2021年9月9日、NTTコミュニケーションズはエッセンシャルワーカーのワークスタイル改革を披露する記者説明会を開催した。インフラ保守センターのコンタクトセンターを在宅化するチャレンジに加え、同社が支援する顧客のコンタクトセンターで起こっている「在宅シフト」や「自動化」の動向についても詳細が披露された。
コロナ禍を契機に保守オペレーションの在宅化へ
NTTコミュニケーションズは、昨年2月から全社的なリモートワーク環境に移行。コロナ禍以前から「風土・意識」「制度・ルール」「環境・ツール」の三位一体となるワークスタイル変革を実施してきたこともあり、従業員満足度の高いリモートワークでの勤務が実現し、今でも8割がリモートワークでの勤務となっている。ワークスタイル変革を皮切りに、業務自体の見直しや変革も進めており、データによる現状把握と分析に基づいたデータドリブンな経営というゴールを目指している(関連記事:「苦節20年のNTT Comのワークスタイル変革、コロナ禍で実った背景」)。
今回の説明会は社会インフラを担うエッセンシャルワーカーの働くコンタクトセンターのワークスタイル変革がテーマ。ここで言うコンタクトセンターは、問い合わせの受付センターに加え、保守運用のオペレーションセンターも含んでいる。従来は、オフィスに集合するタイプの業務で、しかも業務継続のためにシフト制を採用しているため、人の出入りも多いという特徴がある。まずはNTTコミュニケーションズ マネージド&セキュリティサービス部 カスタマーサービス部門 担当課長の花村賢一氏がインフラ保守センターにおけるワークスタイル変革について説明した。
インフラ保守センターはネットワークからクラウド、音声までNTTコミュニケーションズが提供する法人向けサービスの運用保守業務を担当する。顧客の問い合わせを受け、関連会社や設備の監視や復旧を行なう部署と連携し、迅速に情報発信と回復の措置を進める。「社会インフラを担っているので、故障が発生するとお客さまのビジネスや生活に大きな影響を与えてしまう。『自分たちの業務は絶対に止められない』という強い使命感を持って業務にあたっている」と花村氏は語る。
コロナ禍においては、基本的な感染対策や多拠点とのリスク分散を進め、2020年7月から前例のない保守オペレーションの在宅化を決意。コンタクトセンターの各機能において順次在宅勤務を実施している。
6割が在宅勤務を実現 スピードと正確性重視の緊急時対応は今後の課題
こうした在宅勤務を快適に実現するため、セキュリティに関してはPCのHDD暗号化、SSL-VPNによる通信、ダウンロード不可のSecure PCを採用。また、「セキュリティ教育をさらに徹底し、着任・離任時の誓約書、定期的な検収の実施、セキュリティ事例の社内共有を行なっている」とのこと。さらに、自宅でもオフィス同様の業務ができるよう、PCはもちろん、大型モニターやヘッドセットなど必要な設備を貸し出すようにし、作業環境を改善している。
ゼロだった在宅勤務率は現在では約60%になった。全体が8割なので、かなりの高さと言える。応対品質の主要指標も、在宅勤務開始前と同レベルをキープした。さらに従業員の満足度も2020年度は初めて3ポイント上昇し、コロナ対策についても約90%が満足と回答しているという。
在宅化を実現すべく、業務プロセスに関しては、今までデジタルとアナログが併用されていたが、紙は撤廃され、すべてデジタルで引き継がれるようになった。「24時間・365日継続される業務なので、輪番の交代時に引き継ぎが必ず発生する。今まで紙を使っていたが、これをすべてデジタルにしたのが大きい」と花澤氏は語る。また、故障受付チャネルもデジタル化され、顧客向けのWebポータルではセルフ対応も可能になった。故障発生時のサポートも、従来はオフィスに駆けつけていたが、自宅から即時対応できるようになったという。
一方、課題としては、やはり従業員の体調や稼働状態を把握するのが難しいこと。これに関してはデータに基づき、稼働状況を可視化していく予定。また、自宅以外で働けるようにするためのサテライトオフィスを用意するとともに、スピードや正確性を重視して現場対応する大規模故障などの緊急時も、今後は在宅・オンライン化できないか検討していくという。AIを活用した故障予知・防止、自動復旧なども検討。データドリブンな経営を推進し、顧客と従業員の満足度をさらに上げていく。
在宅コンタクトセンターへのシフト、AIによる自動化・省力化へ
NTTコミュニケーションズ社内での取り組みの次は、顧客のコンタクトセンター事例について。説明したのはNTTコミュニケーションズ ソリューションサービス部 デジタルソリューション部門 担当課長の石原瑛美氏になる。
コロナ禍においては、多くの企業からコンタクトセンター運営の難しさを訴える声が上がったという。巣ごもり需要でオンライン注文が増え、呼量が増加しているが、三密回避のために出社できるオペレーター数が制限されて、対応が間に合わないという課題だ。呼量が増えたのに、オペレーターで対応できず、結果的に「あふれ呼」が増えた実態があったわけだ。
こうした課題に対して昨年増えたのが、在宅コンタクトセンターの導入相談だ。センターの閉鎖リスクを備え、従業員の健康を確保するため、とにかく音声を在宅で受けられる環境を早急に準備したいという相談が多く舞い込み、同社では既存のコンタクトセンターに追加する形の50~100席程度の在宅コンタクトセンターをおおむね3週間で立ち上げてきた。ここではクラウド型コンタクトセンターサービスであるAmazon Connectやセキュアな認証とシングルサインオンを実現するIDフェデレーションを用いたという。
そして、こうした在宅シフトに加え、今年は業務プロセス改革が起こっている。在宅コールセンターへの移行やシフト、メールやチャットなどのいわゆる「ノンボイスチャネル」へのシフト、あるいはAIを活用したセルフサービスの充実、チャットボットによる処理の省力化などだ。
これに対してNTTコミュニケーションズでは、まず入電を減らすためには問い合わせ手段を多様化させ、顧客自身での解決を促進している。具体的にはSMSやLINEを活用した案内や音声AIやWebサイトでのセルフサービスの活用を進めている。また、オペレーターの負担を軽減すべく、応対や事務処理を軽減するための音声認識や文章の要約、オペレーターのフォローを容易にする感情解析など、さまざまなAI技術を導入している。
たとえば、大阪ガスでは利便性の向上とコールセンターの人材配置の最適化を実現するため、ガス設備調査や訪問日時の変更はAIが自動応対している。「デジタルプッシュ入力操作に不慣れな高齢者の方でも使いやすいように、音声認識でご利用いただける」と石原氏は語る。さらに業務手配システムと連携することで、全業務プロセスの自動化を実現しているという。
データの利活用も増えている。オペレーター対応中に通話内容や必要な情報をリアルタイムに可視化し、効率化を図りながらデータを蓄積。今後はリアルとバーチャルの融合した顧客接点を強化し、さらに新しいデータを活用し、経営改革に結びつけていきたいという。