Apple Watchで気軽に「心の健康ケア」ができる
ふたつめの進化として、iOS 17の「ヘルスケア」、watchOS 10の「マインドフルネス」、それぞれのアプリが連携してユーザーの「心の健康」をセルフチェックできる機能が加わります。筆者も各OSのパブリックベータがリリースされてから毎日試しています。
iOS、またはwatchOSに新設される「心の状態」のアプリ(機能)から「現在の感情」「一日の気分」を記録すると、iOS 17のヘルスケアアプリから感情や気分の状態がグラフ表示により「見える化」されます。
心の状態を記録する際に、感情や気分にひもづく言葉を「タグ」として一緒に記録すると、その時にどんな事を思ったり、悩んだりしていたのか、後からグラフを見て振り返る手がかりになります。
Apple Watchのユーザーであれば、ウォッチから心の状態が素速く記録できるだけでなく、エクササイズをした時間、睡眠、日光の下で過ごした時間などの情報を関連付けて心の状態が把握できます。
新設された機能はユーザーの心の健康を「治す」ことを目的としていませんが、気分の浮き沈みを自ら把握して、心の健康状態を保つ行為をiPhoneやApple Watchを使って気軽に実践できるところに良さがあります。
iOSのヘルスケアアプリに収録されている「心の健康に関する質問票」は、医師が不安障害リスク(GAD-7)とうつ病リスク(PHQ-9)の診断に用いる臨床基準をベースにつくられています。質問票の結果はPDFファイルにも書き出せますが、データがクラウドにバックアップされることはないので、不安を感じた時のセルフチェックとして気軽に実践できるところがユーザーフレンドリーです。
watchOS 10ではApple Watchが搭載する環境光センサーを使って、ユーザーが日光の下にいた時間が測定できるようになります。心の健康バランスとの関連性を調べたり、Apple Watchを身に着けている子どもの近視のリスクを軽減することを目的としている機能です。
watchOS 10のヘルスケア関連のアップデートは、先に実現している「心電図」や「血中酸素ウェルネス」のように誰もが“自分ごと”として気になる新機能ではないかもしれません。でも心の健康について、周囲の人に相談することはなかなか気が引けてしまうものです。Apple Watchがユーザーの心の健康ケアに第一歩を踏み出したことで、ウェアラブルデバイスとテクノロジーの力で「自分の心を労る、守る習慣」が身に着けられることには大きな意味があると筆者は思います。
なおwatchOS 10のパブリックベータの画面を公開することは禁止されていますが、このレポートでは取材に基づく特別な許可を得て掲載しました。watchOS 10が正式リリースされる時点では画面のデザインや機能の使い方が変わる可能性もあります。
watchOS 10はSeries 4以降のナンバリングモデルとUltra、SEのApple Watchをサポートします。さらにwatchOS 10の利用にはApple Watchのほか、iOS 17を搭載するiPhoneが必要です。
ベータ版のソフトウェアは現時点では不完全な状態で公開されていることから、導入したデバイスに動作の不具合が発生する場合があります。可能であれば現在メインで使っていないデバイスにインストールして試すことをおすすめします。

筆者紹介――山本 敦
オーディオ・ビジュアル専門誌のWeb編集・記者職を経てフリーに。取材対象はITからオーディオ・ビジュアルまで、スマート・エレクトロニクスに精通する。ヘッドホン、イヤホンは毎年300機を超える新製品を体験する。国内外のスタートアップによる製品、サービスの取材、インタビューなども数多く手がける。
