セールスフォースで実現する「エージェンティックマーケティング」の世界
顧客対応のAIエージェント化を進める富士通 新生「Marketing Cloud Next」を導入した理由は?
2025年09月19日 08時00分更新
たび重なる買収を経て成長してきたセールスフォースのマーケティング基盤「Marketing Cloud」。AI時代を迎え、その基盤を再構築したのが「Marketing Cloud Next」だ。企業データを集約する「Data Cloud」上でゼロから設計されており、AIエージェントと人がコラボレーションする“エージェンティックマーケティング”を実現する基盤に生まれ変わったという。
セールスフォース・ジャパンは、2025年9月17日、Marketing Cloud Nextに関する説明会を開催した。同基盤を導入した富士通が、その経緯や成果を披露したほか、セールスフォースからは、同基盤で推進するエージェンティックマーケティングについて解説が行われた。
セールスフォース・ジャパンの製品統括本部 Head of Marketing Cloudである島田崇史氏は、「AIエージェントがマーケターの定型的な業務を肩代わりし、より本質的な、顧客体験の創造に集中できるようになる。さらに顧客にも、パーソナライズされた新たな体験が提供される」と説明した。
富士通:“データ連携”と“人員不足”の課題を解消し、パーソナライズされたメール配信を実現
まずは、富士通による「Marketing Cloud Next」導入の経緯と成果について紹介する。同社は、セールスフォース製品の再販やコンサルティングを担うパートナーである一方で、「国内最大級のユーザー企業」でもあるという。
富士通 セールスフォース事業部のシニアディレクターである塩田好伸氏は、「新しく提供する製品を理解するために、まず自社で使ってみるという方針をとっている。Marketing Cloud Nextの導入もその一環」と説明する。
富士通は既に、コンタクトセンター(富士通お客様総合センター)において、セールスフォースのAIエージェント基盤「Agentforce」を導入している。2024年の検証を経て、2025年7月にカスタマーサービス領域のエージェント「Agentforce for Service」の稼働を開始し、あわせて電話回線も廃止。現在、同社の個人・法人の総合窓口は、エージェントが問い合わせを受け、解決しなかった場合には適切な窓口に誘導する体制をとる。
この取り組みを背景として、セールスフォースユーザー向けのサポートデスクにも同エージェントを採用した。約半年の稼働を経て、「簡単な問い合わせはエージェントで問題ないが、障害のような高度な問い合わせは人で対応するなど、得意な領域が明確になった。ナレッジをエージェントが理解しやすい形式に書き換えるといったノウハウも蓄積できた」と塩田氏。
こうして効率化が進むサポートデスクだが、問い合わせ対応だけではなくカスタマーサクセスの役割も担う。約200社のセールスフォースユーザーに対して、注目すべきアップデートや廃止機能などをメールで発信するほか、バージョンアップ時には新機能や留意すべき更新情報を動画で解説するなどの活動を展開する。
このカスタマーサクセス施策には、旧Marketing Cloudのマーケティングオートメーション(MA)ツールを利用していたが、「データ活用」と「人員不足」の課題があり、すべてのユーザーに同一のコンテンツを配信せざるを得なかった。それが、Marketing Cloud Nextの導入によって、契約データや利用状況に基づく、顧客それぞれに関連する内容のみを配信できるようになった。どう課題を解決したのか。
まず、それまでのデータ活用では、MA以外のデータを活かしきれていなかった。MAに蓄積されたデータから配信リストを作成していたが、CRMや契約システム、アンケートツールなど、他のシステムのデータを反映するには、Excelで突合するなどの煩雑な作業が必要だったからだ。
今回は、この課題をData Cloudによって解決した。Marketing Cloud Nextは、Data Cloud上で再構築され、企業データを横断して活用できるよう設計されている。このData Cloudに、各システムのデータを集約することで、細かいセグメントごとの配信が可能になった。「業務効率化やExcelによる属人化の解消に加え、ローカルでの顧客データの加工がなくなることで、セキュリティ向上にもつながった」と塩田氏。
もうひとつの人員不足については、Marketing Cloud Nextの専門エージェントで解決した。従来のMAでは、配信実行以外の事前準備、実行後の作業を人が中心でこなしていた。それが、以下のようなエージェントに指示するだけで、成果物のドラフトが生成され、人はそれを確認・レビューするだけになった。結果、配信準備作業を83%削減し、パーソナライズされたコンテンツの配信に踏み切ることができた。
・企画設計:「キャンペーン生成エージェント」
・コンテンツ生成:「コンテンツ生成エージェント」
・配信リスト作成:「セグメント生成エージェント」
・配信実行:「ジャーニー制御エージェント」
・顧客対応:「QAエージェント」「申込エージェント」
・結果分析:「キャンペーン分析エージェント」
富士通は今後、TeamsをインターフェイスにAgentforceに指示する仕組みや、Agentforceのエージェント同士の連携などを検証して、さらなる効率化を図っていく予定だ。さらに、マルチエージェント戦略に基づき、他社製のエージェントとの連携も見据えているという。







