あらゆるコミュニケーション情報を集約し、AI Companionが支援するZoomのプラットフォーム進化
「Zoom Workplace」とは何か、生成AIはどう“チームワークを再構築”するのか
2024年04月24日 08時00分更新
米Zoom(Zoom Video Communications)が2024年4月15日、AIが支援する新たなコラボレーションプラットフォーム「Zoom Workplace」の一般提供開始を発表した。
Zoomが「チームワークを再構築し、つながりを促進し、生産性を向上させる」ものと発表しているこのZoom Workplaceで、どんなことが実現するのか。本記事では、4月12日に東京で開催された「Zoom Experience Day Spring」キーノートから、Zoom Workplaceについて紹介された内容をまとめる。
コミュニケーションとコラボレーションの変化に合わせて進化するZoom
ZVC JAPAN 代表取締役会長 兼 社長の下垣典弘氏は、ビジネスにおけるコミュニケーションとコラボレーションのかたちが、コロナ禍以前のかたちには「戻っていない」こと、新たなかたちへと変化していることを指摘する。
「働き方、人との付き合い方は(コロナ禍以前の)元どおりに戻ったわけではない。新しい環境の中で、どのようにチームでコラボレーションするのか、そもそもオフィスは何のためにあるのか、人と会ってできることとできないことは何なのか、組織と個人の生産性を高めるためにはどうすればいいのか。こうした『未来の企業における働き方』を考えなければならない」(下垣氏)
特に日本企業が「未来の働き方」を真剣に考えなければならないのは、「労働人口の減少」や「『働き方改革』と生産性向上に対する社会的要請」「従業員エンゲージメント向上の必要性」といった、労働をめぐる数多くの課題があるからだ。これらの課題解決に役立つと期待される生成AIテクノロジーは急成長を遂げているが、一方で「AIをどのように自社ビジネスに取り込むのか」「効果的なAI投資をどう進めるのか」は悩ましい問題でもある。
急速な働き方の変化、コミュニケーションとコラボレーションの変化に合わせて、Zoomも変化を続けてきた。下垣氏は「今やわれわれは“Zoom会議の会社”ではない。人と人とをつなぐコミュニケーション、コラボレーションのあり方に、常にテクノロジーを提供する会社になった」と強調し、特にこの数年間でホワイトボード、スケジュール、ワークスペース予約、訪問者受付/管理など、サービスラインアップを急速に増やしてきたことを紹介する。
そして今年、多数のサービスをつなぐ共通基盤として発表されたのが、今回一般提供を開始したZoom Workplaceである。
Zoomは従来から各種プロダクトを単一プラットフォームで提供してきたが、あらためてZoom Workplaceとしてリブランドを行った背景には、生成AIによる業務アシスタント機能「Zoom AI Companion」の追加があると考えられる。
下垣氏は、生成AIのビジネス活用には“素材”となるデータが欠かせないことを強調した。単に自然言語で簡単な質問回答ができるだけでは、その活用価値は限定的にとどまる。ビデオ会議、チャット、メール、スケジュールなど、ビジネス上のコミュニケーションとコラボレーションに関係するデータが、単一のプラットフォーム上にすべて蓄積されていれば、それを参照するAIアシスタントもより的確に情報を把握し、より価値の高いサポートを行うことができる――。そういう考えに基づくプラットフォーム戦略だ。
プラットフォーム統合で「AI Companion」がより高度な機能を実現可能に
キーノート後半では技術営業部 執行役員の八木沼剛一郎氏が、Zoom Workplaceで提供される(将来提供予定を含む)さまざまな新機能群を紹介した。ここでは生成AIのAI Companion関連の機能に絞ってまとめる。
冒頭で触れたとおり、Zoom Workplaceは「チームワークを再構築する」というコンセプトを掲げている。八木沼氏は、Zoom Workplaceではこのコンセプトを「コミュニケーションの合理化」「従業員エンゲージメントの向上」「人と(対面で)会う時間の最適化」「生産性の向上」という4つの柱で実現すると説明する。たとえば「コミュニケーションの合理化」はミーティングやチャット、Zoom Phoneなど、「従業員エンゲージメントの向上」はWorkvivo、「人と会う時間の最適化」はワークスペース予約やルームといった具合に、多数のプロダクトはこの4つの柱にひも付けられている。
そして、この4つの柱のすべてに大きく関わるのがAI Companionとなる。Zoomでは「AIの力は限られた人だけでなく、すべての人が使って生産性を高めていくべき」という考えから、すべての有償プランユーザーが追加コストなしでAI Companionを使えるようにしている。あらかじめプロダクトに組み込まれたかたちで提供され、設定を有効にすればすぐに使えるのもポイントだ。
八木沼氏によると、昨年9月のAI Companionリリース以降、これまでに50万以上のアカウントが同機能を有効にしており、たとえばミーティング要約の利用回数は700万件以上に達しているという。現在では36の言語に対応しており、ミーティングやZoom Phone、ホワイトボードを含む9つのプロダクトに組み込まれている。
Zoomでは、複数ベンダーのLLM(大規模言語モデル)を同時に使い、処理品質やスピード、コスト効率を高める“フェデレーテッド(連合)モデル”アプローチを採用している。八木沼氏はその性能の高さもアピールした。
「各種性能も第三者評価機関の高い評価を得ている。GigaOmのベンチマークテストにおいて、AI Companionの平均質問応答時間はChatGPT-4 Webのおよそ4分の1程度と高速だった。『使いやすさ』の評価も10点満点中8.6点、書き起こしの『精度』も95%となっている」(八木沼氏)
AI Companionの新たな目玉機能として、八木沼氏が紹介したのが「Ask AI Companion」だ(5月提供開始予定、日本語版Zoomブログでは「おまかせAI Companion」と訳されている)。これは、ミーティング要約のように単体プロダクトではなく、Zoom Workplace上の複数のプロダクトを情報ソースとして、AI Companionが業務を支援する機能だ。そのため簡単な質問回答や情報要約だけでなく、複雑なガイダンスも提供できるという。
「たとえば『明日のミーティングはどういう目的だったか?』と思い出せないようなことは、皆さんもあると思う。このときAI Companionにミーティング準備の指示を出すと、生成AIがスケジュールに登録されたミーティング参加者を参照して、そのメンバーとのチャットやメールのやり取り、さらには過去のミーティング内容などから『明日のミーティングはこういう目的です』と教えてくれる」(八木沼氏)
ブログ記事によると、そのほかにも「前回のミーティングで約束した重要なネクストステップ(実行すべきこと)のリマインドや、アクション項目の作成、アイデアのブレーンストーミング」「ミーティングアジェンダやメッセージの下書き」といった作業も、AI Companionが実行してくれるという。
上述したミーティングでの活用例のほかにも、たとえばチャットでは入力する文章のサジェスト、メンバー全員が参加できるミーティングの日時候補の表示といった機能が提供される。チャットメッセージの自動翻訳機能(現時点で9カ国語に対応)も用意されているという。
また、電話(クラウドPBX)機能を提供するZoom PhoneにもAI Companionが組み込まれる(英語版は提供開始、日本語版は提供時期未定)。ここでは「通話内容の要約とToDoリストの作成」「ボイスメール(留守番電話)の優先順位付け」「ボイスメールからのタスク抽出」といった機能が提供される。
なおZoomでは、Zoom Workplaceとは別軸で、顧客とのコミュニケーションを通じた関係強化を図るBusiness Services(ビジネスサービスソリューション群)もラインアップしている。こちらでも、各プロダクトにAI Companionの機能が組み込まれていく予定だ。
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本記事では、新たに登場したZoom Workplaceが目指すコンセプトや、AI Companionによる業務支援機能に絞ってご紹介した。Zoom WorkplaceとAI Companionの提供は、ミーティング(Zoom Meetings)以外のツールの利用を促し、オフィスにおけるZoomの存在感を高めるうえで重要な戦略と言えるだろう。
なお、キーノートでは主要プロダクトにおけるそのほかの新機能についても紹介された。下記のZoomブログ記事で紹介されているのでご参照いただきたい。