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生き残るための六次産業とブランディングとは?

高知で先駆者たちが語る地方農業とコミュニティのリアル

2018年07月13日 09時00分更新

文● 大谷イビサ/Team Leaders

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2018年5月22日に高知で開催された「コミュニティリーダーズサミット in 高知 2018」では、農業・水産、製造業、サービス業などがハイブリッド化されたいわゆる六次産業に関するパネルディスカッションが行なわれた。飲食、農業、地方創生などに知見を持つリーダーたちのリアルな話は、さまざまな知見にあふれていた。

濃すぎるパネリストとモデレーターが集まった

 「コミュニティとIT化による六次産業化と需給バランス」というパネルをリードするのは、クラウド黎明期の2010年から8年続く「八子クラウド座談会」を主催する八子知礼氏だ。ウフルでIoTイノベーションセンター長を務める八子氏は地方創生の活動もアクティブで、日本全国30カ所近い都市で現地課題の把握を進め、長野県伊那市や北海道釧路市ではハッカソンも開催しているという。自己紹介した八子氏は、「複数回を開催することで、コミュニティ化を狙っていて、関係人口を増やそうとしている。今後は広島県でも開催していくので、ぜひそちらにもご参加いただきたい」とアピールする。

モデレーターを務めた八子知礼氏

 八子氏は愛媛県新居浜市出身ということで四国にも縁があるほか、「高知県土佐まるごとビジネスアカデミー」の講師も務めており、高知にもなじみが深い。そんな八子氏がモデレートするパネルだけに、登壇者も尖ったメンバーばかりだ。

 1人目は地元高知の南国市で、農業法人南国スタイルで代表取締役専務を務める中村文隆氏。「高知で農業するために生まれてきた」と語る中村氏は、冒頭「全国のサラリーマンの平均年収は450万円なのに、高知県の農家の1戸あたりの平均年収は186万円」というショッキングな数字を披露。「若い皆さん!近くに450万の仕事があるのに、186万で家族養っていこうと思いますか?」と会場に問いかける。高知は暑く、雨も多く、刈っても刈っても耕作放棄地の雑草は育ち続ける。そんな課題に対して、中村氏は、「ちょっと時間かかっても、農業を産業としてきちんと育てていかなければならない。儲けなくても、継続できるくらい。そして、若者にリスペクトされる産業にしていきたい」と語る。

 2人目は九州で新しい食文化の創造にチャレンジする宮崎の村岡浩司氏。村岡氏はもともとは寿司屋の息子で、家業を継ぐのがイヤで渡米し、起業までしたが失敗。結局、父親のサポートで一平という寿司屋を継いだものの、衰退産業であることが見えたため、事業の多角化のために日本で初めてタリーズコーヒーのフランチャイズ店を運営することになる。その後、口蹄疫の発生、鳥インフルエンザ、火山の噴火、東日本大震災など、さまざまな影響で2~3年遅れてしまった宮崎の経済を立て直すべく、作ったのが九州の素材を使った「九州パンケーキ」だ。「九州を島としてとらえ直して、産業を興していこうと、全国や海外にお店を作っている」と村岡氏は語る。

 3人目はIT事業者の立場で六次産業にチャレンジするセカンドファクトリーの大関興治氏。私大の情シスからキャリアをスタートさせた大関氏だが、1998年に起業して、20年に渡ってIT関連のマーケティングやコンサルティングを手がけてきた。その課程で、食とITの可能性に惹かれ、江ノ島でIT化された海の家を立ち上げ、食にまつわるITの共創プラットフォームとして徳島県鳴門市で「THE NARUTO BASE」を運営している。大関氏は、「中村さんのお話のとおり、農家さんも相当苦労していますが、逆側にある飲食店でも各国で比較した生産性は最下位。ブラックな職場と思われている」と問題意識を語り、地元農家やコミュニティとともに新しいITのチャレンジを行なってきたと説明する。

市場との距離、ブランド、守旧勢力などの地方の課題

 自己紹介のあとにさっそくディスカッションに移る。さまざまな地方を回ってきた八子氏は、「人口減少する地方では、課題がおおむね似通っている」と指摘。その上で、「地域によいモノはあるのにアピールできてない。特に農業は生産性を上げて、作りすぎてしまうと、価格が下落してしまう。情報発信やビジネスモデルの不在、アンバランスな需給をどう解決していくかが、今回のテーマ設定の背景になると思う」と持論を展開した。

地方課題は共通化。地方だけでは解決できない

 八子氏はパネラーに対して、かかわっている地域や自治体がどのようなところで困っていたかを聞く。

 九州に関わってきた村岡氏は、地域によって課題は異なると指摘する。「宮崎市の場合、物流が貧弱なので、関東に朝とれの青果を届けようとすると、どうしても一泊しなければならない。地方ではマーケットが直接見えないため、よいモノを作っても売る先が見つからず、どうしても量で勝負することになる」(村岡氏)。一方で、宮崎と同じ40万都市の横須賀の場合はマーケットが近くにあるため、販路よりも商品力が重要で、いかにブランドを付けていくかが課題となる説明する。

一平 代表取締役社長 村岡浩司氏

 農業法人の中村氏が村岡氏の意見に追加したのは、「農業は暗黙知の産業」という点。「おじいちゃんやおばあちゃんの経験から来るモノがすごく多い。子どもや孫が同じ場所で同じ作物を作ろうとしても作れない」(中村氏)という課題だ。そのため、ITでこうした暗黙知をどれだけ得られるのかに興味があるという。「100点はとれなくても、70点くらいまで得られるデータを蓄積し、新規就農者が最低限生活できる農業のレベルまで実現できないかと思っている」(中村氏)。

 ITは暗黙知をどれだけ得られるのか? 村岡氏は、「25歳から35歳まで10年経験積んでも、10回しか農業やってないことになる。でも、これが100回のノウハウがデータベース化されたら、とても強力。生育に関するデータのみでなく、過去のマーケットデータも蓄積されていれば、高値のときに出荷できる可能性が高まる」と語った。

 THE NARUTO BASEを展開する尾関氏は、中村氏や村岡氏の視点に加え、過去のプライドから抜け出せない呪縛が徳島にはあったと指摘する。「過去にブランドが立っていた鳴門金時やレンコンなどは、10~15年前に比べて、取引単価は1/3になっている。でも、儲かっていたときの思い出が幻想となって残って、新しくやろうとしている人も地域の価値感にしばられてしまっている」(尾関氏)。まして、鳴門金時やレンコンは他の生鮮野菜に比べて日持ちしてしまうため、限られた時間で売りさばかなければならないという意識が希薄だという。そのため、THE NARUTO BASEでは加工を前提に、安定供給にフォーカスし、在庫を地方に分散させるようにしたという。

枠を飛び出す取り組みをなぜ始めたのか?

 次に八子氏は、今の取り組みを始めた背景を聞く。南国スタイルの中村氏は、「おじいとおばあの姿を見て、農業ええなと。自分が農業をやりたかった」と語る。とはいえ、いきなり就農するのはリスクが高いため、軽い気持ちで地元の農協に入ったら、やっているうちに地元の農業をなんとかしなければならないという使命感にかられるようになったというのが南国スタイル設立の経緯だ。

 現在、南国スタイルでは、米の二毛作を手がけるほか、冬場はキャベツ、大根、夏場はおくら、新しいIT化されたハウスではパプリカ、ピーマンを生産している。「個人で独立したときに、稼げる産業に育てたい。日本の農業を変えるなんて大それたことは考えてないが、せめて南国市の農業を価値あるモノにしていきたいと思った」と中村氏は語る。

農業法人南国スタイル 代表取締役専務 中村文隆氏

 村岡氏が宮崎だけでなく、九州にフォーカスしたのは、「宮崎だけでは生きていけないと思った」からだ。東国原氏が知事だったときは宮崎ブームで多くの観光客が訪れ、、村岡氏の寿司屋も潤っていたが、その後のさまざまな厄災で客は激減。「これがあと2~3回来たら、宮崎ブランドはなくなると思った」と村岡氏は語る。そんな中、行き着いたのが1300万人の人口、地域GDPで見ても世界で20位くらいになる九州自体のブランディングだ。

 とはいえ、九州だけで一丸となれない課題もある。「宮崎パンケーキだったら助成金出るけど、九州パンケーキだったら出ないですよね」という地元偏重の傾向もある。また、「検索キーワードを横文字で調べると、北海道に比べ、九州は1/10しかない」というブランドの欠如も課題。村岡氏は、「みなさんが四国をバリューアップするための輝く点になれるかが重要な視点」と参加者に語りかける。

 尾関氏がTHE NARUTO BASEを手がけたのは、実は地元農家の課題感ではなく、レストランチェーンを手がけてきた自らの課題感だった。「レストランチェーンを拡大するにつれ、ぶちあたったのはおいしい食材が手に入らないこと。手に入れようと思っても、とても高い。でも、地方の人に聞くと、なんでそんなに高いの?と言われる」(尾関氏)。おいしい食材についての情報が発信されておらず、都内からはそれらの情報が見えない。生産者と消費者のマッチングに課題があったわけだ。「東京で買ったら高価な鳴門金時がめちゃ捨てられている。供給過剰になると、価格が下落するので、農家はブランド品を捨ててしまうんです」(尾関氏)。

 市場原理に則ると、捨てられてしまうブランド青果。しかし、ITを駆使して、需要予測していけば、生産量を適正に保つことができる。こうして需要側から生産者を探っていったら、結果的には農家が疲弊しない仕組みにつながった。「結局、われわれは市場に向けての出口を作り、農家が知り得ないシェフが欲しいと思っているものを可視化しただけ。農家のためになったのは、いわば後付けなんです」と尾関氏は語る。

コミュニティはあくまで結果論 手段はさまざま

 3者3様の施策やこだわりを聞いた八子氏は、次にコミュティの役割をパネルの主題に据える。

 九州ブランドにこだわる村岡氏は、九州でさまざまなコミュニティを作っているという。「ここに来て、これを言っていいか迷うところですが、僕って九州にしか興味ないんですよ(笑)。九州だけ生き残ればいい」と語り、自身が執筆した「九州バカ 世界とつながる地元創生起業論」(サンクチュアリ出版)という本を紹介する。笑いの渦に巻き込まれる会場に対して、「オレは九州だ、オレは高知だ、オレは北海道だという人が全国にいて、自分の持ち場を意識しているから、この国はまだ大丈夫だと感じている」と語りかける。

 その上で村岡氏は、国産い草の生産地である八代市のコミュニティについて説明する。「い草は9割が輸入で、残り国産い草の9割は八代で作っている。つまり、国産い草は九州の産業と行っても過言ではない」という村岡氏。今まで八代という地域にこだわっていたが、1300万人の人口を持つ九州を意識することで、きちんとブランドを確立できると持論を展開する。「ペルシャ絨毯とか、いいものは買い付けに行きますよね。だったら、東京も八代の畳を買いに来いと思う」(村岡氏)。

 大関氏は、コミュニティ形成について、前日高知で行なわれたCMC_Meetupで小島英揮氏が披露した「ファーストピンを狙え」という話を引き合いに出し、「結果的に僕らはあれをやっていたんだなと思った」と語る。「たとえば金時豚という無名のブランドは豚舎を3倍にまで拡大できた。これは金時豚の生産者というファーストピンと、都内のレストランというファーストピンを出会わせ、お客様のコミュニティで美味しいことをアピールしてもらったから実現できたこと」と大関氏は語る。

セカンドファクトリー代表取締役、「THE NARUTO BASE」運営会社 ブエナピンタ代表取締役 大関興治氏

 こうしたコミュニティの盛り上がりを見て、秋田の豚や鳴門金時のファーストピンが同じことをやりたいと手を上げる。「こうしたファーストピンの連鎖を結果的に起こすことができたんだと思いました。鳴門金時の農家も50件くらいいるので、絞り込む必要があった。でも、ファーストピンになる人を見つけ出して、優先的に宣伝に使ったのは大きかった」と語る。

 中村氏は、個人の信頼関係から結果的にコミュニティが生まれるという点に注目する。「本当に素人ばかりだったので、全国の農家を見て回った。でも、農協が母体だからといって、農協経由で視察受け入れをお願いしても、当たり障りのないことしか言われない。だから、とにかく人づてで聞いて突撃した」と中村氏は語る。

 中村氏は、「まずは突撃することが重要」と指摘する。たとえば、キャベツの栽培だったら、やはり嬬恋村だろうということで、社員といっしょに車を飛ばして、先方に突撃したこともある。「やはりお互いの信頼関係が築ければ、毎年のようにお互いが行き来できるようになる。今は交流できるツールがいろいろあるので、定期的に情報交換できている」と語る。「地元愛」「ファーストピン」「まずは突撃」など手段は異なれど、結果的にコミュニティにつながっていったのが印象的だった。

横つながりを増やし、1人じゃないという感覚を持つ

 最後に八子氏が掲げたお題は、意思を持ったコミュニティをいかに拡げていくか。

 大関氏は「結局、1人じゃないという感覚をお互いが持つこと」が重要だという。同じ志を持つ人がコミュニティに集まれば、こうした感覚を持つことは容易になる。セカンドファクトリーが展開しているTHE NARUTO BASEのビジネスモデルも、さまざまな悩みを持つ地方の生産者とうまく連携できるように作られており、足りない機能をうまくアウトソーシングすることが可能になっている。「悩んでいる人たちがつながり、1人じゃないという感覚を持てればいいと思っている。●●BASEを増やすのが夢というわけではない」(大関氏)。

 中村氏は、「地球規模で見れば、人口はこれからもどんどん爆発的に増え、今でも飢えている人は8億人くらいいる。でも、人間は食べることをやめられないわけで、農業はもっとリスペクトされるべきだと思う」と語る。とはいえ、農業はITの導入も遅れており、他の産業で当たり前となっていることが当たり前となっていない。「多くの農業は原価計算すらしていない。だから、そもそも自分が儲けているのか、損しているのかもわからない」(中村氏)。こうした中、農業がもっとリスペクトされ、若者がどんどん農業をやりたいという状況を作るため、農家同士はもっと横でつながるべきだと中村氏は指摘する。

 村岡氏は、「マーケットプレイスを閉じることが、かえって開港することにつながる」という意見を語る。「宮崎の若いパクチー農家が『東京から発注もらいました』と大喜びしてたけど、それに対して僕は瞬発的に『お前、つまらないヤツだな』と言ってしまったんです。お前のパクチーは宮崎や鹿児島のスーパーにも置いてないだろと」(村岡氏)。九州を市場として見るべきという村岡氏からすると、隣県に売ることを遠慮する農家はあまり理解できないようだ。「人口1300万人の九州で、みんなにパクチーを食べてもらう。九州のみんなが地元のパクチー農家を応援し、スターを作っていくことが重要」と村岡氏は語る。

 最後、八子氏は「コミュニティは作ろうと思ったのではなく、結果的に生まれたもの」「意思のある人、先駆者に学び、信頼関係を得る。その上でITを使う」などいくつかの議論をまとめる。その上で、村岡氏の話を引き合いに出し、「高知ではなく、四国という広域を意識して、ブランディングするアプローチでもいいのでは」と提案し、パネルを終了させた。

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