コミュニティマーケティング推進協会の初カンファレンスをレポート
「顧客を直接説得できる時代は終わり」 コミュニティはビジネスにどう寄与するのか?
2025年06月17日 09時30分更新
可視化はしづらいが、予測や解像度を上げられるのが「コミュニティの可能性」
続いては、「レベニューオペレーション(RevOps)の教科書」を出版したエンハンプ 代表取締役 兼 ゼロワングロース 取締役CROである川上エリカ氏とのトークセッションを紹介する。テーマはずばり「コミュニティは収益に貢献できるか?」だ。
同書籍がテーマとするRevOpsについて、川上氏は、「持続的かつ再現性のある“収益成長”をしていくための戦略と実行をつなぐ、戦略設計の方法論や組織」だと説明する。具体的には、マーケティングや営業、カスタマーサクセスなど収益に直結する「レベニュー組織」において、GoToMarketの「戦略」やプロセスマネジメントや測定・分析といった「戦術」、テクノロジーの実装による「実行」、このすべてを連動させることを重視した考え方だという。「これらが連動していないことで、部門をまたいだ整合性や実行力が欠けてしまうケースが多い」(川上氏)
書籍の反響について、川上氏は、「営業やマーケの人だけではなく、ITやデータマネージメント、経営企画を担当している人など、思ってもいなかった幅広い読者からの反響があった」と振り返る。
こうして、RevOpsがゴールに向かって収益を上げるための考えである一方で、熱量で語られがちなのがコミュニティ施策だ。実は、川上氏は「Marketo」「Apptio」在籍時に、コミュニティ運営に携わった経験があるという。
MAツールを提供するMarketo(2018年にAdobeが買収)では、ユーザー主導のコミュニティ「Marketing Nation」の運営に関わる。「BoBマーケティングをテーマに悩み事や成功体験を活発に発信していた。マーケターとベンダーが、刺激し合って成長していく、“顧客理解”の場でも、“顧客育成”の場でもあった」と川上氏。
一方、IT投資最適化SaaSを提供するApptio(2023年にIBMが買収)は、一般社団法人である「TBM Council」運営。Apptioの名前を出さずに、IT投資最適化のメソッドを開発するコミュニティであり、川上氏は日本版の立ち上げに従事した。この領域は、当時市場の確立もニーズの顕在化もされておらず、まさに“顧客創造”のコミュニティであり、「プロダクト売りではなくマーケットを作っていく場であった」と川上氏。
佐藤氏は、この顧客創造について、「メソッドや成功事例を知ることで、需要が生まれることがある。顕在化されているニーズを刈り取るだけでは数字を達成できず、潜在ニーズの顕在化も必要となるシーンは、ビジネスリーダーがよく直面するのではないか」と補足した。
最後に川上氏は、このようなコミュニティのRevOpsにおける役割を、「RevOpsの基本は、収益プロセス全体をデザインして、統合的に運用改善することだが、顧客はプロセスの外側にも広がっている。コミュニティは、未接触の意思決定者や潜在顧客、推奨者(エバンジェリスト)など、確実に存在しているはずの価値へのアクセスポイントとして機能する」と説明。
「例えば、コミュニティでの議論は、機能開発のヒントになる。“定量ではなく定性”、“意図したものではなく熱量”と、可視化はしづらいが、予測や解像度を上げるために活かせることが、RevOpsの視点でのコミュニティの可能性」(川上氏)
一方の小島氏は、「RevOpsは、全部数字化して、トラッキングするという考え方。ただ、数字で見えるものだけで世界をつくってしまうと、いびつになってしまい、コミュニティがそれを補完する存在になるのが面白い」と考察。コミュニティを孤立させるのではなく、RevOpsとコミュニティを近づけて、「戦略・組織・施策とコミュニティを掛け算することが大事になる」(小島氏)と述べて、セッションを締めくくった。





