ソラコムが考える物流の課題とIoTソリューションの可能性
意外と身近な「小さな物流」 課題解決や付加価値提供にIoTは活用できる
提供: ソラコム
映画「ラストマイル」でも大きな話題となった物流の課題。そんな物流の課題は映画に出てきた大手運送業者だけのものではなく、一般企業の「小さな物流」にも存在する。今回は、「さまざまな物流の課題にIoTはどのように貢献できるのか?」をテーマに、ソラコムのMaxこと松下享平氏とtakuyaこと桶谷拓也氏と議論を深めてみた。
大手にフォーカスあたりがちだが、一般企業の「小さな物流」にも課題あり
大谷:まずは今回取り上げる物流の定義とIoTとの関係をおさらいしてください。一言で物流といっても広いので。
松下:IoTのユースケースにおいては、移動しているモノの現状を知りたいというニーズは昔からありました。もちろん、見守りなどの用途もありますが、業界という点で大きいのが「物流」です。
業界共通の課題である2024年問題に関しては、現時点ではまだ自動運転の時代になっていないので、人手をどうにかするか、荷物の配送を効率化するしかない。ただ、この問題自体は以前から顕在化しているし、大手の運送業者やそれらを支えるコンサル会社、SIerが必要な対策をとっているはずです。
大谷:確かに物流クライシスの対応として、トラック便を鉄道便や船便にモーダルシフトするとか、共同配送で積載率を向上させるみたいな話って、大手運送業者の取り組みとして出てきますよね。
松下:一方、IoTで解決できる課題は、それ以外の「小さな物流」にあると考えています。物流って一言で言っても、業界としてはとても大きい。細分化してみると、トラックによる運搬もあるし、保存するための倉庫もあるし、運ぶモノによっても、さまざまな業界にさらに別れます。でも、小さな物流は、少なくともモノを取り扱っている限り、どんな組織でも存在します。
大谷:大手運送業者が手がけているサービスが大きな物流だとしたら、自前で構築・運用しているプライベート物流が小さな物流ということですね。
松下:たとえば、弊社も物理的なSIMを扱っているので、倉庫での管理や運搬が必要になります。イベントに展示品やデモ機材を持ち込むのも物流ですよね。モノを扱っている限りは物流や在庫管理は身近な業務と言えるかもしれません。
こういう日々のモノ運びが小さな物流です。特に製造業の場合、生産現場から倉庫、倉庫から卸の倉庫等、モノを動かすことはざらにあります。社屋や工場内でのモノの移動や社内便みたいな話も、小さな物流と言えるかもしれません。
大谷:そう考えると、親会社であるKADOKAWAも出版として倉庫と物流システムを持っています。プライベート物流みたいなのはいっぱいありますね。
昔は大手だからできた物流の課題解決 今では小さい物流でも可能
松下:もちろん、こうした物流を大手運送業者にまるごと任せてしまう方法もあります。でも、夜間も動かしたいとか、運ぶモノが大きすぎる、とにかく途切れたら困るみたいな場合は、自社で物流システムを作らざるを得ない。「外注してカスタマイズするとコストがかかるから、システムをオンプレで持つ」みたいな話なので、クラウドに近いものがあります。
大谷:実際、物流を最適化するために使われるのが、コンピューターだったりするじゃないですか。そう考えると、わりとITと物流って近いものありますよね。
松下:とはいえ、大手運送業者がお金をかけて構築した洗練されたインフラやシステムほどの品質ではない事が多いので、小さい物流でも課題はそのまま残ります。正確な納期を知りたいと思うのはどのお客さまも同じですが、荷物をトラッキングしない限り、いつ着くか、どこにあるかわからない。ドライバーに連絡して、いつ商品が届くのかを確認しなければならないんです。
桶谷:たとえば、自分で好きな部品を組み合わせて住宅作れるというハウスメーカーさんって、工場でパーツを全部生産するんですよね。それを建築現場に持っていくのですが、パーツの納品ってすべて手書きと紙で行なわれていたりします。これをなんとかしたいという声はいただいたことありますね。
大谷:でも、先日物流業界の闇をえぐる「ラストマイル」を観たのですが、荷物の管理をFAXでやっているというネタが出てきました。子請け、孫請けみたいな事業者はそういうレガシーさも残っていますよね。
松下:結局、大規模であろうが、小規模であろうが、物流の課題は基本的には変わらないと思っています。たとえば、配達したら、渡す相手が不在という再配達問題って、宅配でもあれば、社内便でもあるじゃないですか。ただ、コストをかけられる大手運送会社と異なり、小さい物流でできることは限られていたんです。
でも、最近ではこうした分野でIoTでけっこうできることもあります。
大谷:確かに昔はモノにセンサーくっつけて位置をトラッキングするなんて、お金をかけられる大手しかできなかったけど、SORACOMを使えば安価にスモールスタートできる。ここらへんは大きく変わってきたかなと思いますね。
松下:少なくとも道具は揃ってきました。物流の課題を解決するようなスタートアップも増えてきました。いろいろな会社で試行錯誤が続いており、ソラコムもそのお手伝いをできるようになっています。ネットワークとクラウド前提で物流の課題を解決できるので、ソラコムとの相性はよいと思います。
2024年問題の解消につながるドライバーの業務改善にIoT
大谷:冒頭で話が盛り上がり過ぎたのですが、ソラコムの物流事例を教えください。
松下:まず紹介したいのは、物流の見える化の事例です。先日ソラコムが出資して、合弁会社となったキャリオットの事例ですね。もともとフレクト社の「Cariot」というサービスだったのですが、分社化して株式会社キャリオットができ、そこに弊社が出資することで、物流のIoT化を推進します(関連記事:「ソラコムとフレクト、車両管理クラウド「Cariot」事業合弁会社設立へ」)。
Cariotでは、GPS機能のついた車載デバイスなどを用いて、物流の見える化を推進しています。「今どこを走っているか」「次の目的地には何時頃到着予定か」「停車時間は何分か」「今何の業務を今やっているか」などをリアルタイムに表示させることができます。
大谷:どのようなメリットがあるんでしょうか?
松下:「ドライバー働き方改革クラウドサービス」を謳っているので、手書き日報がなくなるというメリットがドライバーにとっては大きいです。車両のリアルタイムな位置情報を誰でも見られる「DriveCast」という機能を使えば、「いつ届くの?」という電話による問い合わせ対応も殆どなくなりますし、使わなくても「今どこですか」「あと30分で着きます」という予測を即答できるようになるので、ドライバーは楽になって、お客さまからしても安心感があります。あとは、地図上に仮想的な領域を設定する「ジオフェンス」により、トラックが特定の範囲に入ったら、お客さまにメールでお知らせするとかも可能になります。
SORACOM活用事例を見ていくと、位置の可視化、問い合わせ対応、到着時刻の予測、履歴から業務分析など一部だけをクイックにIoT化した事例も多くあります。要は位置情報だけでも導入効果が出るわけです。実際AGCでは、到着予測通知を導入することで時間指定を廃止したり、位置情報の取得や活動時間のデータ収集による効率的な配送ルート構築をSORACOMで実現しています(関連記事:「IoTで自動化や位置情報の活用を支援する、SPS認定済みパートナー4社の紹介」)。
大谷:先ほど話していた通り、確かに荷物がいつ着くか正確に知りたいは物流業界共通のテーマですね。
松下:特に運輸と倉庫が分かれている場合は、到着予想はけっこう死活問題になります。倉庫で働く方々も、つねに荷受け場にいるわけではなく、ほかの仕事をやっているんですよね。でも、トラックが来てから、運ぶ荷物をまとめるわけにもいかない。そうなると、位置情報の把握や到着時間の予想が重要になります。
続いて、位置情報とは違う確度で、2024年問題でいうドライバーの時短にもつながる事例としては、タイヤの空気圧を遠隔で管理するという住友ゴム工業のサービスが挙げられます(関連記事:「IoTによる経験や勘の見える化から新サービスを開始した住友ゴム工業」)。
今までは運転の前後で、ドライバーはタイヤの空気圧をチェックして報告しなければならなかったんですが、空気圧の減り方は走行距離や外気温、通った道で千差万別。でも、これを今までは木槌で叩いて調べていたらしいです。IoTの導入により、これが自動記録になったので、ドライバーの業務時間の短縮にもつながったし、もちろん点検を忘れることもなくなります。
大谷:まさにIoTタイヤですね。
松下:タイヤの空気圧ほどピンポイントではないですが、ドライブレコーダーも通信が導入されたことで、急ブレーキかけたときに映像と連携させることも可能になりました。映像という点では、遠隔点呼みたいなことも始まりつつあります。
あと、広すぎる工場内での物流というのも課題としてあります。先日取材したトヨタ自動車の事例ですが、工場が広すぎて、運ぶモノがどこにあるのかわからない。運ぶモノがあるのに、物流カートや車両がないという問題がありました。この課題をボトムアップ型で解決した素晴らしい事例です(関連記事:「これぞテクノロジーの民主化 トヨタのカイゼン文化にフィットしたSORACOM」)。