緑豊かな自然の中で学ぶ生徒を支えるiPad
続いて、平成30年から文部科学省により小規模特認校に認定された伊那西小学校を訪れました。
小規模特認校とは少人数であるクラス編成を活かして、児童たちに特色豊かな教育環境を提供する学校です。保護者が希望した場合、伊那市内に暮らす家族であることなど一定の条件をもとに、児童たちは通学区域を越えて伊那西小学校への入学・転学が認められています。
伊那西小学校の大きな特色は、豊かな自然環境を教育に活かせること。校長の有賀大氏が「全国的にも珍しい」と語る、校舎に隣接する学校林の中にある「森の教室」で学ぶ小学5年生8人の英語の授業を見学させていただきました。
新学期から新しい転校生をひとりクラスに迎えたこともあり、この日5年の児童たちはiPadとClipsアプリを使って英語による自己紹介を動画に撮り、自由にエフェクトや編集を加えてオリジナルの動画をつくりました。
2人1組ずつのグループに分かれ、広い森の中を駆け巡りながら動画を撮る生徒たちの様子がとても楽しそうで、筆者もうらやましく思いました。それにしても、今どきの子どもたちはiPadを難なくとても器用に使いこなします。
5年生のクラスを受け持つ教員の横山千佳氏は、授業にiPadを採り入れてから子供たちの「伝える力」が目覚ましく伸びていることを実感するといいます。「自分の意思を相手に伝えるために、選ぶ言葉や表現についてより深く考えを巡らせたり、様々なことを主体的に考えられるようになった子どもたちが多い」という横山氏。iPadによる課題制作は児童たちがグループ単位で取り組めるので、誰かが取り残されることもなく、安心して課題に取り組めるメリットがあるといいます。
授業の課題作成にもデジタルツールならではの工夫が凝らせます。5年生の児童たちは自然豊かな林間を舞台に短編映画を作ることにも挑戦しました。iMovieとClipsを活用して、物語に手描きの動物を登場させたり、生徒たちのアイデアが詰まった動画はYouTubeにも公開されました。生徒たちは学校を卒業した後にも、それぞれの想い出を鮮明に振り返られる手段を持っているのです。それはとてもぜいたくなことだと筆者は思います。
伊那市のICT教育は大事な街おこしの役割も担う
伊那市ICT活用教育推進センターの足助氏は、市内の小中学校に広く横展開してきたiPadによるデジタル教育を、今後もさらに進化させたいと意気込みを語っています。
伊那市では地域の少子化、人口減少の課題を解決するためにも、学校教育のクオリティを高めることに力を注いでいます。教育委員会のみならず、伊那市による地域おこし協力隊のボランティアとともに様々な活動を続けてきた成果はいま大きな実を結びました。子どもだけでなく、大人もまた学びたくなる伊那市のユニークで魅力的な授業を目の当たりにした筆者は、これからの伊那市の取り組みがどのように発展するのかとても楽しみです。
筆者紹介――山本 敦
オーディオ・ビジュアル専門誌のWeb編集・記者職を経てフリーに。取材対象はITからオーディオ・ビジュアルまで、スマート・エレクトロニクスに精通する。ヘッドホン、イヤホンは毎年300機を超える新製品を体験する。国内外のスタートアップによる製品、サービスの取材、インタビューなども数多く手がける。