本記事はFIXERが提供する「cloud.config Tech Blog」に掲載された「Azure App ServiceではFTPデプロイよりZipデプロイを使おう」を再編集したものです。
App ServiceのFTPデプロイについて
App ServiceにはFTPデプロイが提供されており、Azureポータルから[デプロイセンター] > [FTPS資格情報]にアクセスすることで、FTPエンドポイントと認証情報が確認でき、WinSCPなどのクライアントを利用することで、FTP接続ができます。
また、[構成] > [全般設定] > [FTPの状態]で受け入れる接続の制限ができます。
既定では「すべて許可」になっており、「FTPSのみ」「無効」に変更できます。
上記の手順でFTP接続し、アプリケーションを配置することで、App Serviceへアプリケーションをデプロイすることができます。
App ServiceのFTPにはアクセス制限をかけることはできない
App Serviceには単純なIP制限や、App Serviceを仮想ネットワーク内に閉じ込めてしまうプライベートエンドポイントといった機能やサービスが用意されていますが、これらの機能を用いても例えばオフィスやデプロイ用のサーバからのみFTPでアクセスできる、といったアクセス元の制限はできません。
こちらの理由ですが、App Serviceにアクセスした際、通常はフロントに配置されたロードバランサーを経由して、アプリケーションが実行されているワーカーへとアクセスしますが、FTPでのアクセス(とVisual StudioでのWebデプロイ)はフロントを経由せず、パブリッシャーというロールを経由して、App Serviceにアタッチされたファイルサーバにアクセスします。
このようなアーキテクチャーのため、App ServiceのFTPデプロイはパブリックIPによって提供され、IP制限やプライベートエンドポイントを用いてもアクセス元の制御はできません。
参考 : Inside the Azure App Service Architecture
https://docs.microsoft.com/en-us/archive/msdn-magazine/2017/february/azure-inside-the-azure-app-service-architecture
対応策
FTPは暗号化されない通信プロトコルであり、上記の通りアクセス元を制限することもできません。
また、FTPデプロイではアプリケーションのバージョン管理ができないといった欠点もあります。
Azure DevOps PipelineやGitHubを用いてデプロイを自動化してしまうのがイマ風ですが、さまざまな制約によってデプロイは手動で行ないたい、というケースもあるかと思います。
そのような場合は、Zipデプロイを利用することができます。
Zipデプロイについて
ZipデプロイはプロジェクトのZipアーカイブを作成し、App Serviceの管理サイト(SCMサイト)にアップロードすることでデプロイする方法です。
こちらの場合、SCMサイトへのアクセスはIP制限やプライベートエンドポイントを用いて仮想ネットワーク内に閉じ込めることができるのでセキュリティー面で優れています。
また、前回デプロイと比較して削除されたファイルやディレクトリを自動で削除してくれるので、FTPよりもアプリケーションの整合性が失われる可能性が低いです。
デプロイ方法もGUIとAPIの2パターンが用意されています。
※Linux App serviceではAPIのみ
参考:ZIPまたはWARファイルを使用したAzure App Serviceへのアプリのデプロイ
https://docs.microsoft.com/ja-jp/azure/app-service/deploy-zip#deploy-zip-file参考:Deploying from a zip file or url
https://github.com/projectkudu/kudu/wiki/Deploying-from-a-zip-file-or-url
Zipデプロイを実際に行なう
Visual Studio 2019で.NET 5のウェブアプリケーションを作成している場合のZipデプロイ手順を紹介します。
まずは[パッケージマネージャコンソール]で下記コマンドを実行し、アプリを発行します。
下記コマンドは.NET 5での「フレームワークに依存する展開」の場合のコマンドです。
バージョンが違ったり、展開方法を「自己完結」にしたい場合はオプションを適宜変更してください。
参考:.NET CLIを使用した.NETアプリの発行
https://docs.microsoft.com/ja-jp/dotnet/core/deploying/deploy-with-cli
dotnet publish -c Release -p:UseAppHost=false
プロジェクト内の bin\Release\net5.0\publish にファイル一式が作成されるので、下記コマンドを実行し、Zipアーカイブを作成します。
Compress-Archive -Path * -DestinationPath {ファイル名}.zip
AzureポータルからApp Serviceの[高度なツール] > [移動]を押下し、SCMサイトに移動します。
SCMサイトのURLの末尾に「/ZipDeployUI」を追記し、Zipデプロイ用のページに移動します。
先ほど作成したZipファイルをエクスプローラからドラッグして配置し、デプロイが完了するまで待機します。
ページ下部にデプロイの進捗状況が表示され、最後に「Deployment successful.」と表示されればデプロイ成功です。
App Serviceにアクセスすると、アプリケーションがデプロイされています。
最後に
App ServiceでFTPデプロイを使ってるケースは少ないとは思いますが、もし使っているのであればZipデプロイへの切り替えを検討するのがよいかと思います。
また、App Serviceの[FTPの状態]は[無効]にしておきましょう。
神田 仁/FIXER
cloud.config Division所属
Azureを用いたインフラ構築を行なっています。構築のノウハウやTerraformを用いた効率化の方法などを紹介していけたらいいな。