10年目のソラコムが次を見せた「SORACOM Discovery 2025」基調講演レポート

「ソラコムがすべてをAIにつなぐ」 OpenAI Japanの長﨑氏もエール

大谷イビサ 編集●ASCII

提供: ソラコム

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大容量データアップロードプランも発表 つなぐこと自体にもこだわり

 舞台に戻ってきた齋藤氏は、セキュリティや可視化に注力しているユーザーコンソールや、あらゆるユースケースと通信技術をカバーするSIMプランを紹介。「今後、フィジカルの状況をクラウドやAIに連携させていくことを考えると、今までよりも大きい容量のプランが必要」と語る齋藤氏は、「テラバイト級大容量アップロード向けプラン」を新たに発表。ロボットや建機の遠隔操作、高解像度カメラの常時配信、クラウド・AIのリアルタイム分析などの数GB~数百GB、1TB超のアップロードニーズに対応するという。

テラバイト級のアップロードにも対応するプラン

 「規格や通信容量だけでなく、つながること自体にもこだわっています」と語る齋藤氏は、マルチキャリア対応についてアピールした。日本ではNTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの3キャリア、北米でもAT&T、T-Mobile、Verizonの3キャリアをサポートし、高い可用性を実現している。斎藤氏は「単に通信側に対応すればいいわけではなく、デバイス側でどのように切り替えればよいかが重要になる。われわれは10年間、ノウハウを蓄積している」と語る。

 さらにSIMを製品に組み込む場合に備えて、IoT SIMもカード型SIM、書き換え可能なeSIM、組み込み型のiSIMなどを用意。製品の在庫期間中での利用料金を抑える「テストモード」も6月に発表している。まさにユーザーの声からサービスが生まれているわけだ。「ぜひ組み込みの際にもソラコムにお声がけしてください」と齋藤氏は語る。

 続いて「IoTのミッシングピース」について説明したのが、ソラコムCTOの安川健太氏。「10回目という節目のこのDiscoveryにおいて、この満員の会場でみなさまに会えたのがうれしいです」とコメントし、今回発表したリアルワールドAIプラットフォームへの道程について解説する。

ソラコム CTO 兼 CEO of Americas 安川健太氏

 ソラコムは通信から始め、クラウドとの連携、データ収集、デバイスへのアクセスなどさまざまなサービスを提供してきた。そして、10年経って、集めたデータから価値を生み出すという今まで欠けていた「ミッシングピース」をAIが担うようになった。こうしてフィジカル、デジタルの両方、現実世界のすべてをAIにつなぎ、よりよい世界を創造するというのが、ソラコムの掲げた「リアルワールドAIプラットフォーム」になる。そして、その前段階として、昨年発表されたのが、デバイスやAI、クラウド間のデータの流れを制御できる「SORACOM Flux」だという。

「受け継いだ技術を次に展開するのがスズキのDNA」

 ゲストとして登壇したのは、SORACOMを採用して、パートナーとともに新規事業にチャレンジしているスズキの藤谷旬生氏だ。

スズキ 藤谷旬生氏

 1920年に設立された百年企業のスズキ。祖業は自動車ではなく、創業者の鈴木道雄氏が「母の織物仕事を楽にしてあげたい」と思って作った格子柄を編める織機だ。織機で培ってきた技術を現在の四輪や二輪の事業に転用したことで、今のスズキに至る。「受け継いできた技術を次に展開していくことがわれわれのDNA」と藤谷氏は語る。

 こうして1909年に鈴木式織機製作所として産声を上げたスズキは、今や連結売上で5兆3743億円をたたき出す日本を代表する製造業に成長している。四輪、二輪、マリン、パーソナルモビリティなどさまざまなモビリティを展開しているのに加え、インドをはじめ、四輪シェアで1位の国が11カ国あるという点もユニークだ。

 突出した強みを持つのに加え、73年に渡って連続黒字を達成し続けている財務体質の堅牢さも売り。社是や行動理念に関しても、なにより現物を重んじる「現場・現物・現実」、本質的な価値を表す「小・少・軽・短・美」などが社員に染みついているという。

 今年2月には、鈴木敏宏代表取締役社長のもと、「生活に密着したインフラモビリティを目指す」を掲げた「By Your Side」という新中期経営計画を発表。この中で、藤谷氏の担当する新規事業領域は「サービスモビリティ」と「エネルギー」の領域にチャレンジし、2030年には売上収益500億円、2040年には既存事業に並び立つ柱を目指す。

100年の1度の転機を迎えたスズキが選ぶ共創の道

 ご存じの通り、自動車業界は100年に1度の転機と言われており、コネクテッドカー、自動運転、MaaSなどさまざまな取り組みが行なわれている。ただ「2010年代のMaaSは、自動車業界も他業界の真似をしたが、あまりうまくいかなかった。自動車業界の強みを活かし、他の業界に求められる価値を提供しないといけない」とのこと。スズキとしては「小・少・軽・短・美」の理念に沿ったハードウェア開発と地方部での強固な顧客基盤と整備網を強みとして、パートナーとの共創を進めている。

 共創の1つ目は、サンフランシスコで自動運転都市交通システム(PRT:Personal Rapid Transit)を展開するGlydwaysへの出資。小型電動車両を縦列で自動運転させるもので、1時間に1万人という輸送能力を誇る。「これって車じゃない。列車を小分けにした方がAIの時代には効率的という発想だ」と藤谷氏は語る。

 その他、サービスモビリティ・エネルギーの領域においては、空飛ぶクルマとして知られるマルチコプターのSkyDrive、多用途の自動運転対応台車を手がけるオーストラリアのApplied EV、牛糞を原料としたバイオガス燃料を手がけるBanas Diary、車載用・定置用の共通のEVモジュールを手がけるEliiy Powerなど、さまざまなパートナーがおり、その基盤を支えるIoTソリューションにはSORACOmとの連携が必須になるという。

 今回紹介された電動台車事業は、電動車いすの車台をロボットの足として提供する事業になる。「われわれ2016年からこの事業をやっていたが、すべて自前でやろうとしていたので、全然うまくいかなかった。でも、世の中を見回してみると、ロボタイゼーション、AI、IoT、自動運転ソフトウェアで優れた会社はいろいろあって、欠けていたのはロボットの足だった」と藤谷氏は語る。フラットではない路面を自動走行するための走破性や信頼性をスズキの電動台車(電動モビリティベースユニット)が担保するという。

 この事業で目指すのは、ロボットの足という選択肢を提供することで、新市場を創造することだという。スズキとパートナーの強みを掛け合わせて価値を創造し、デリバリーや保守までを提供していくのが今後の方向性。LiDARなどで収集した三次元空間データから構築されたデジタルツインから、生成AIが現場で必要なシミュレーションと予測を行ない、現場やユーザー側の負担を軽くしていくのが重要だという。

会場で展示されていた電動モビリティベースユニット

 ソラコムとの協業に関しては、スズキの電動モビリティベースユニットにSORACOM SIMを搭載し、HarvestやLagoonで分析。現在は70台の試作機をユーザーに貸与して、ユースケースを実証・確認を経て、事業展開していく予定だという。また、ソラコムと松尾研究所が推進するIoT×Gen AI Labと、スズキとの共同研究も検討を開始している。

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