音声知覚はOK、しかし話を理解できないBさんの場合
パーソナルトレーナー板井千晶氏
受講生Bさんは航空会社勤務、30代の事務職の男性。日本人には珍しく、音声知覚(音を認知する能力、音真似する能力)に優れていた。英語力を身に付けることで自分の可能性を広げたいというのがENGLISH COMPANY入学の動機。
山根さんと同じく、板井さんもまずは課題発見のメソッドを使って、Bさんの課題を掘り起こしていった。その結果、Bさんは音の認知については優れているけれど、その意味をすぐに理解することができないことが分かった。もっとも、それは核心となる課題ではないと板井さんは考えた。
「意味がすぐに処理できない。これは課題ではなく現象のひとつにすぎない。問題なのはその現象を生み出している源。これこそ核心となる課題だと考えていました。ある日、音の中に登場するキーワードを一緒にチェックするというトレーニングをしていた時、全部知っているような気がするけれど、やっぱり瞬時に意味が出てこないとか、そもそも知らない単語があるというようなことがありました。そこで最優先で解決すべきBさんの課題が、基礎的な語彙力の不足にあることを発見したのです」
語彙力の不足に加えて、文法にもかなりの抜けがあった。たとえば、中学校で学ぶ受動態や現在完了形。それらのフレーズが出てきた時、Bさんはそうであることにすぐに気づけない。時間をかけて考えれば正解に至るのだが、すぐには出てこないのだ。このことから文法にもかなりの抜けがあることが分かった。
「Bさんの場合、解決すべき課題が語彙力と文法でしたので、最初の30日間はこの2つに関して徹底してインプットに努めてもらいました。語彙力については、私たちが使っている単語帳の英単語1120個を1ヵ月で覚えていただくようお願いしました。1ヵ月に1120個の英単語などと聞くと、気が遠くなるでしょうから、Bさんには1日100個、それも20個をワンセットにして1日5セット覚えましょうとお伝えしました」
文法についても英単語と同じくスモールゴールを決めた。Bさんには30問の文法問題を1日2回解くことをお願いしたという。この取り組みが功を奏して、1ヵ月後には語彙力と文法の土台を築くことができた。土台が築けたところで、さらなるレベルアップが図られた。
「土台が築けたところで、2ヵ月目にはさらなるレベルアップを図りました。そこで採り入れたトレーニングが、パターン・プラクティスです。これは1ヵ月目で頭に入れた文法をただの知識としてではなく、瞬時にしかも自動的に使えるスキルに昇華させるためのトレーニングです。スライドを使うトレーニングで、スライドには過去形とか現在完了形とか、文法の種類ごとに例文が5つほど掲載されていて、受講生はその意味を考えながら、自分が今まさに話しかけているようなつもりで音読していきます」
英文法を知識として理解している日本人は少なくない。だが、それを実践的に使いこなせる人はほんの一握りだろう。パターン・プラクティスが目指しているのは、状況に応じて特定の文法が自動的に口をついて出る——そのような水準だ。
シャドーイングにも取り組んだ。シャドーイングには2つの種類がある。ひとつは意味など考えず、聞こえた音をそのまま忠実に真似て復唱する「プロソディ・シャドーイング」。音声認識に関して抜群のセンスを持つBさんは、当初これを大の得意にしていた。
「ご自分でも楽にできると仰っていました。しかし、次のレベルのコンテンツ・シャドーイング——意味を考えながらのシャドーイングに進むと、途端にキツイと感想を漏らすようになりました。意味を考えながらやりましょうというと、音読のスピードが急に下がってしまう。Bさんには、意味を考えながら音読のスピードも下げず、シャドーイングすることをお願いしました」
最後には音の処理と意味の処理、双方のスピードが同時に上がっていったと板井さんは言う。そうした成果なのだろう。BさんはENGLISH COMPANYが想定している90日間ではなく、わずか60日間で500点台だったTOEICのスコアを800点台まで伸ばしたのだ。
「コンテンツ・シャドーイングを始めた頃は、かなり苦戦されていたので、言葉にはされませんでしたが、心が折れたこともあったと思います。それでも続けられたのは、60日という早い段階でTOEICのスコアが800点台に届いたこと。トレーニングの成果を早めに実感できたことが、Bさんにとっては大きな励みになったのだと思います」