前へ 1 2 3 次へ

第20回 and SORACOM

ソラコムとの共同開発で実現した「BuildEYE」開発ストーリー

500台のカメラを建設現場に 大成建設の施工管理DXはひたすら現場目線だった

大谷イビサ 編集●ASCII 写真●曽根田元

提供: ソラコム

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

 「建設現場に500台のカメラ」。そんな未来の建設現場を実現すべく、試行錯誤を重ねているのが、大手ゼネコンである大成建設の生産技術イノベーション部だ。現場出身の担当者だから生まれたカメラソリューション「BuildEYE」開発のストーリー。大成建設の生産技術イノベ-ション部の部長である松﨑 重一氏、樫本 高章氏と共同開発するソラコムに話を聞いた。

刻々と変化する建設現場の監視 カメラで効率化できないか?

 大成建設の生産技術イノベーション部は、新しい建設現場のあり方を模索し、生産性と就労環境の向上を実現すべく、2021年に発足。施工支援ロボットや特殊構法の実用化を進めている。今回取材した松﨑 重一氏は、入社してから一貫して現場を担当し、さいたまスーパーアリーナや渋谷のヒカリエ、新国立競技場などのプロジェクトに関わり、生産技術イノベーション部の初代部長を務める。そんな松﨑氏がこの数年来取り組んでいるのが、建設現場へのカメラの設置だ。

 建設会社の最大の課題は、刻々と変化している現場を把握することだ。工事関係者が日々入れ替わり、工事もどんどん進捗していく。大成建設が手がけた新国立競技場のような巨大プロジェクトでは、社員だけでも500人、職人さんは3000人近くが日々出入りするという。松﨑氏は、「本来は20階に50人来ていなければならないのに20人しか来ていなければ、工事も進みません。もし作業における安全対策が徹底されていなければ、注意・改善する必要があります」と語る。

大成建設 建築本部 生産技術イノベーション部長 松﨑 重一氏

 法令上も現場の点検は義務であり、所長と呼ばれる現場の責任者は、毎日のように現場を見回る必要がある。しかも単に見ているだけではなく、品質、安全、工程、進捗などを管理しなければならない。「われわれはつねに現場を把握する必要があります。建設は単品受注生産なので、定型はなく毎回現場にあわせた確認が必要。そのため、所長やさまざまな担当者は日々現場を歩くんです」と松﨑氏は語る。

 もう1つの課題は、前述したとおり工事関係者が日々入れ替わる点だ。「職人さんは、高い技術と仕事への誇りをお持ちです。そうした自負や独自のやり方が影響し、たとえば作業後の清掃が不十分なエリアが発生したり、密な連携に不具合が生じ、現場のルールとのすれ違いが生じるなど、安全確保や工期に影響を及ぼすケースが発生する場合もあります」と松﨑氏は指摘する。

 大成建設のみならず建設会社は、日々こうしたリスクをいかに管理するかに頭を悩ませている。近年は、外部からの不正侵入者が、工具や電線を盗難したり、場合によっては破損や犯罪など問題行動を起こすケースもある。こうなると心血注いで組みあげた建築物が台無しとなり、発注者や関係者に多大な迷惑をかけてしまうことになる。

 建設会社にとって重要な巡視業務、さまざまなリスクへの抑止力として挙がるのがカメラの活用だ。しかもリアルタイムに見るためには、Wi-FiやSIMを搭載するネットワークカメラの利用が望ましい。こうした経緯で大成建設が取り組んだのが、建設現場へのネットワークカメラの敷設だ。

カメラの大量設置を阻む通信とコストの課題

 ネットワークカメラの設置は10年以上前から着実に進められてきたという。「ゲート」と呼ばれる出入り口や全体の進捗を俯瞰できる位置にカメラの設置を進め、現在は各現場につき3台のネットワークカメラを標準設置するようになっている。これらの画像は本部からも、すべてリアルタイムに確認でき、幅広く管理監視業務に利活用されている。

 しかし、現場をリアルタイムに把握し、リスクに対する抑止力として利用するのであれば、カメラの台数は全然足りないという。「オフィスや倉庫は割合見通しのよい空間ですが、それでも各フロアにそれなりの台数が必要です。ホテルやマンション、病院は個室で区切られてしまいます。こうした現場では、さらに多くのカメラが必要となります。私も現場の所長をずっとやってきましたが、もっと多くのカメラがあればと思っていました」と松﨑氏は語る。

 「現場に500台のカメラ」。これは取材中に松﨑氏の口から何度も出てきたカメラの規模感だ。建設現場を覆い尽くす圧倒的なカメラの設置。しかし、これを実現するにはいくつものハードルがあった。

 1つ目は通信の問題だ。建設中の高層ビルは、基地局が設置されていないため、セルラー通信のための電波が届きにくい。特に首都圏以外の地域では、20階以上の高層階では電波がほとんど届かないという。「超高層ビルが林立している都内の場合は、隣のビルの電波を拾えるのですが、地方都市で周りにビルがないような場合は、ほぼ通信できません」(松﨑氏)。

 この課題に対して建設現場のDXインフラとして大成建設が2021年からスタートさせたのが「T-BasisX」と言われる建設現場でのWi-Fi環境の整備である。もちろん設置コストはかかるが、カメラやセンサー、ロボットなどが今後、動くことを考えると、Wi-Fi環境の構築は必須という判断だ。

 2つ目はコストの問題だ。「従来、SIM搭載のカメラを利用するには1ヶ月で2~2.5万円くらいかかりました。50階建ての超高層ビル建設現場で、1フロア8台設置したら400台です。月額で800万円とかかってしまう。それが1年で終わることなく数年続くわけです」と松﨑氏は指摘する。このコストの課題を解決すべく、導入されたのがソラコムのネットワークカメラソリューション「ソラカメ」になる。

前へ 1 2 3 次へ

過去記事アーカイブ

2025年
01月
02月
03月
04月
05月
06月
07月
08月
09月
10月
11月
12月
2024年
01月
02月
03月
04月
05月
06月
07月
08月
09月
10月
11月
12月
2023年
01月
02月
03月
04月
05月
06月
07月
08月
09月
10月
11月
12月
2022年
01月
02月
03月
04月
05月
06月
07月
08月
09月
10月
11月
12月
2021年
01月
02月
03月
04月
05月
06月
07月
08月
09月
10月
11月
12月