もう10月だというのに、真夏日だったり平年並の寒さだったりで、寒暖差で身体が参ってしまうようなお天気が続いています。こんなときは、スマートフォンから操作できる「スマートリモコン」が活躍してくれます。寝る前にほかの部屋からエアコンを入れておいたり、室温に応じてエアコンを自動設定したりすることができます。
前回の記事では、市販のマイコンキットを使って“自家製スマートリモコン”を作り、スマートフォン上のアプリケーション(以下、スマホアプリと略)から指示を出すことで、IRリモコン(赤外線リモコン)に対応したLEDライトや2台の扇風機をリモート操作してみました。スマートリモコンがどのように動作しているのか、基本的な仕組みはお分かりいただけたかと思います。
ただし、前回作成した“自家製スマートリモコン”は、ごく基本的な機能だけを実現したものであり、多くの問題点(不足している機能)もあります。これを考えると、“自家製スマートリモコン”の仕組みの限界や、どういう仕組みならよいのかも見えてくるはずです。
問題その1:機器のある部屋ごとに設置する必要がある
スマートリモコンで機器を操作するためには、スマートリモコンの本体から操作対象の機器に赤外線の「おしゃべり」(信号)が届かなければなりません。
第2回の記事で説明したとおり、赤外線は基本的には「光」と同じようにまっすぐ進みます。機器との間に壁やドア、家具などの障害物があると、赤外線がさえぎられてしまいます。
そのためスマートリモコンは、基本的には制御したい機器と同じ部屋に置いておく必要があります。部屋が複数ある場合は、それぞれの部屋に1台ずつ、スマートリモコンを設置することになります。
そうすると、スマホアプリからスマートリモコンを操作するときに、それぞれを区別する必要も生まれます。「リビングの」機器を操作するのか、「寝室の」機器を操作するのか、毎回スマートリモコンを指定する操作が一段階増えるわけです。
問題その2:部屋のあちこちに散らばる機器を操作できない
前回作成した“自家製スマートリモコン”は、外付けのIRモジュールを接続したマイコンキット(M5Stick C Plus 2)を使ったもので、赤外線を発射するLEDは1つしか付いていませんでした。そのため、どこかに固定設置すると、赤外線はひとつの方向にしか発射されません。
しかし、操作したい機器は部屋のあちこちに散らばっていることがほとんどです。同じ部屋の中だとしても、エアコンは南側の天井付近、TVとレコーダーは西側のTVラック、扇風機は北側の床の上――といった具合です。機器がいろいろな方向にあると、“自家製スマートリモコン”の赤外線信号がうまく届かないケースも出てきます。
これを解決するためには、1つではなくたくさんの赤外線LEDを同時に点滅させ、あらゆる方向に向けて一斉におしゃべりを送信する必要があります。加えて、一般的なIRリモコンよりもLEDが出す赤外線を強くして、より遠くまで届くようにしたほうがよいでしょう。実際に、市販のスマートリモコンを分解してみると、そのような工夫がなされています。
さらに、室内の家具などで赤外線がさえぎられないよう、スマートリモコンの本体は壁の高い位置や天井に取り付けるのがよさそうです。そのためには、長い電源ケーブルも必要になります。
問題その3:家の中からしか操作できない
前回の“自家製スマートリモコン”とスマートフォンは、家の中にある同じWi-Fiネットワークに接続していました。家の外に出て、スマートフォンが自宅のWi-FIから切断されてしまうと、スマホアプリからのおしゃべりは“自家製スマートリモコン”に届かなくなり、機器の操作ができなくなります。つまり、この“自家製スマートリモコン”では、「仕事から帰る前に外出先から自宅のエアコンを入れておく」といったことができないのです。
こうした問題を解決するために、市販のスマートリモコンでは、インターネット上に置いたサーバー(いわゆるクラウドサーバー)がおしゃべりを“中継”することで、外出先からでも操作指示を送れるようにしています。
このときのおしゃべりの流れは、「スマホアプリがクラウドサーバーのAPIを使って操作指示を送る」、「スマートリモコンがクラウドサーバーのAPIを使って操作指示を受け取る」の2段階となります(詳しいおしゃべりの内容は、また次回見てみたいと思います)。
問題その4:操作する側で機器の状態がわからない
前回使ったLEDライトのリモコンでは、電源の「オン」と「オフ」のボタンが別々にありました。これならば、現在のLEDライトの状態(点灯か消灯か)が分からなくても、スマホアプリからの指示でライトを確実に点灯(または消灯)することができます。
ところが、扇風機のリモコンには電源ボタンが1つしかありませんでした。このボタンを押すと、現在「オフ」であれば「オン」になる、現在「オン」であれば「オフ」になる動作をします。これだと、ほかの部屋など見えない場所から操作をするときに、意図した状態になったのかどうかがわからず不便です。
そもそもIRリモコンが付属する機器は、赤外線の届く範囲内(つまり人間が目視確認できる程度の距離)から操作することを前提にしています。そのため、第3回の記事でも説明したとおり、IRリモコンによるおしゃべりは“一方通行”で設計されており、リモコン側で機器の動作状態を知ることはできません。
LEDライトや扇風機といった機器であれば、たとえ人間がいない場所で意図しない動作をしたとしても、大きな事故にはならないでしょう(せいぜい無駄な電気代がかかる程度です)。また、エアコンのような高機能でインテリジェントな機器であれば、危険な状態になったら自動停止する機能が付いているので、こちらも問題はありません。
それでは「電気ストーブ」はどうでしょうか。電気ストーブは高温になるため、人間がいない場所で意図せず「オン」になるようなことがあれば、火災発生のおそれがあり非常に危険です※注。このように、機器の状態がわからないままでリモート操作をすることは、機器の種類によっては安全面から問題となる場合もあります。
※注:幸いなことに、日本ではリモコン付きの電気ストーブやファンヒーターをほとんど見かけません。消防法第9条の規定に基づく市町村条例では、リモコンについて直接的な言及はないものの「通電した状態でみだりに放置しないこと」と規定されています。そのため、そうした機器は日本では販売されていないのです。(参考:火気器具等の取扱いについて/消防庁 消防研究センター)
機器の状態がわかるようにするために、最新の家電製品では、インターネットに接続する機能を持ったものが増えています。これならばより確実に、ユーザーの希望する状態を実現するよう操作できそうです。
今回は“自家製スマートリモコン”の問題点、不十分だった機能について見てきました。次回は、そうした不足をカバーしている市販のスマートリモコンを動かして、その仕組みを考えてみたいと思います。
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