文部科学省が2019年末に発表したGIGAスクール構想は、全国の小中学校に「1人1台の端末」と「高速大容量の通信ネットワーク」を整備して、教育の現場にテクノロジーを取り込みながら生徒たちの学びを推進するプロジェクトです。
長野県伊那市はGIGAスクール構想が立ち上がるよりも早く、2014年から市内の公立小中学校にiPadを導入した自治体です。緑豊かな街の特色に合わせた地域密着型の教育スタイルを確立する、伊那市のユニークなふたつの学校を訪ねました。
体験型教育にICTテクノロジーが適合した
長野県は、全国の都道府県の中でも子どもの教育に熱心な地域と言われています。県南部に位置する伊那市では、公立の小学校15校と中学校6校に2014年からiPadを導入。伊那市教育委員会のICT活用教育推進センター ICT活用教育専門幹の足助武彦氏は、当初の250台から現在まで、生徒1人に1台の端末が行き渡るように全力を尽くしてきたと振り返ります。
その目的とは学校にICT(Information and Communication Technology=情報通信技術)が普及する以前から、伊那市が大切にしてきた「子どもたちが自ら考えて、答えを見つけられる教育」をさらに深めることです。学校の授業は教科書に書いてあることを覚えるだけではなく、生徒たちが自ら街に出て教材となるものを見つける体験型学習にも力を入れています。
当初関係者の中には教育にICTテクノロジーが浸透すると、机に向かって静かに勉強する時間が増えて、今までのように豊かな自然から学べる機会が減るのはないかという懸念もあったそうです。
ところが実際には、テクノロジーを教育の場に導入することにより、生徒たちと自然の教材との距離がより近付いた事例もたくさんあるそうです。足助氏は、学習ツールとしてiPadが加わったことにより、新たな体験価値が掘り起こせたと語ります。「iPadのカメラを接眼レンズに近づけるだけで、顕微鏡写真が簡単に撮れます。今までは同じことを実現するために、高級な実験機材が必要でした。生徒たち一人ひとりが、同じことを手もとで簡単にできることのメリットは大きい」のだという足助氏。iPadを顕微鏡として、撮影した写真や動画をiPadのモニターで繰り返し確認することで、生徒の視点に多様性がもたらされます。