10年目のソラコムが次を見せた「SORACOM Discovery 2025」基調講演レポート
「ソラコムがすべてをAIにつなぐ」 OpenAI Japanの長﨑氏もエール
提供: ソラコム
生成AIのボットサービス「Wisora」が目指すボット育成のカルチャー
そんなソラコム自体が新たに発表した生成AIのボットサービスが「Wisora(ウィソラ)」だ。WizdomとSoracomを組み合わせたWisoraは、ソラコム社内のサポートで培ってきた生成AIボットのノウハウをサービス化したもの。URLを貼るだけで自動的に社内サイトの内容を学習し、設定、デプロイなども容易に行なえる。また、サービス自身も生成AIで開発されているという。「生成AIボットを民主化する。本当に簡単に学習でき、Webに簡単に設置できるようにする」と玉川氏はアピールする。
社内では問い合わせの回答の下書きを作る回答支援AIボットのほか、ソラコムのエバンジェリストであるMAXこと松下享平氏の知見をAI化した「AI MAX」もEarly Accessとして提供されているという。「IoTのことなんでも知っているので、ぜひいろいろ聞いて欲しい」と玉川氏もアピール。また、IoTリモコン「Nature Remo」を提供するNatureもWisoraを導入し、24時間体制でのFAQ回答を自動化しているという。
Wisoraは月額利用モデルで、リリースは8月上旬を予定している。「ボットを育てて、社内で使っていくという新しいカルチャーをどんどん拡げて行きたい」と玉川氏は語り、CEO of Japanの齋藤氏にバトンを渡す。
齋藤氏は、3万を超えるユーザー企業を紹介。海外企業や日本の現地法人でも導入が相次いでいるという。日本の市場では、EV充電サービス「PRiEV」のリモート管理で利用する九州電力、IoTの健診メーターとして利用する大崎電機工業、電車の発車標の遠隔操作に用いるJR東日本情報システムなどがSORACOMを導入している。
また、われわれの生活を支えるコネクテッドサービスでも採用が相次いでいる。たとえば、バンダイはグローバルに設置されているたまごっちの店舗用端末「Tamagotchi Paradise - Lab Tama」にSORACOMを採用し、コンテンツやアップデートなどの配信を行なっている。また、ミツフジは生体情報を取得し、熱射病リスクなどをを警告するスマートウォッチ「hamon band N」にSORACOMのeSIMを搭載。その他、GMOフィナンシャルグループの決済端末やJURENのレンタルバッテリーサービス「充レン」にもSORACOMが採用され、遠隔のオペレーションやメンテナンスにも活用している。
アイリスオーヤマの新規事業力 源泉は社会課題の解決
ユーザー企業として登壇したのはアイリスオーヤマの尾形大輔氏だ。アイリスオーヤマでは、LED照明の無線制御を実現する「LiCONEX(ライコネックス)」でソラコムを採用。状況に応じた調光で、大幅な省エネを実現する。2012年にアイリスオーヤマに入社した尾形氏は、無線関係の製品開発を手がけ、2021年に新規事業としてこのLiCONEXを立ち上げ、現在に至る。尾形氏はまず会社紹介からスタートする。
アイリスオーヤマの売上高は、グループ全体で年商7760億円、アイリスオーヤマ単体で2315億円という規模だ。特徴的なのは3万点と商品数が多いこと。1年に発売される1000点の新商品が発売されるが、新製品の売上高の割合を3年以内に5割にすることを目指しているという。また、社員の平均年齢も31歳と若く、「私は45歳ですが、おじさん扱いされている(笑)」とのことだ。
さて、アイリスオーヤマが「日本の社会課題を解決する」というジャパン・ソリューションに大きく舵を切ったのは、東日本大震災がきっかけだ。2009年から始まった家電事業も、もともとは技術者の海外流出という課題から生まれたもの。2010年に立ち上げたLED照明事業は電力需要がひっ迫した震災後に大きくフォーカスされるようになり、2013年からは被災地復興のために精米事業を始めている。「令和の米騒動のときは、なんでアイリスオーヤマが米売ってるの?と言われましたが、実は2013年から精米事業は始めていました」とのことだ。
コロナ渦にもてはやされたマスク事業も、パンデミックが問題になった2007年から展開しており、2020年には国内で増産。現在では、労働力不足という課題を解消するロボティックス事業、そしエネルギー支援の高騰化や温暖化に対応する省エネソリューション事業に注力しているという。アイリスオーヤマというと、B2Cのイメージも強いが、B2Bでも照明、床材、天井、壁材、家具、人工芝など多種多様な商材を扱っており、オフィスやホテル、店舗などに提供している。
前述の通り、アイリスオーヤマのLED照明事業は2010年にスタート。当初はコスト競争に専念すればよかったが、将来的にLEDチップの性能が頭打ちになるという懸念があった。こうして2017年に生まれたのが、無線を用いた自動調光のソリューション「LiCONEX」だ。「LED照明は蛍光灯に比べて消費電力を約1/3に下げられるが、自動調光にするとさらに電気代はさらに20~30%削減できる」という。2018年には調色、2021年にはデータ転送、2025年には遠隔監視などの機能を搭載している。
照明でデータ収集 制御のために自前でプロトコル開発するアイリスオーヤマ
尾形氏らがチャレンジしている無線による照明の制御。課題はとにかく照明の台数がめちゃくちゃ多いこと。物流倉庫、体育館、ホテル、ホームセンター、オフィスなど1フロアにつき、照明の数は100~2000台以上に上るため、既存の通信規格だと制御が難しかったという。
これに対してアイリスオーヤマではプロトコルを自ら作ってしまった。具体的には、照明同士でデータをリレーするメッシュリンクのプロトコルで、2.4GHz帯で安定した通信を実現するチャネルホッピングなどを独自実装している。「今では1台のゲートウェイで4000台の照明を制御できる」という。
このメッシュリンクプロトコルを実装した照明をデータ収集のプラットフォームとして利用しようというのが、最新のLiCONEXソリューションだ。照明は建物の隅々まで設置されており、しかもIoTで問題になりがちな給電に関しても、常時給電されているというメリットがある。これをデータ収集に使えないかということで、オフィスやリテール、物流倉庫などでさまざまなPoCを試してきたという。
たとえば、オフィスであれば社員の位置情報、室内のCO2測定、リテールであれば食品の管理や顧客に応じた広告・マーケティング、倉庫であればフォークリフトの稼働状況や危険エリアへの侵入管理など、LiCONEXの照明を経由してデータを収集できるわけだ。
そして、ここからスピンオフして提供されるようになったのが、リテール向けの冷ケース温度測定サービス。HACCP対応の衛生管理では、冷ケースの温度測定の記録が義務づけられているが、今までは人手での記録で時間とコストがかかっていた。しかし、このサービスでは、センサーが温度測定を自動化してくれる。現在では全国2500店舗、6万におよぶセンサーが稼働しているという。
今後は、省エネと省人化のためのコンサルティングに注力していくという。ここで必要になるのが、運用改善を実現するためのSORACOMを用いた遠隔管理になる。さらに照明にとどまらず、空調や電力モニター、ロボットまで連携した省エネソリューション「eneverse」も提供する。利用状況の見える化や省エネ提案、運用の地着、検証と改善のサイクルを回していくという。「さまざまな商品と連携したいので、パートナーを募集してる。いっしょに社会課題を解決していきましょう」と尾形氏は聴衆にアピールした。





