第18回 and SORACOM
SORACOMで挑んだ物流の課題 到着時間の事前通知からドライバーの働き方改革まで
内製化で実現したAGCの物流クライシス対応 位置情報とIoTがどこまでできたのか?
提供: ソラコム
ドライバーに負担をかけずに、稼働状況を把握
続いて取り組んだのはドライバーの働き方の把握だ。そもそも物流クライシスの大きな課題はドライバーの過重労働にある。受注締め切りの前倒し、荷受けの時間指定という課題は解決する過程で、GPSマルチユニットのデータを使えば、ドライバーの働き方まで分析できるのではと考えたのだ。「残業時間の削減に関しては明確な数値目標がありましたので、導入効果を見る過程で、稼働分析もできるようにしました」(澤村氏)
AGCが用いているGPSマルチユニットは、配送車両のエンジンに連動して位置情報を送信する。そのため配送車両の位置はもちろんわかるし、位置情報の取得開始時間と終了時間の差を見ればトラックが一日どれくらい動いていたかも把握できる。「位置情報、車両番号、日付を基幹システムの出荷データと照らしあわせると、受注条件とドライバーの稼働状況を合わせてみることができ、稼働の問題点を詳細に把握できます」と澤村氏は語る。
では、GPSの情報を用いたドライバーの稼働分析とはどういったものか? たとえば、AGCの工場にいる場合は「積み込み中」、納品先にいる場合は「荷下ろし中」、それ以外は「走行中」と仮定できる。このステータスを設定した上で、位置情報、車両・端末番号、日時、基幹システムの受注オーダーにある納品条件などを組み合わせる。これにより、ドライバーに入力の負担をかけずとも、配送や納品作業の実態を把握することができる。
実際に調べてみると、早朝の納品に遅れないよう、客先に指定時間2時間前に着いているドライバーもいたという。この場合は、渋滞などの事態を想定し、締め切りを遵守する姿勢は重要だが、もう少し到着時間を最適化することもできるはず。また滞在時間が非常に長くなっている納入先も簡単に把握できるようになったという。「お客さまになにかお願いする際にもデータを元に話ができるので、改善に結びつきやすい」と澤村氏は語る。
物流クライシスの課題はドライバーの過重稼働にあるのは事実だが、なぜ過重労働になるのかはデータで把握されているわけではない。ドライブレコーダーはあくまで運転記録のみ把握だし、労働の実態を記載する日報ではそうなった理由にまで踏み込むのが難しい。これに対して今回のAGCの取り組みは、GPSで測定した外形情報と基幹システムの業務データを掛け合わせて、今までブラックボックスだったドライバーのリアル業務を把握するというかなり野心的な取り組みと言える。
基幹システムまで巻き込んだこの取り組みを実現したのは、澤村氏から見て発注先になるAGC社内の物流に特化した情報システムチームだ。「もともと物流部門として採用されている情シスで、物流を理解してくれているメンバーで構成されているので、本当に助かりました」とのこと。物流の課題を汲んだ企画から開発、運用まですべて内製化しているのは、AGCの大きな強みと言える。
既存の誤納入防止システムと統合 成長するシステムで物流課題にフィット
この1年で取り組んで来たのは、既存システムの置き換えだ。ここでいう既存システムは「誤納入防止システム」を指す。
今回対象としている塩酸や苛性ソーダといった液体商品の場合、納入先のタンクを誤ると大きな事故につながる。しかし、納品先となる工場には複数のタンクがあるため、受け入れ先にQRコードを貼っておき、指示書のQRコードと照らし合わせる。これがAGCの物流で用いられている誤納入防止システムだ。
しかし、QRコードを付けさせてもらえない納品先もある。ここで出てきたのが、GPS端末で取得した位置情報だ。「正しいタンクにいるかまではわからないけど、正しいお客さまのところにいるかはわかります」とのことで、誤納入防止システムをナビッピドットコムのシステムに統合し、AGC側で再展開することにした。
こうして6年間に渡ってこつこつ作り続けてきたAGCの物流最適化システム。最初は納品時刻の通知からスタートし、次にドライバーの稼働状況の把握、そして現在は他システムとの統合まで実現した。「最初考えていたときから比べると、かなりいろいろなことができるようになり、意味のあるシステムになったと思います」と澤村氏。課題の抽出と解決メソッド、一部システム開発まで内製化したことで、パッケージや物流スタートアップのシステムより、自社の業務に対するフィット感の高いシステムができているように思える。
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