来店は7割減、内覧対応に集中して、契約も“鍵をわたすだけ”に
問い合わせの7割は“自動で即レス” AIと電子契約で沖縄の不動産会社はどこまで変わった?
2025年03月10日 08時00分更新
DX化の遅れが指摘される不動産業界。2021年の情報通信白書の調査によると、DXに着手していない不動産企業は76.8%を占めた。
現在、同業界のDX推進のきっかけとなっているのが、2022年5月に解禁された不動産取引における「電子契約」だ。仲介業務や管理業務を支援するクラウドサービスも充実しはじめ、AIやVR・AR、IoTといったテクノロジーの採用も活発化してきた。
そして、沖縄県内でいちはやく賃貸の手続きを完全電子化したのが琉信ハウジングである。イタンジのサービスを導入し、顧客管理や見込み客へのアプローチといった「賃貸仲介業務」、入居申込から賃貸借契約までの「賃貸管理業務」を電子化。結果、業務効率や物件の申込率を向上させ、担当者を3分の2にした状態でも売上を維持しているという。
DX推進の歩みを、琉信ハウジングの賃貸管理部 次長 兼 斡旋課長である大湾一広氏に聞いた。
トップダウンで始まった「アナログからの脱却」
琉信ハウジングは、沖縄にある1988年創業の総合不動産会社だ。賃貸住宅や分譲マンション、駐車場など管理戸数は8700戸ほどで、県内7店舗で不動産サービスを展開している。大湾氏は、そんな同社の強みは“DX”だと答える。
DXに取り組む前の琉信ハウジングは、一昔前の不動産会社のイメージさながら、紙業務が中心のアナログな職場だった。加えて、長年の課題だったのが「顧客管理の属人化」である。
そもそもの管理方法が、Excelから紙まで人によりバラバラで、誰がどのタスクを抱えているかが把握できない。多い時は500件を超えるメールでの問い合わせを、6人体制でさばいており、繁忙期などは「しっちゃかめっちゃかな状態」(大湾氏)だったという。反響(顧客からの問い合わせ)数はあったが、追客(見込み顧客へのアプローチ)どころか通常の対応も追いつかず、メールの返信が滞ってクレームが発生することもあった。
転機となったのは2022年4月の社長交代だ。新社長のトップダウンでDX推進に注力することを決定。アナログからデジタルへの移行にあたり、課題であった「顧客管理」と「業務効率化」を実現するサービスを模索し始めた。
顧客管理には、タスク管理の機能も備える、イタンジの賃貸仲介業務に特化した営業支援システム「ノマドクラウド」を採用。業務効率化では、100%紙であった契約業務の電子化に目をつける。そして、入居申込からまとめて電子化できることを決め手に、イタンジの「申込受付くん」と「電子契約くん」の導入を続けて決定した。
大湾氏は、「15年ほど経過した基幹システムの乗り換えが難しく、同システムを残したままDX化できないか検討していた中で、“顧客管理”と“電子契約”を変革のとっかかりにした」と振り返る。
メール問い合わせは7割自動返信、見込み顧客へのアプローチも
ノマドクラウドは2023年1月に本社から稼働を開始。賃貸仲介業務における顧客管理や見込み客アプローチ、営業管理などを電子化した。
最も効果を発揮したのは“メールの反響”だ。メールでの問い合わせの7割を占めていた、空室状況や初期費用の確認、内見の可否などの“物件確認”を、ノマドクラウドの「物確即レス機能」が即座に自動返信する。同機能では、AIが問い合わせ内容を判別して、イタンジの不動産間サイト「INTANDI BB」と連携することで初回対応を自動完結させる。残り3割となる確度の高い反響は、メールやLINE、電話で手厚くフォローする。
琉信ハウジングは、県内の不動産企業に先駆けて日曜定休を採用しており、土曜も当番制。土日に届くメールは、AIが自動返信して内見の予約も勝手に埋まっていく。「自動返信に対する顧客からのクレームも特になく、逆に対応もれの不安が払拭された」と大湾氏。
手が回らなかった追客も可能になった。ノマドクラウドの自動追客機能は、希望条件に合わせて物件をピックアップして、見込み客に対してメールやLINEなどで知らせてくれる。実際に、半年前の反響を契機に、契約につながった事例もあるという。また、物件の自動提案の機能で、「何でも物件を案内していたのが、希望条件からノマドクラウドが精査してくれる」(大湾氏)ようになり、申込率も50%から80%程度にまで向上した。
その他にも、反響を分析できるようになったり、タスク管理によって最適に案件を振り分けられるようになったりと、ノマドクラウドで同社の顧客対応や働き方は大きく変わった。仲介件数は導入初月で前年比約150%増え、売上も導入3か月で120%から150%増加したという。





