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アナログの極みの美容業界で進むDXの形

コロナ禍を機にLINE WORKSと研修動画にチャレンジしたアルテサロンHD

2021年06月11日 11時00分更新

文● 大谷イビサ 編集●ASCII 写真●永山亘

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YouTubeでトップスキルを学べる時代 集合型研修からライブ配信へ

 大山氏から見て、もう1つの美容業界の課題は、技術を先輩から学ぶ「徒弟制度」的な仕組みだ。専門学校などを経て、アルテサロンHDのような美容師の会社に入社しても、実際にお客さんの髪を切れるのは早くて2年くらい。技術や経験がものを言う世界とは言え、客先に立つまで下積みが2~4年かかるというのは、今の時代にあわない。「YouTubeを調べれば、トップスキルの美容師さんの技を簡単に見ることができます。これがいいか悪いかは別にして、これが時代の趨勢。真正面から向きあわなければならないと思いました」と大山氏は語る。

 フランチャイズ方式で美容室を運営する教育サロンのアルテサロンHDの場合、毎年入社してくる新人を一人前のスタイリストに育成し、さらに店長、オーナーまでステップアップさせることが事業の根幹に関わっている。もちろん、30年以上の歴史で培ってきた技術に価値を見いだし、教育にも自負を持っている会社だ。「この2~4年の下積みを短くするためにデジタルをどのように活用できるか?というのは、間違いなく業界全体の大きなテーマだと思います」(大山氏)。

 アルテサロンHDでも、2年前は渋谷にある店舗に200人近い新人を集めて、ベテランのテクニックお披露目会をやっていたという。「『美容師さんって勉強熱心だな』『生でハサミの動きを見ると参考になるんだろうな』と思う反面、美容師でない私からすると、これって『ライブ配信でよくない?』とも思ったんですよ」と大山氏は語る。

 こうした中、2020年のコロナ禍とともに、社内研修の動画化に踏み切ることになった。例年4月に入社した新人は1ヶ月にわたって基本であるシャンプーを学ぶのだが、緊急事態宣言でこうした実地の研修が一切できなくなった。「シャンプーの研修すらできない状態。だったらこれを機にということで、店舗で撮った動画を編集して、観られるようにしました」(大山氏)

 この動画サイトは、LINE WORKSのアカウントを持っているユーザーのみ見られる。背後でアカウント連携をしているため、かなり高度な仕組みではあるのだが、ユーザーからはLINE WORKSで共有されたリンクからシームレスに見ることができる。最初はシャンプーのみだったが、カラーやカットも動画コンテンツが増え、スタジオを作ったことでライブでの講習もできるようになった。

グループ内で共有されている研修動画

 ユニークなのは、トップ美容師のカットと接客を生収録した研修動画だ。グループ内限定での利用という条件で来客の許可を得て、数台のカメラを取り付け、音声も収録し、リアルなカットや接客を動画コンテンツにした。最初はカットだけだった来客に、パーマーやカラーをオススメし、行動変容につながる流れを見て、新人はテクニックだけではなく、接客を含めたリアルなサロン回しを学ぶことができるという。

 今までのサロンの教育は、理想型に向けて、カットしたり、カラーを学び、来客で試すというスタイルだったが、これだと来客のパターンや店舗の状況で提供価値が変わってしまうという弱点があった。「現場に聞いてみると、『トップ美容師がどういうサロン回しをしているのか』『お客さまとどんな話をしているのか知りたい』という声が上がったのです。せっかくグループ内にすごいスタッフがいるので、注目してもらいたかった」と大山氏は語る。

DXでもアナログは捨てない デジタル化に活かす

 次の展開としてチャレンジしているのは、離職率を低下させるための施策だ。「美容業界はどうしても離職率が高い。いまいる人も1年後に2割近くはいなくなってしまう。これをデジタルでなんとかできないかと考えています」と大山氏は語る。

 具体的には、従業員満足度を定期的にサーベイするアンケートを昨年からLINE WORKSでやることにしている。従来の紙ベースのアンケートの場合、毎年200人ほど新入社員が入ってくる同社ではアンケートの回収・集計、レポート作成のリソースが足りず、美容師の負担も大きかった。しかし、LINE WORKSを使うことで定期的にアンケートをとることができるようになり、同じく昨年から始めたメンター制度と組み合わせることで、きめ細かく新入社員をフォローできるようになった。

新人社員などに向けてLINE WORKSで定期アンケートを実施

 また、顧客とダイレクトにつながる施策でもLINE WORKSを活用していく予定。従来も顧客とLINEや電話でつながっていたスタッフもいたが、今後はLINE WORKSを使うことで、会社からも見えるようにしていきたいという。一方で、昨年の7月からはLINE WORKSのボットによる問い合わせも導入しており、電話はかなり削減され、FAXはほぼ全廃されているという。

 「お客さまの髪を切る、髪に触れる」というサービス形態からして、どこまでいってもアナログな美容業界。そんな中、大山氏が考えるアルテサロンHDのDXは「アナログなやり方をデジタル化に活かす」という方向性だ。「DXって、『アナログを全部捨てろ』みたいな感じじゃないですか。でも、アナログって、長らくやってきたこともあって、けっこう研ぎ澄まされているんじゃないかと思うんです。今までを全否定することはリスクでもあるので、まずはアナログのやり方をいったんデジタル化して、そこからデジタルならではのやり方を考えようと思います」と大山氏は語る。

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