SORACOM UG Online#7のテーマは農業IoT(だけど、トップバッターは養豚)
RFIDと画像センシング、SORACOMで養豚場での豚の健康管理に挑戦
2021年8月20日、第7回目となるSORACOM UG Onlineが開催された。今回のテーマは農業IoTだが、一発目のセッションは養豚上での豚の健康管理。高知県のプロジェクトに参加したのは、地元高知と香川、そして東京の3人のメンバーだ。
高知県の養豚場の課題にチャレンジした3人
冒頭、登壇したのは養豚場における豚の健康管理をIoTで実施している3人。香川在住で地元の通信会社STNetに勤務する野口英司さん、高知在住のリモートワーカーかつマルチワーカーの片岡幸人さん、独自の分散技術を開発するtonoi代表取締役の戀川光央さんが高知OIP(オープンイノベーションプラットフォーム)の共同研究プロジェクトとしてスタートしている。まずは野口さんからプロジェクトの概要が説明される。
高知OIPは高知発のデジタルイノベーションを生み出すための高知県のプログラム。これまでに農業、水産業、畜産、小売り業、スポーツ、製造、競馬などのジャンルから10もの課題が出されており、高知の企業だけではなく、県外企業とプロジェクトを組んで課題に取り組んでいる。
3人が取り組んでいるのは、高知県西部にある養豚事業者が持っていた「養豚場における豚の健康管理の効率化」という課題を解決するためのプロジェクトだ。四国の課題を解決するという社命を受けた野口氏が課題説明会で戀川さんと意気投合し、その後コミュニティでつながりのあった高知県の片岡さんを誘うという形で、今年2月からプロジェクトはスタートしているという。
給餌器でのRFIDセンシング 豚舎での画像センシングにもチャレンジ
豚の健康を判断するための基本的な考え方は、そもそも体調不良や死亡している豚は餌を食べに来ないため、豚がエサを食べにくるか、来ないかをIoTで捉えるという方法だ。豚舎は同じような豚が数多くいるため、そもそも見極めが難しい。エサを食べに来た豚を一頭一頭RFIDや画像でセンシングすることにしたという。
具体的には、それぞれの豚にRFIDタグを取り付け、給餌器の近くに置いたセンサーでそのRFIDを読み取る。基本は片岡さんの家にあったラズパイとSORACOM SIM入の4Gドングルで実現しており、RFIDリーダーでシリアルからラズパイに取り込んだデータをSORACOM経由でAmazon S3にぶち込むというシンプル構成となっている。特に重宝しているのはリモートからでもメンテナンスできるSORACOM Napter。仕組みを構築した片岡さんは、「養豚場の環境は正直過酷なので、あまり長居しないで済んでいる」と語る。
また、画像センシングにもチャレンジしており、豚舎の動画を分散AIで解析する手法を試している。具体的には豚舎内にNVIDIA Jetson搭載のエッジボックスとカメラを配置し、独自の分散処理技術とAzure上のGPUで解析するという手法をいろいろ実験している。 戀川さんは、「最初は牛をやろうと思ったけど、牛は(技術的に)進んでいた。日本は豚をグループで飼っているので、AI的には識別が難しいし、動きも速いので大変。痛い目に遭うかなと思って、痛い目に遭ってる(笑)」と振り返る。
事業者には最初から本音でゴールを説明し続けた
養豚IoTに取り組んだ感想として、野口氏は「貴重な命をいただいているんだなと思った。生産者が豚に対してすごく想いを持っている。社会勉強になったというのが本音」、片岡さんは「農業のハウスや養鶏場も入ったことあるけど、養豚場は条件が過酷。においも強いし、ホコリがけっこう大変」と語る。実際、給餌器の近くに置かれたラズパイは熱に強い前提で密閉されたケースに入れられており、画像センシング用のエッジボックスは複数のフィルターで覆っているという。
質疑応答での養豚事業者との関係についての話も面白かった。片岡さんは、「事業者もとても協力的で、数字にも強い。すごく恵まれている」とコメント。これに対して、野口さんが「事業者の方には最初から本音でゴールを説明し続けました。こうなったらいいよねという話を共有できた」と語ると、戀川氏は「野口さんがかなりパワフルに動いてくれたのに加え、かなり挑戦的なことをやっているので、事業者の方がワクワク感を持ってくれたのがよかった」と持論を語った。
ただ、コロナ禍ということもあり、養豚場での現場活動がなかなかできなかったという苦労もあったようだ。実験期間もまだ短いため、健康かどうかのデータも蓄積中という状態なので、今後のプロジェクトの進行にも注目したいところだ。