あと少しというところだったのに、それがぎゅーっと先に伸びてしまい、先が見えない状態に(笑)。

でも、あの1年(2023年)はすごくがんばったと思います。あの1年がんばったから、グローバルでビジネスも一気に伸びた。特に昨年はグローバルが急成長したんです。そんなIPOでもがいていた時期に、生成AIが一気に社会に浸透して、その準備もしてきた。そしてようやく上場(関連記事:いよいよ上場したソラコム スイングバイIPO達成のインパクトとは?)。それが10年目の今年に結実した感じで、先日のSORACOM Discoveryはこれまで以上に達成感がありました。お客様やパートナー様も喜んでくれました。

大谷:六本木のあの会場って、何回か取材や登壇したことあるのですが、メインセッションだけでなく、裏番組にあたるセッションもみんな満員で、立ち見も多かった。あの熱量はすごいと思いました。

玉川:今年のDiscoveryも、大谷さんがコラムを書いてくれましたが(関連記事:IoTはオワコンじゃない 10年目のソラコムイベントで見た熱狂)、みんなで走り続けて、大けがせずに今までやってこられて、がんばってきたなあというのが率直な感想ですね。

大谷:あんまり外に出てこないと思うんですが、今考えると、崖というか、ピンチというかは、どんな感じだったんですかね。

玉川:毎週のように小さなピンチはあります。でも、それとともに小さな勝利もみんなから聞くことができます。毎日いい意味の浮き沈みもあるので、悪いニュースがあっても、またいいニュースもあるよなという心構えになってますね。

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