建設現場のカメラソリューションをソラコムと共同開発するまで
ソラカメは、Wi-Fi搭載カメラとソラコムの通信・クラウドサービスを組み合わせた監視サービス。導入の切り札になったのは、低廉な価格だ。ソラカメで採用されているATOM Cam 2は1台約4000円という価格に加えて、月額利用料も約1000円と、コスト面で十分に見合うレベルになってきた。松﨑氏は「ソラカメを知る前の話になります。前モデルのATOM Camの発表直後にメーカーのアトムテックの社長にお会いし、われわれといっしょに建設現場のカメラソリューションを開発してくれないかと直談判しに行きました」と振り返る。
ここでいう建設現場のカメラソリューションとは、大量のカメラ、大量の現場ユーザーを前提とした監視システムとユーザーインターフェイスを指す。ただ、アトムテック単独では大成建設のリクエストに応えることが難しかった。そもそもATOM Camシリーズが一般消費者に注目されていた人気商品だったため、台数を確保するので精一杯だったからだ。
しかし、発売から2年が経ち、2022年5月にソラコムが法人向けにATOM Camシリーズを扱うことになり、状況は一気に好転する。「当時はソラコムも知らなかったのですが、発表を見た瞬間にすぐに連絡をとって、共同開発を依頼しました。ソラコムさんのような技術志向の会社なら、われわれの求めているシステムを開発できるかもしれないと思ったんです」と松﨑氏は語る。こうして2023年にソラコムと大成建設で建設現場のカメラソリューションの共同開発がスタートした。
開発期間は約半年で、かなりスピーディーだった。最初の3ヶ月はソラコムの担当メンバーも現場を回り、現場の所長とも意見交換した。そこで得た知見は「建築は単品受注生産なので、標準化が難しい」ということ。標準化による効率を旨とする製造業との大きな違いとも言える部分だ。ソラコムの高見 悠介氏は、「システム屋にとって標準化は基本中の基本。でも、大成建設さんの現場は受注生産の一品ものなので全部違うし、しかも刻一刻と変化します。だから標準化は難しい。現場だからこそ得られた気づきです」と語る。
「異なる現場で共通するニーズはなにか。いかに業務のルーティンにカメラを溶け込ませるか」。現場を見ることで知見を得たソラコムは、カメラ映像が単に並ぶだけではなく、階数やエリアを指定して見られるようにした。松﨑氏とともにBuildEYEの開発を手がけた大成建設の樫本 高章氏は、「カメラごとに見る人が違うので、お気に入りに登録したり、カメラごとにタグ付けすることが可能です」と語る。また、ソラカメではデータ保存期間が30日となっているが、長期保存が可能になっている。これらも現場のリクエストを受けて実装した機能だ。
職人さんに「外されない」カメラを目指して 課題は電源と設置
大量のソラカメを前提とした専用ユーザーインターフェイスは「BuildEYE」と名付けられ、昨年の「SORACOM Discovery 2024」でお披露目された。安価なATOM Camシリーズの登場でコストの問題は解消でき、Wi-Fi環境の設置で通信の課題もクリアできた。建設現場に特化したユーザーインターフェイスやシステムもできあがった。ただ、1つだけ残っていたのが、「限られた仮設電源を使用するために職人さんがカメラを外してしまう」という問題だ。
松﨑氏は、「職人さんは工程を守るために日々がんばってくれています。でも、カメラという新しい道具を使ってもらうためには、現場に様々な負担や不便をかけてしまう可能性があります。カメラ導入で、いかに現場に負担をかけないか、受け入れてもらえるかを考える必要がありました」と語る。
カメラ設置の障壁となる理由の1つは電源の問題だ。建設現場では、電動工具を利用するために仮設電源設備が設けられており、多くは天井からケーブルがつり下げられている。そのコネクター形状は、電動工具向けに最適化されている。漏電防止のため、電動工具を取り付けるための防水仕様のコネクターは周りが覆われているため、汎用のUSBアダプターを取り付けるのも難しい。
しかし、ATOM Camシリーズの給電はUSBだ。そこで、松﨑氏らのチームは建設現場でのカメラ設置を前提にメーカーと専用治具を作ってしまった。たとえば、「現場USBポート」は防水仕様のコネクターにも装着できるアダプター。「よく考えれば、職人さんもスマホの充電などにUSBを使いたいはず。USBでの給電は現場のニーズでもあるんです」と松﨑氏は語る。
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