Backlog 20周年企画 チームワークとマネジメントを語り合う
現代企業が知るべき“クリエイティブなチーム作り”の秘訣
「管理」と「マネジメント」は違う──脱・Excel管理でチームを強くする倉貫さんのチーム論に納得しかない
提供: ヌーラボ
Backlog20周年企画として働き方や組織作りに関する書籍を数多く執筆するソニックガーデンの倉貫義人氏にインタビュー。チームワークマネジメントを提唱するヌーラボの原田泰裕氏とともに、多くの経営者やマネージャーが悩む「チーム」「マネジメント」のあるべき姿を根掘り葉掘り聞いてみた。(インタビュアー ASCII編集部 大谷イビサ、以下、敬称略)
「サッカーチーム」とは言うけど、「サッカーグループ」とは言わない
大谷:今回はソニックガーデンの倉貫義人さんにお越しいただいています。ソニックガーデンと言えば「納品のない受託開発」で、今で言う伴走型の開発手法をリードしてきた会社として知られていますよね。倉貫さん自身は働き方改革や組織作りに関する書籍を何冊も執筆されていますし、新作もチームワークにまつわる内容だと聞いて、楽しみにしています。いきなり倉貫さんに「チームワークとは?」みたいな話から雑に振ってみましょう。
倉貫:よろしくお願いします。最初に概念的なことなんですが、そもそも「チーム」と「グループ」は違うというところからお話させてください。
たとえば「サッカーチーム」とは言うけど、「サッカーグループ」とは言いませんよね。一方で、「企業グループ」とは言うけど、「企業チーム」とは言わないんですよ。
大谷:確かに!「アイドルグループ」とは言うけど、「アイドルチーム」とは言わないですね。
倉貫:なにが両者で違うのかを考えたら、「目的やゴールがあるか、ないか」なんです。目的を持っているのがチームで、グループにはない。なんらかのベクトルを持たせることでグループがチームになるんです。逆に目的を持たないチームは、単なるグループと言えます。
「仲良しグループ」でもいいんですが、これがなんらかの目的を持ったら「チーム」になります。だから、「目的を達成するために集まった集団がチームである」という定義をしています。
原田:以前のブログで「コミュニティ」と「チーム」との違いは、目的の有無だと話されていましたよね。
マネジメントとはチームを「いい感じにする」こと 管理との違いは?
大谷:じゃあチームワークって、なんらかの目的のためにワークするってことなんでしょうか。
倉貫:これも先ほどの話で、「チームを作る」とは言うけど、「チームワークを作る」とは言わないじゃないですか。チームワークはあくまで状態です。試合に勝つとか、プロジェクトがうまくいったことで、結果的に「よいチームワーク」になるわけです。
大谷:作るものではなく、できあがった結果なんですね。
倉貫:マネジメントも同じで、管理職とマネージャーは同じだと思っている人が多いけど、実は違います。管理職になったら、部下が残業しないように勤務時間をチェックしたり、相談に乗ったりするイメージがありますよね。でも、その「管理」は行為や手段にすぎないので、目的はないように思うんです。
でも、マネージャーがやる「マネジメント」には、目的があります。プロジェクトや会社が実現したいことを達成するという目的のためには、マネジメントが必要です。ドラッカーは「マネジメント」のことを「なんとかする」と表現していましたが、僕は「いい感じにする」と言っています。だから僕にとってマネジメントとは、目的を達成するためになにかを「いい感じにする」ことなんです。
大谷:その前提で考えると、チームのマネジメントは、達成したい目的のためにチームを「いい感じにする」ことなんですね。
倉貫:チームの管理には目的がない。でも、チームのマネジメントには「いい感じにする」という目的があります。目的を達成するためであれば手段は問わず、なにをしてもいいと思います。
もちろん、部下に指示するのもありですが、自律的に動くメンバーだったら、指示はいりません。究極のマネジメントは「なにもしない」こと。とはいえ、状況によって「管理」も必要です。
たとえば、車の運転手を管理職とした場合、手段に重きを置いてしまうと「なにがなんでも車で行く」ことになります。でも、「目的地に安全に到着すること」が本来の目的だとしたら?
大谷:「速いし、安全だから、新幹線を使おう」となるかもしれませんね。
倉貫:そう、「安全に着くこと」が目的なので、新幹線でもいいはずですよね。管理はあくまでも手段です。一方、マネジメントは「いい感じにするため」なら手段は問いません。時には飲み会をするかもしれないし、リモートワークでも、オフィス勤務でも選べるようにするかもしれないです。
管理とマネジメントは違うから、求められるツールも違ってくる
大谷:「いい感じにする」必要があるから、マネジメントが重要になる。じゃあマネージャーは、チームごとに「いい感じにする」方法をいろいろ考える必要がありますね。
倉貫:はい。マネージャーの仕事って、実はめちゃくちゃクリエイティブなんです。チームや状況に応じてベストな選択を考えていくしかないので、再現性がないですし、難しい仕事なんですよ。
ところが、これが管理職になると、いきなりExcelが頭に浮かぶことになります。
全員:(笑)
倉貫:管理は手段に過ぎないと言いつつも、労務管理をしないわけにもいきません。その管理には「網羅」が必要なので、一覧表を作るためにExcelを使うことが多い。でも、それはほんの一部分であって、チームをいい感じにする方法はもっといろいろあるはずなんです。
原田:そう考えると、Backlogも管理ツールって言わない方がいいんですかね。
倉貫:「マネジメントツール」でも、いいかもしれませんね。ただ、管理ツールなのか、マネジメントツールなのかは、プロダクトのコンセプトの違いによって変わると思います。マネージャーがExcelの代わりにタスクを網羅しておきたい場合は管理ツールですし、プロジェクトをいい感じにするのであれば、マイルストーンやロードマップ以外の機能があってもいい。もっと拡がりがあると思います。
原田:なるほど。プロジェクト管理やタスク管理の枠にこだわらなくていいんですね。
大谷:ここに(ヌーラボの)橋本さんがいたら、「だから他のメンバーを賞賛するスター機能があるんです」と言いそうです。
倉貫:あれって従業員をいい感じにエンパワーメントするための機能ですよね。管理のためではなく、マネジメントするためにはあった方がよいと思います。
管理するだけのツールだと、他社との差別化が難しいんです。資産管理や会計管理のツールもいろいろありますが、機能だけで比較したらほとんど差はありません。
一方、マネジメントはクリエイティブな業務なので、いろいろなやり方があります。スターのようにエンパワーメントするというアプローチだけじゃなく、いろいろな特徴が作れるはずなんです。経済合理性だけではなく、考え方に共感するからツールを選ぶというユーザーにフィットすると思います。
不確実すぎる時代には、クリエイティブなマネジメントが必要
大谷:ここまでの話、原田さんはどう受け取りましたか?
原田:チームワークに関しては、とらえ方が少し異なっていましたね。僕は、目的を達成するために必要なコラボレーションや共同作業を遂行する職務として定義しています。そして、それをマネジメントするのが、チームワークマネジメントです。
マネジメントに関しては、倉貫さんと同じ考えです。僕も管理とマネジメントって全然違うと思うのですが、人によって定義や反応がまったく異なるんです。最初にチームワークマネジメントについて共有したときは、一部で「管理=監視」のように思われ、抵抗感がある人もいました。
倉貫:マネジメントと管理は違うというのがもっと広まってほしいので、アスキーさんにはがんばってもらいたい(笑)。
僕はマネジメントがすごく大事だと思っていて、小学校の教育課程に入れてもらってもいいくらい考えています。充実した夏休みを過ごしてもらうためのマネジメントが重要なわけで、宿題をやらせる管理が重要なわけではないんですよね。
大谷:Backlog World 2023で倉貫さんは「不確実な世界で成果をあげる~変化を抱擁するアジャイル思考~」というテーマでお話しされていました。現代は不確実性が拡大して、もはや管理だけではカバーしきれない時代になっているのかなと。
倉貫:管理とマネジメントが同一視されていたのは、確実性が高く、時間がのんびりしていた時代です。日本では製造業が主幹産業であり、管理することがもっとも適していました。その時代のマネジメントの手法が管理だったから、管理=マネジメントと認識されてしまったのでしょう。
ところが、インターネットが出てきて、ITが出てきて、AIも登場してきました。サービスが多様化し、コロナも、戦争も、関税UPもあり、今は不確実な要素がめちゃくちゃある時代です。マネジメント手法が管理だけではカバーできなくなったんです。今のマネージャーに求められているマネジメントは、クリエイティブである必要があり、難しさはそこにあるのだと思います。




