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ライダーの聖地でリセット旅。消耗した心に栄養を与えるべく北インドの秘境・ラダックへ

文●杉山幸恵

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大きく変化はできないけど…余暇を生かした小さなライフシフトで心に栄養を

 今までも旅の体験を漫画にしたいと試みたことはあったが、いつも完成にはいたらなかったというはるかさん。帰国後、SNSで「ラダックツーリングの漫画本を出します」と宣言して退路を断ち、本格的に漫画制作に取り組み始め、2022年の秋に初の同人誌「ワンマン夏休み」を完成させた。その後、コミティアをはじめとする同人誌即売会での活動を通じて編集者とつながり、出版社へ自作の持ち込みを決行。2年かけて制作した200ページのフルカラー作品であり、初書籍となる「女ひとり、インドのヒマラヤでバイクに乗る。」の出版に至った。

 「これまでの人生を全部注いだ本ができました。旅の漫画ですが、『有用でなければ生きていけない』と悩んでいること、鬱のこと、旅を通じた心境の変化をかなり率直に描いたので、どう受け取られるか怖さもありました。でも発売してみたら、SNSやメッセージで読者の方から『疑似体験して旅に出たくなった』『自分も鬱で旅に救われているので、大事な一冊になった』『もっと自分軸を大事にしようと思った』などの声が届いて…心からの手紙を受け取ってもらえたような気がして、本当に嬉しかったです。全部スクショでまとめています。

 出版イベントやコミティア、カフェで開催した1か月間の個展では、多くの方に直接ご感想や激励の言葉をいただき、胸がいっぱいになりました。誰かの力になる本が描けたらよいなと考えていましたが、一番励まされたのは私の方だと思いました。感謝の気持ちでいっぱいです」

帰国後すぐに同人誌即売会コミティアに申し込み、当時のTwitterで「漫画本を作ります!」と宣言。ギリギリの進捗を公開し、フォロワーに応援してもらいながら「ワンマン夏休み」を完成させた

同人誌「ワンマン夏休み」に100ページの描き下ろしを加えて2024年9月に発行された「女ひとり、インドのヒマラヤでバイクに乗る。」

書籍にはコラムや旅の情報ページも充実。持ち物解説ページは実に11ページにわたる

「UNITEDcafe」で1か月間、個展を開催。多くの人と旅や漫画、メンタルヘルスについて話すことができたという

 書籍が完成する直前、はるかさんはお世話になった人々に直接感謝を伝えるため、ゲラ刷り(印刷前の確認用の校正紙)を携えて再びラダックへ。描き続けたヒマラヤの風景を目の当たりにし、「2年間の努力がここにつながっていた」と実感したという。

 「本当は書籍を持って行きたかったのですが、ラダックのシーズンとの兼ね合いでかなわず。2年越しの夢だったラダックの地に再び立ち、毎日記憶を掘り起こしながら描いていた風景が、目の前に広がる感慨深さを噛みしめました。書籍制作を通じてさらに学んだラダックの文化や歴史、チベット仏教のおかげで、以前より深く旅を楽しめたのも大きな収穫。さらに現地の方々にゲラや同人誌を見せ、喜んでもらえたことが何よりでした」

「つい数日前まで描いていたヒマラヤの山々を実際に目にし、まるで昨日の夢の続きを見ているように自然と旅モードに戻れたことも印象的でした」とはるかさん

行きつけだったチョコレート店やチベット料理店、バイクレンタル店など、1回目のラダック旅でお世話になった人たちにゲラを携えて会いに行った

 チャレンジングで壮大なバイク旅に、自身初となる書籍化。そんな体験ははるかさんの人生にどんな変化を与えたのだろうか。その問いに「変わった部分もあれば、変わらない部分もあると感じる」と答える。

 「旅では開放感を得て自信がつき、『自分は思った以上にたくましく頼もしい』『自分の中の〝社会〟が増えて息がしやすくなった』と思えるようになりました。日本の暮らしの快適さを再認識し、快く休暇を取らせてくれる職場のありがたみを噛み締めて、帰国後は仕事も生活も精力的に取り組めるように。ただ、旅をしたからといって不調が〝治った〟り仕事ができるようになったりするわけではないので、やはり時間が経つと鬱の波や日常の悩みに飲み込まれてしまう…。

 それでも、実際に大地を走り自分を唯一無二の相棒のように思えた経験や、世界はここだけじゃないという実感が、今の自分を支えてくれています。また、編集さんや周りの人に支えられて、200ページにわたり『やり切った』と思える作品を作れたことが自信になりました。かなり無理をした分また反動が来ていますが…(笑)。

 昔から好きだった絵や読みもの作り、旅をすること、休職をきっかけに絵や旅を再開したこと、仕事での葛藤、心理学を学んだことが、全部つながっていったんです。ありがたい機会をいただきました」

「改めて、描き切ったなと思いました」と、当時を振り返る

 自分のことを「こう見えて臆病なタイプで、人生の基盤を大きく変えることはなかなかできない」と分析するはるかさん。それでも小さなチャレンジを積み重ねて、今の自分がいると考えている。

 「ライフシフトという点では、住まいや職を大きく変える勇気がなくても、平日の夜や余暇の時間を活かして旅に出たり新しいことを始めたりするだけでも、世界が広がるのだと実感しました。世界が広がると悩みは薄まるし、自分のいつもと違う一面を知れると、自分のことを好きになれます。落ち込むことも多いですが、『自分を罵倒する相手ではなく、相棒として大切にしたい』と思えるようになりました

 この本は旅の漫画ですが、私にとってはメンタルヘルスへの理解を広げる取り組みの一環でもあります。等身大の自分の話を描くことで、不調や特性があっても何とかやっていこうと思える方がいたらいいな…と。一番そう思いたいのは自分自身なのかもしれませんが」

旅を通じて自分自身は相棒なのだという気持ちが芽生えたはるかさん

 「私はできたから、あなたもできる」というメッセージではなく、〝一緒にもがいている仲間〟として読んでほしい。そんな気持ちで今回の書籍を作りあげたというはるかさん。「偉そうなことは言えないのですが、もしライフシフトしたいけど勇気がでないと感じている方がいるとしたら…」という前置きをしつつ、一つ一つ丁寧に言葉を選びながら、最後にこんなメッセージで締めくくってくれた。

 「今は仕事や生活を大きく変えずとも新しいことを始めやすい時代なので、少しでも興味のあることがあれば、節操なく手を付けてよいのかなと。私の絵もそうでしたが、途中で止めても、数年経って再開したらそれは継続したことになるくらいの気持ちでいいと思うんです。そこでできる友達やコミュニティも楽しいし、居場所は支えになります。

 また、日常を忘れて旅にでるのも、いいと思います。たとえそれが現実逃避的だったとしても。移動距離と、知らない土地で知らない人の人生に触れる経験は、思考の器と選択肢を広げてくれます。この『女ひとり、インドのヒマラヤでバイクに乗る。』も、何か変えたいと感じている方の心に寄り添えたらよいなと思いながら描いたものなので、お手に取っていただけたら嬉しいです。でも本当に疲れている時は、無理せずゆっくり休んでくださいね!私もしばらく休んで、また次の旅を考えたいです」

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