コープさっぽろは惣菜コーナーに、東京ドームは通路に「ソラカメ」設置
定時の「惣菜値引き」は売上が伸びない “クラウドカメラ”が見抜く小売・商業施設の課題
手頃な価格なため、防犯用途にとどまらず、IoTの目として気軽に設置可能なクラウドカメラ「ソラカメ」。業界や用途を問わず、現場の業務改善を目的とした利用が広がっているという。
ソラコムが開催した、年次のIoT・AIカンファレンス「SORACOM Discovery 2025」のセッションでは、スーパーマーケットや商業施設といった人やモノが集まる現場でのソラカメ事例が披露された。登壇したのは、道内全店にソラカメを導入したコープさっぽろと、通路や店舗の人流データを分析してマーケティング活動につなげている東京ドームの2社だ。
屋外でも、電源・通信がなくてもクラウド常時録画
2022年5月からサービスを開始しているソラカメ。電源とWi-Fiがあれば工事不要ですぐに利用でき、1台の価格も3980円と安価なのが特徴だ。録画データはクラウドに蓄積され、マルチデバイスで確認できる。オープンなAPIも標準搭載しており、独自サービスの開発や画像解析などのAI活用も容易である。
クラウドカメラによる映像分析のパフォーマンスを上げるには、“設置のしやすさ”が重要になるという。ソラカメは、さまざまな設置方法に対応し、試行錯誤しながら最適な画角を調整することができる。
2025年7月16日には、ルーターと大容量SIMを防水筐体に格納した「ソラカメ屋外スターターキット」と、さらに太陽光パネルや蓄電池も内蔵する「ソラカメ屋外ソーラーキット」を販売開始。さらに多くの現場で活用しやすくなっている。
コープさっぽろ:惣菜コーナーを映して値引きや廃棄削減を目指す
続いては、コープさっぽろによる、全道店舗で進めるソラカメ活用を紹介する。登壇したのは、店舗本部 店舗運営部部長 兼 管理部部長である栗山貴史氏だ。
コープさっぽろは、200万人を超える組合員を擁しており、地域に根差した活動を展開している。こうした中、道内で109店舗を抱える店舗事業では、惣菜の「値廃率(売上に対する値引きと廃棄の占める比率)」が、一般的なスーパーと比べて約3%高いという課題を抱えていたという。POSデータの分析も解決の決め手にはならず、打開策として導入されたのがソラカメだ。
「ソラカメの導入コストの低さと要因分析ツールとしての可能性に魅力を感じた。既に店舗内点検や発注管理などにソラカメを活用していた、(東日本を中心にスーパーマーケットを展開する)ベイシアさんを視察したことも、導入の後押しになった」(栗山氏)
コープさっぽろは、ソラカメ導入の目標を、「惣菜値廃率の3%削減」、そして「遠隔地店舗の売場点検」の実現に設定し、まずは苫小牧地区へ先行導入。同地区では、ひなまつりなどの“ハレの日”の予測の甘さを確認するなど、要因分析ツールとしての手ごたえを得た。
そして、全店舗への展開に向けて、誰でも設置できるような“基準書”を作成しつつ、各地区を周って説明会を実施。さらに、値廃率削減のために、「ソラカメ日報」を作成するルールを設けている。ソラカメから前日の時間帯別の画像を抽出し、数値データと組み合わせたもので、この日報を基に各店舗で課題を見つけ、値引きのタイミングなどを議論する。
各店舗には目標を提示したものの、具体的な活用や改善は現場に任せる方針をとった。全店舗にソラカメ設置後には、「値廃削減の地区対抗戦」も実施。週次で集計される数値を基に、競争意識を高める施策であり、結果が出ない地区には研修などのフォローしている。
ソラカメの設置例(コープさっぽろの事例サイトより)
こうした取り組みによって独自の活用例も生まれおり、「現場の自走力から要因分析・対策ツールとして運用されている」と栗山氏。ある店舗では、人気商品の「鮭弁当」が毎日19時頃に売り切れることを突き止め、生産計画を見直し売上向上につなげている。もちろん各店舗、値廃率の削減にも取り組み、「定時での値引き」は供給(売上)が上がらずに値引きが増え、値廃が悪化することを裏付ける店舗も現れている。
導入の成果として、まず遠隔地店舗の売場点検は、「効果は絶大だった」と栗山氏。訪問に片道2、3時間かかる店舗もリアルタイムで監視ができ、作業改善につながっている。一方の惣菜の値廃率は、1.5%~1.8%の改善と3%の目標には届かず、店舗別の運用格差とバラツキの是正が課題だという。
今後は、前年度比での値廃1.5%改善を新たな目標に掲げ、取り組みを継続していく。現在、ソラカメは1000台を運用中であり、設置場所も生鮮部門全体に広げていく予定だ。生成AI(ChatGPT)で棚の画像解析をしつつ、充足率を数値化して、閾値でSlackに通知をするといった仕組みも実験中だ。
栗山氏は、「ソラカメに頼ったのは『誰の視点で売り場を視覚的に定性評価するか』という課題。客観的かつ視覚的に現場を捉えられるようになった」と振り返る。「使用用途にもまだまだ可能性があり、現場力を高めながら改善を続けていきたい」と締めくくった。







