圧倒的スピード! 業種を問わず誰でも使いやすく、企業ごとの独自表記ルールもカスタマイズできる
プロ視点で見たAI校正・校閲ツール「AI editor」最大のメリットとは?
2021年03月30日 11時00分更新
AIスタートアップのミラセンシズが開発、提供する「AI editor」は、さまざまな文章の校正・校閲業務を支援する企業向けクラウドツールだ。
「校正・校閲」と聞くと、一般には出版や印刷、広告といった業種がイメージされるかもしれない。しかし、AI editorの顧客企業はそうした業種にとどまらず、メーカーや金融機関、製薬、インターネット企業など幅広い。Webサイト、ダイレクトメール、製品説明書、プレスリリース、社内向けドキュメントなど、多様な文書のチェックに活用されているという。
筆者は編集者として20年以上、出版物や広告などの校正・校閲の現場に携わってきた。今回はそうしたプロの視点から、AI editorを試用し、レビューしてみよう。
AI editorはシンプルで誰でも使いやすいAI校正・校閲ツール
まずはAI editorの基本的な機能を見ておこう。
AI editorは標準機能として、誤字脱字や表記揺れ、基本的な表記ルールのチェック機能を備えている。たとえばカタカナや英数字の半角/全角表記、金額のカンマ区切り、助詞や接続詞の重複(「~の~の」など)、読点の多用、ら抜き言葉(「食べれる」など)、住所チェック(存在しない住所の検出)といったものだ。
さらにユーザー企業独自の表記ルール(ユーザー定義ルール)をWeb GUIから追加/編集し、カスタマイズすることができる。ちなみにこちらでも、あらかじめ「商標登録」「差別用語」「重複表現」といったサンプルルールが用意されている。
校閲の実行は、AI editorのWebポータル(エディター画面)で適用するルールを選択し、テキストをコピー&ペーストして「校閲実行」ボタンをクリックするだけだ。このとき、複数の表記ルールから適用したいルールを選んで校閲をかけることができるので、同じ企業内でも目的の異なる幅広い文章の校閲に活用できる。
さらに「Microsoft Office」用のプラグインや「Google Chrome」ブラウザ用の拡張機能、「Googleドキュメント」との接続機能も用意しており、それぞれのアプリケーションから直接、AI editorの校閲機能を実行することができる。出版社やWebメディア企業などでは、既存の入稿システムやCMSとAI editorをAPI連携させることも可能だ。書籍や製品マニュアルなど大量のページ数がある文書向けには、PDFファイルをアップロードして一括処理する方法も用意されている。
校閲を実行すると、適用したルールに基づき検出された語句が本文中でハイライトされ、さらにリストにも一覧表示される。リスト中の検出語句をクリックすると本文の該当箇所にカーソルが移動するので、その前後の文章も読んで判断することができ、わかりやすい。表記揺れを検出した場合はそれぞれの表記検出回数が表示されるほか、「修正候補」からどちらの表記に統一するか選んで「置換」ボタンをクリックするだけで表記統一ができる。
AI editorの指摘を参照して誤りを修正した原稿は、「学習データ登録」ボタンでAI editorに学習させることができる。今回は試用アカウントのため利用できなかったが、こうしてユーザーごとに“正しい文章”を繰り返し学習させることで、誤字脱字検出アルゴリズムが最適化されていき、AI editorの校閲精度が高まっていくことになる。AIのトレーニング作業すら、誰でも簡単にできるよう設計されている点がポイントだろう。
自社独自の校閲ルールも簡単、柔軟に作成・カスタマイズできる
このように、AI editorの基本的な使い方はごくシンプルだ。ただし、これを十分に活用するためには自社独自の表記ルールに合わせたカスタマイズが必要となる。続いて、使いこなしの重要ポイントである校閲ルールの追加方法を見てみよう。
まず、AI editorの校閲ルール(ユーザー定義ルール)はいくつかの階層で構成されている。それぞれの関係を表すと次の図のようになる。
●グループ:複数(または単一)のルールをまとめたもの。校閲実行時には、適用するルールをこのグループ単位で指定する。
●ルール:校閲時のチェック内容を具体的に定義したもの。
●単語リスト:上のルール定義時に指定できる語句のリスト。
●正誤表:誤った語句と正しい語句のリスト(これはグループに属する)。
サンプルのルールを見るとわかりやすいだろう。たとえば「平仮名利用」グループの定義では、「平仮名利用」ルール1つだけが設定されている。その「平仮名利用」ルールは、「平仮名利用」単語リストを「含む」場合は「平仮名を使用してください。」と警告を表示するように定義されている。単語リストを見てみると、「但し」「或いは」「及び」といった語句が登録されていた。文章中にこれらの語句が含まれていれば、警告が表示されるわけだ。
同じように「誤りやすい用語」グループの定義を見ると、ルールは設定されておらず、代わりに正誤表で「愛想を振りまく→愛嬌を振りまく」「合いの手を打つ→合いの手を入れる」といった語句が登録されている。文章中にこれらの誤った語句が含まれると警告文が表示され、「置換」ボタンで正しい表記に修正することができる。
こうした校閲ルールの階層構造はやや複雑に思えるが、そのぶんルールや単語リストの再利用性やメンテナンス性は高まっていると言えるだろう。特に企業やチームの共同作業では便利に使えるはずだ。
たとえば同じ企業内でも、校閲対象とする文章の種類(プレスリリース、マニュアル、社内文書など)に応じてグループを用意し、それぞれ適用が必要なルールだけを取捨選択して設定できる。また、ルールや単語リストの改定や追加を行えば、それを利用するすべてのグループに即時反映されるといった具合だ。社内での同じ表記ミスの繰り返し、校閲ルールの属人化も防げるだろう。
ほかにも、校閲を行う部署(広報、法務、財務……)ごとに利用するグループを分けて、適用する校閲ルールを変えるような使い方も考えられる。
ルールの定義では、「ある語句を含む場合」だけでなく「語句Aの後(前)、○単語以内に語句Bを含む場合」といった条件も設定できる。たとえば広告の誇大表現を防ぐために、「絶対」「必ず」といった断定表現の後に「儲かる」「きれい」といった語句が出てくる場合に警告するルールを作成することもできる。
その反対に、その文章が「ある語句を『含まない』場合」を条件にすることもできる。これは、たとえば医薬品の添付文書や金融商品の説明文書、契約書類など、法的に記載が義務づけられている項目の記載漏れチェックに役立つだろう。
なお、単語リストや正誤表に語句を登録する際には、Excelなどのスプレッドシートから直接リストをコピー&ペーストすることもできる。すでに自社の表記ルールをドキュメント化している企業であれば、そのまま一括登録できるので便利だ。
最大のメリットは人間が追いつけない「圧倒的なスピード」
機能を理解したところで、実際にASCII.jpの記事を検証対象として校閲を行ってみた。今回はChrome拡張機能も用意したので、ブラウザ上で記事のテキストを選択し、AI editorボタンをクリックするだけで校閲を実行できる。
デフォルトの校閲ルール設定を使って、いくつかの記事を校閲してみる。幸いなことに誤字・脱字はほとんどなかったが、「~の~の」や「~を~を」といった助詞の重複、「~だ。~だ。」といった文末表現の重複が多く指摘された。こうしたつたない表現は避けるよう気をつけているのだが、意外に多く残っているものだ。指摘された部分をチェックして、修正が必要であれば直接手を加えればよく、原稿を素早くブラッシュアップしていくうえで役立ちそうである。
同一文章内の表記揺れについては、たとえば「売上/売り上げ」「志向/指向」「多用/多様」「今/いま」など、かなり的確にチェックできている。AIが文章を単語や文節で正しく分割して判定できていることがうかがえる。指摘されたほとんどのケースでは正しく書き分けがなされていたのだが、一部に本当の表記統一ミスが見つかって冷や汗をかいた。
正誤表の機能も役に立つ。一般的に書き間違いやすい語句(「シュミレーション」「コロナ渦」など)、表記を統一したい語句(「コンピュータ→コンピューター」など)はもちろんだが、「AI editor」のような固有名詞をチェックするのにも使える。複数人が制作に関わる製品マニュアルなどでは、あらかじめ間違いやすい製品名や機能名などを登録しておけばミスが大きく減らせるはずだ。
そして、筆者が実感したAI editor最大のメリットは「校閲処理のスピード」だ。「1万文字のテキストを3秒で処理できる」という触れ込みどおり、筆者が試した3000~4000文字程度のニュース記事は、どれも1秒未満で校閲が完了した。書籍1冊ぶんのボリュームでも数十秒~数分程度で済むという。人間では到底実現できない処理スピードだ。
これだけ短時間で処理できるのであれば、文書作成プロセスの中で繰り返しチェックをかけることも十分可能になる。制作が進んでから校閲を行い、問題のある表記が見つかって手戻りしてしまう――といった事態を減らせるわけだ。
もっとも、AI editorは人間による校閲業務を「完全に」不要にするツールではない。現時点ではまだ、問題のない表記を検出してしまう誤検出もしばしば見られる。まずは「文章中の問題がありそうな部分、人間がダブルチェックすべき部分を効率良くピックアップしてくれるツール」と考えてつきあい始めるのがよさそうだ。
それでも、文章を直接なりわいとしない人にとっては文章中の間違いや改善点を指摘してくれるツールとして、また文章の専門家にとっては文章中から要チェックの部分を効率良く洗い出してくれるツールとして、どちらでも手軽かつ便利に使えそうだ。これが、筆者の率直な感想である。
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冒頭で述べたとおり、AI editorはすでに幅広い用途で活用されている。使い勝手のシンプルさ、ルール設定やカスタマイズの簡単さといった点が、幅広いユーザー層に受け入れられる理由だろう。校閲業務の効率改善、文章のクオリティ向上やミスの削減といった効果を考えると、月額利用料18万円(初期費用10万円、共に税抜)という価格設定をリーズナブルだと感じる企業は多いはずだ。
ミラセンシズでは、ユーザー企業からの具体的なフィードバックを受けながらAI editorを機能改善していく方針だとしている。昨年もいくつかの新機能が追加/強化されており、たとえばロゴ画像の不正使用チェック(形状や色の変更の検出)機能といった、文章(テキスト)にとどまらない機能もリリースされている。今後も「英語対応」「人物名や固有名詞の表記揺れチェック」などの機能がリリース予定とのことなので、AI技術を背景とした機能進化には大いに期待したい。
そして、機能は高度化させつつも「業務の中で誰でも手軽に使える校正・校閲ツール」という特徴は守ってほしい。業務利用の裾野がこれまで以上に広がることで、新たな可能性が生まれてくるように思うからだ。
(提供:ミラセンシズ)