SORACOM Discovery 2025で描いた「データとネットワークの交差点のその先」
コカコーラも、ペプシも、ハイネケンも導入するIoTサービス SORACOMで世界中の40万台を見える化
「AIはIoTのビジョンに欠けたピース」。こう語るのはIoTプラットフォームを手がけるソラコムCTOの安川健太氏だ。年次イベント「SORACOM Discovery 2025」の基調講演では、通信、クラウド、デバイスまで幅広く提供してきたソラコムが「IoTとAIをつなぐ未来」を披露。コカコーラ、ペプシ、ハイネケン、ユニリーバなど名だたるグローバル企業が採用するSollatekもゲストとして登壇し、世界中の40万にも及ぶデバイスを見える化した事例を披露した。
フィジカルも、デジタルも、すべてをAIにつないで共鳴させる
安川氏がテーマとして挙げたのは、この3年間テーマにしている「IoT(Internet of Things)」が指し示す未来についてだ。「IoTと言うと、なんとなくセンサーをインターネットにつなぐことだよねと思うし、実際にそれは間違っていない。でも、本当にやりたいことは、モノがインターネットにつながり、有機的につながっていき、世界がどんどん良くなる。そういうビジョンだと思っている」と安川氏は語る。
こうしたIoTのビジョンだが、ソラコムとパートナーが10年に渡って実績を積み重ねてきたことで、セキュアにデータを収集し、さまざまなデバイスで駆動させることまで可能になった。そして、集めたデータを分析し、判断を下したり、新しい価値を見いだすことも、今や生成AIの進化で現実的になっている。
しかし、今までAIとIoTは切り離されて考えられていた。「AIはIoTのビジョンに必要だが欠けていたピース。われわれも待ち焦がれていたもの。でも、IoTという言葉では、ビジョンを共有しきれていない。本当に目指している世界とギャップがあるのではないか」と安川氏は聴衆に問いかける。本当に目指しているのは、「フィジカルも、デジタルも、すべてをAIにつないで共鳴させ、世界をよくすること」のはずだという。
この世界観を伝える言葉として生まれたのが、今回ソラコムから発表された「リアルワールド AIプラットフォーム」の構想だ。ただ、モノをネットワークにつなげるだけではなく、現実世界のシミュレーションを構築するのではなく、AIにつなぎ込んで、データと融合させ、世の中を前に進めていく。この想いは「Making Things Happen for a world that works together」というビジョンステートメントにも現れている。
いよいよキャリアの垣根を越えた通信プラットフォームへ
リアルワールド AIプラットフォームを実現するために重要なのが、ソラコムの原点とも言える通信だ。10年前、NTTドコモのMVNOとしてスタートしたソラコムだが、今や世界213の国と地域、509の通信キャリアに対象範囲を拡げている。「各国で複数のキャリアとつながることで、カバレッジや耐障害性の意味でも強いシステムが構築できる」と安川氏。これを実現するために、SORACOMのSIMでは複数のキャリアをリモートから切り替えられる「サブスクリプションコンテナ」という仕組みも用意されている。
しかし、現在でも複数キャリアの使い分けが必要な顧客もいる。「各国でSIMをローカライズしないといけない」「契約上の理由で、ある地域では特定のキャリアを使用」といった事情のほか、「大容量データプランや音声通話」「より高い次元の耐障害性」などのニーズもある。この課題を解決するのが、複数キャリアのSIMプロファイルを切り替えられる「SORACOM Connectivity Hypervisor」になる。
SORACOM Connectivity Hypervisorでは、SIMのOS上で動作するIoT Profile Assistantが、別のキャリアのプロファイルをダウンロードしたり、SORACOMのマルチキャリアサービスに切り替えるといった処理を行なう。プロファイルのダウンロードや切り替えといった機能はすでにスマートフォンでは実現されているが、SORACOM Connectivity Hypervisorはリモートからのプロファイル変更を前提に、GSMAの「SGP.32」という標準化された技術を用いるのが特徴だ。「IoTで本来やりたい外からプッシュして、切り替えるという処理がやりやすいようにはなっていなかった」と安川氏は指摘する。
利用用途としては、海外に出荷する車のeSIMに対して、リモートで現地の音声プロファイルをプッシュしたり、カメラに対して大容量プロファイルをダウンロードさせることが可能になる。また、SORACOM SIMをバックアップとして用意しておき、メイン回線の断絶時に自動的に切り替えることで、耐障害性を向上させることもできる。
具体的な検証も進んでいる。トヨタ自動車やソラコムが参加するAECC(Automotive Edge Computing Consortium)の実証実験では、商品ライフサイクルの長い車で、世代の切り替わりの早い通信技術をいかに適応させていくかを検証している。ここではIRGATEコアと呼ばれるトヨタのサービスを介して、柔軟なプロファイル管理やリモートでのプロビジョニングなどでSORACOM Connectivity Hypervisorの技術を採用している。
現状、SGP.32に適合した製品は登場していないが、ソラコムでは年内にも規格に対応したSORACOM Connectivity Hypervisorを投入する予定。安川氏は、「今後は通信部分もキャリアの垣根を越えて管理できるプラットフォームへと進化させていく」と将来像を示した。
ソラコムのIoTプラットフォームの特徴は、通信のみならず、データを利活用するためのクラウド連携サービスが整っているところだ。アプリケーションインテグレーションのサービスでは、HTTPやMQTT、UDPのローソケットなどシンプルなプロトコルでデバイスからデータを受け取り、セキュアな通信経路で各社のクラウドサービスに転送できる。転送の際には、クラウドで利用しやすいJSONフォーマットへのデータ変換やプロトコル変換も実施。「デバイスとクラウドのギャップを埋めて、よりたくさんのデバイスがクラウドにつなげるようにする」(安川氏)。
最近の取り組みとして紹介されたのは、Databricksとの連携。トヨタとの実証実験で、SORACOMサービスで収集した大量の車両データを、Zerobusという連携インターフェイスでDatabricksのプラットフォームに送り込み、分析を行なえる。まさにリアルワールドからのデータ収集と分析を実現する事例と言える。




