IoTの開発は企画・設計から量産、出荷まで超えなければいけない壁が多く、投資の大きさや環境作りといった点でプロジェクトが止まってしまうケースも多い。そこでそうした企業のチャレンジを応援し、新規プロジェクトを開拓しやすくするために、IoTデバイスのODMを手掛けているJENESISがソラコムと共同で、汎用型の「GPSマルチユニット SORACOM Edition」を開発した。
今回は「SORACOM対応 特選デバイス&ソリューションカタログ」の第11回として、JENESIS ODMオペレーション部 部長 北林正弘氏に「GPSマルチユニット SORACOM Edition」の話を中心に、ソラコムとの連携について、また、今後の展開などについてお話を伺った。
汎用品を使ってIoT開発を進められる環境を作る、JENESIS×ソラコムの連携
――まずはJENESISがどのような企業かお聞かせください
北林:JENESISは2011年に創業した企業で、中国の深圳に自社工場を構えています。日本の企業やスタートアップ向けに、IoTデバイスのODM、つまり開発、製造受託をしています。要件の策定からハードウェア設計、ソフトウェア開発、プロトタイピング設計、製造と量産設計を行い、さらに品質評価や性能試験といった試験を経て、量産して出荷するところまで携わります。
私が所属するODMオペレーション部は日本にありますが、実際の設計は基本的に深圳のエンジニアが担当しています。日本では設計などは行っていないのですが、お客様が日本企業のため、中国のエンジニアに知見がない部分、たとえばNTTドコモの通信網での通信品質やGPS測位の精度調整といったところを東京にいるエンジニアがサポートしています。
――工場が中国にあると故障や不具合が出たときたいへんでは?
北林:製品が壊れたときに中国に送り返すと時間もかかりますし、その間お客様の業務が止まってしまうのも困るので、宮崎にサポートセンター、カスタマーセンターを持っています。サポートが必要な場合はそちらで対応し、修理も宮崎で行っています。
――ソラコムとの取り組みは長いのですか?
北林:ソラコムとの取り組みは長く続いていて、これまでに150万回線以上のソラコム回線を実装してきました。eSIMのプロファイル管理やアカウント保守まで含めてサポートしています。2024年には「SPSアワード」で最優秀賞もいただきました。また、国内最大級のIoTカンファレンス「SORACOM Discovery 2025」プラチナスポンサーとして出展し、共同事例も紹介しました。たとえば子どもの見守りGPSや、高齢者の孤独死防止につながる見守りセンサーなどを一緒に開発しています。
――ソラコムとの協業のメリットはなんでしょう?
北林:ソラコムの強みはIoT通信のプラットフォームと、その周辺を支えるサーバー群にあります。我々はODMとしてハードウェアの製造力を持っているので、ソラコムのプラットフォームを組み合わせることで、よりよいIoTソリューションを提供できると考えています。お客様ごとに柔軟に対応するとき、多くのものを接続して利便性を高めたいとき、デバイスだけではできないことが出てきてデバイスが肥大化する一方になります。
――確かにIoTの現場では、機能を足していくとデバイスがどんどん大きく、また高価になってしまうという話もよく耳にします
北林:お客様の要望をすべて反映すると、どうしてもデバイスは肥大化してしまいます。その結果、価格も上がり、事業として成立しなくなるケースもあります。そこで我々が重視しているのが「スリム化」です。つまり、できる限りクラウドに処理をオフロードすることで、デバイス側の機能を減らす。そうすれば小型で安価なデバイスを実現できます。
ソラコムの暗号化通信や転送機能「SORACOM Beam」を利用すれば、デバイス側にTLSやMQTTの実装を持たせる必要がなくなります。これはメモリや電力の節約につながり、省電力設計にも有効です。さらに「SORACOM Harvest」と「SORACOM Lagoon」を活用すれば、センサーデータを収集して蓄積し、可視化できます。ソラコムと組むことで、お客様が最も気にされるデータの見え方に対し、開発途中でも見ることができますと提案できるのがとても大きいです。
――御社にとって、ソラコムを利用する最大のメリットは何でしょうか。
北林:いろいろなプランが用意されているので、お客様に提案しやすいという点です。さらに、管理コンソールの使いやすさ。お客様に引き継いだ後も説明しやすいし、我々も同じ画面を見てサポートしやすいのが利点です。
省電力化と取得データの蓄積方法にこだわった「GPSマルチユニット SORACOM Edition」
――御社とソラコムが共同開発された「GPSマルチユニット SORACOM Edition」についてお聞かせください
北林:「GPSマルチユニット SORACOM Edition」は京セラが提供していた端末の後継的な位置づけになります。初めてデバイスを作る場合、基板や金型の作成から試験、認証など、超えなければいけない要素が多く、投資が大きくなってしまいます。さらに可視化するためにはサーバー側の開発が必要になり、そこで止まってしまうケースがありました。そうした企業のチャレンジを応援して新規プロジェクトを開拓できるように、汎用品を使って進められる環境が必要なのではないかという話となり、今回ソラコムと共同開発しました。
――「GPSマルチユニット SORACOM Edition」の特徴は?
北林:いろいろなところで使っていただきたいという思いがあるので、5種類のセンサーを搭載しています。GPS/QZSS、Bluetoothビーコン、加速度センサー、温度センサー、湿度センサーの5つです。ソラコムのSIMを挿すだけで取得したデータが可視化できるので、まずはお試しいただく最初の1台として使えます。
――京セラの端末から改良したところはありますか?
北林:改良点としてはまず電源部分です。DCとUSBで給電できるのですが、DC給電時には電池を通らない設計にしているので電池が劣化しにくくなっています。また、京セラの端末ではGPSユニットとビーコン端末が分かれていましたが、「GPSマルチユニット SORACOM Edition」ではそれらを統合し、1台で両機能を備えました。
――IoTデバイスならではのこだわった部分はありますか
北林:取得するデータの蓄積方法です。「GPSマルチユニット SORACOM Edition」は取得したデータを貯めて送信するわけですが、その通信がもっとも電池を使うので、その通信量を減らすことを心掛けました。データを生で送信するのではなく、バイナリー化してできるだけデータを小さくし、サーバ側で復元する仕組みにしました。
――環境にもよると思うのですが、電池はどのくらい保ちますか?
北林:フル充電した端末で、5分間に1回データを送信するという利用で約7日間。1日1回データをまとめて送信するようにすれば1ヵ月から2ヵ月の間くらいとなります。少し幅が広いのですが、用途によってかなり差が出ます。
――汎用品ということで様々なところで使えると思うのですが、どのような使い方をされる企業が多いですか?
北林:最も多いのは位置情報ニーズだと思っています。営業車やレンタル機器の所在確認に使われています。GPSでは消費電力が多いのですが、特定の場所を通過するようなケースであればBluetoothビーコンを使うことで消費電力を減らすことができます。
――「GPSマルチユニット SORACOM Edition」発表後の反応はどうでしょう
北林:多くの問い合わせをいただいています。京セラ製との違いや、実験してみたいのだがいつ届くのかといった話を数多くいただいています。
――今後の計画などはありますか?
北林:まずは日本で販売しその後に欧州への販売を予定しています。これを機に海外のお客様の引き合いが取れれば広がっていくのではと考えています。弊社は日系企業のお客様が多く海外企業はあまり手掛けていないので、海外のお客様にも試していただけるようなデバイスに育てていきたいです。
――ありがとうございました
「GPSマルチユニット SORACOM Edition」はソラコムのサイトにて現在予約受付中。出荷は9月30日が予定されている。
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