生鮮食品を家の近所で手軽にピックアップできる新しい生鮮食品EC「クックパッドマート」。コロナ禍のライフスタイルの変化にあわせて成長を続けるサービスを支える「マートステーション」の開発とIoTプラットフォーム「SORACOM」採用の背景について、クックパッドの買物プロダクト開発部ハードウェアアプリケーショングループ長 今井晨介氏に話を聞いた。
成長するクックパッドマートを支えるべくIoTデバイスの開発に着手
「クックパッドマート」は一品から注文できる生鮮食品のECサービス。コンビニやドラッグストア、店舗や駅などに設置された生鮮宅配ボックス「マートステーション」に、地元の販売店が注文された食材を納品。ユーザーがそれをピックアップするというスタイルをとることで、送料無料を実現するというサービスだ。そして、このサービスの鍵となるマートステーションのハードウェア開発を手がけてきたのが、今回取材したクックパッドの今井晨介氏だ。
今井氏は2017年に新卒でクックパッドに入社して、「cookpad storeTV」という料理動画を流す専用サイネージの開発を手がけてきた。ソフトウェアエンジニアとして入社した今井氏だったが、大学時代に電気工学をかじった経緯もあり、ネット企業のハードウェア開発も違和感はなかったという。「もともとモノを持たないで事業をスケールするというのがクックパッドの強みだったのですが、実世界に飛び込んでいかないとできないことってあるよねという気づきもありました。そんな話が自分の中ではスッと受け入れられました」と今井氏は振り返る。
クックパッドマートの事業部に異動してきたのは、2018年9月のサービスリリース直前。買い物代行サービスに近いサービスをスモールスタートした状態だったので、人手による作業も多く、商品を保存するのもほぼ一般向けの冷蔵庫を流用していた。しかし、サービスの拡大とともに、自動化を加速し、サービスレベルを上げるために、ソラコムのサービスを用いたIoTデバイスの開発をスタートさせる。
今井氏がソラコムを知ったのは、以前手がけていたcookpad storeTV用のサイネージ開発の時期。サイネージではSORACOM以外のSIMとタブレットを採用していたが、次に立ち上げる新サービスではSORACOMを使ってみかったという。「開発のしやすさ、使いやすさも魅力的で、スモールスタートしやすいのもメリットでした。納期が数週間、数ヶ月かかるというレベルではなく、オーダーすれば、すぐに来て試せます。開発のスピードを滞らせる要素をすべて排除しているのがすごいところです」(今井氏)。
ハードウェア内製化の背景とSORACOM導入の経緯
そもそもなぜクックパッドはハードウェアを自作するのか? 今井氏は、「あれば使うけど、ないから作る」と語る。きわめてシンプルな理由だ。
これまで多くの産業機器は、専門のメーカーに設計や開発を依頼し、数年かけて開発するという流れが当たり前だった。しかし、これだと市場や顧客のニーズに迅速に対応できないというのが、クックパッドの課題感だった。「メーカーにお願いすれば、確かに品質は確保できますが、市場の要求にアジャストし、早くマーケットフィットさせるには、自分たちで開発する必要がありました。知見のあるソフトウェアは自社開発し、知見のないハードウェアはパートナーから技術を取り入れることで開発を進めました」は今井氏は語る。
今井氏のチームが最初に手を付けたのは、ラベル印刷の自動化だ。販売店は注文された商品にラベルを貼り付けて、商品をマートステーションに納品するのだが、このラベルを前日に手動で配布していたため、オペレーションは破綻寸前だったという。そのため、販売店でラベルを出力できるように作ったのが専用のIoTラベルプリンターになる。「当時は注文も少なかったので、販売店の方々に常時アプリを見ていてくれとは頼めない状態でした。だから、FAXみたいにラベルを勝手に印刷してくれるプリンターを作ったら、販売店さんのオペレーションもシンプルになると思いました」と今井氏は振り返る。
最初はラベルプリンターをつないだタブレットを使ったが、きちんと出力されなかったり、エラーをハンドリングできないといった問題が起こった。「そもそもタブレットのOSは長時間動作したり、単機能を提供する前提で動いているわけではありません。アプリが落ちたり、OSのアップデートで動作が不安定になったりしました」とのこと。端末の再起動が必要になったキャリアの大規模障害を機にSORACOMを導入し、より安定したシステムの開発に着手したという。
改めて開発したのは、SORACOMを搭載したラズパイとラベルプリンターで作ったシステムだが、こちらは安定した動作を実現できた。とはいえ、いざ現場に導入する段で、苦労したことは多々あったとのこと。今井氏は、「とある豆腐屋さんにラベルプリンターを設置したのですが、特定の時間帯だけ通信できませんでした。現地に行ってみたら、その時間だけシャッターを閉めていて、そのときだけ通信できなかったんです」という体験談を披露。このときはシャッターの下からアンテナを外に出すという対応で通信できたが、やむをえず壁に穴を開けさせてもらうこともあるという。電波の不感地帯に入ってしまう、まさに「IoTあるある話」だ。
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