monotron最強の「作例」はどうやって作られているのか?
それでは最後にmonotronを使うと、どんな演奏ができるのか。それが冒頭にあげた、koishistyleこと大石憲一郎さんによる「KORG monotron Song (finger & stylus) 」だ。坂巻さんも「あれはヤバイ」と驚くこの演奏。monotronだけを使って多重録音で作られている。monotronの使いこなしについて、koishistyleさんにお話を伺ってみた。
―― まずこれ、どうやって録音したんですか?
koishistyle 使った音色は大きく分けて7~8種類ですね。外部入力は使わずmonotronだけで作りました。それをDAW上で多重録音しています。何せモノフォニックなので、和音も一本ずつダビングしているし、最終的には20トラックくらい重ねたと思います。
―― これ、リズムもmonotronで作ってますよね?
koishistyle 基本的にLFOを使って曲のテンポに合わせているんですけど、ツマミをちょっとさわっただけで、かなりスピードが変わるので一苦労でした。メロディやSE以外のパートは、DAW上で2~4小節単位に分けてループ編集しています。一曲通してテンポ合わせるのはさすがに無理でしたね。
―― 音の処理もけっこうやってますよね?
koishistyle 最終的にミックスする際に、ディレイとリバーブで音の広がりと厚みを出して、若干コンプレッサーとEQで音を整えています。ここで一番大事なのはディレイ。ホント、大化けします。
―― あのリボンコントローラーで正確に弾くコツを教えてください。
koishistyle ビブラートですね。これで若干ピッチが悪くてもごまかせます。
―― リボンコントローラーに触れつつ細かく揺らすんですね。
koishistyle あとは、ちゃんとチューニングをすることですね。range adjustの調整も大事です。スタイラスは、あった方が正確なポイントを狙いやすいです。指だと同じところを押さえたつもりでも、若干角度が違うだけで音程が変わってしまうので。ただ、聴いてすぐ音程を修正できるのであれば、指でも問題ないと思います。普通のフレットレスな楽器もそうですしね。
―― ただ、ここまで作り込むのは並大抵のことじゃないと思うんですが。
koishistyle 作っておいてなんですが、これだけで曲を作るのは正直ナンセンスだと思います。
―― わはははは。まあ、普通はここまでやらないですよね。
koishistyle 飛び道具的な使い方を考えた方が楽しいですよ。
―― 楽器として見たmonotronの音はどんな印象ですか?
koishistyle 波形が一種類しかないので、音作りの幅は広くありません。でもフィルターやLFO周りが優秀で、かつエグい。こういうのは、バーチャルアナログやソフトシンセにはない魅力ですね。動画を見ていただければわかると思いますが、結構重いキックも作れますし。この価格でこんな音が出るシンセは他にないですよ。あと、LFOがSaw Downというのも、非常に「わかってる」選択だと思いました。ハットやキック、シーケンスなんかを作れるのもこの波形だからこそですね。
―― なるほど。ありがとうございました。
著者紹介――四本淑三
1963年生まれ。高校時代にロッキング・オンで音楽ライターとしてデビューするも、音楽業界に疑問を感じてすぐ引退。現在はインターネット時代ならではの音楽シーンのあり方に興味を持ち、ガジェット音楽やボーカロイドシーンをフォローするフリーライター。