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時代は新しいアナログへ 電子楽器「monotron」が生まれた理由

2010年05月22日 12時00分更新

文● 四本淑三

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正しい波形を出すことだけが正解じゃない

―― VCOの波形は逆ノコギリ波ですよね? これを選択した理由は?

高橋 SAW DOWNですね。矩形波とかいろいろやったんです。三角波もいいんですけど、フィルターをかけた時に気持ち良かったのが、今の波形なんですね。

SAW DOWN : ギザギザ状になる音の波形、「ノコギリ波」(SAW WAVE)のパターン。右肩下がりの波形をSAW DOWN(逆ノコギリ波)という。

monotronのVCOで「ノコギリ波」はこんな波形

―― それと、こんなに周波数の高いLFOも珍しいですよね。右に回しきると可聴帯域に入ってると思うんですが?

高橋 それはですね、僕がこの実験機を作っていた頃に、MS-20を設計した三枝(三枝文夫氏。現在は株式会社コルグの取締役を勤める)に言われたことがあるんです。

LFO : 「Low Frequency Oscillator」の略。低周波発振器のこと。VCOにかけるとビブラート、VCFにかけるとワウの効果になる。大抵は人間の可聴帯域(20Hz)以下の周波数しか出ない。

―― ほうほう。

高橋 「高橋くん、なんでシンセがすごいか知ってる?」って。発振器を速くしていくと、一定間隔の「ドッ、ドッ」というパルスが、徐々にピッチを伴った音に変化していきますよね? だから「音楽はピッチを持った音にリズムを与えることで成り立っているんだけど、シンセは『リズムとピッチの間にある壁』をくずしていけるんだよ」と。

―― おお、それは面白い話ですね。

高橋 それを聞いて僕も感動したんです。だからLFOは可聴帯域まで持っていかないとダメだと思ったんです。そこから頑張りました。あんまり上げすぎると使いにくくなるのでカーブの調整をやったりとか。今の、この構成になるまで、いろんなバージョンがあったんですよ。

坂巻 最初のバージョンとは音も全然違うんですよ。今でこそ言えるんですが、最初は音が薄くて「効果音」系だったんですよね。それは、高橋がコルグの歴史を吸収する以前だったからだと思うんですよ。

高橋 矩形波の2オシレーターで、クロスモジュレーションとフィルターだけとか。でもそれを見せたら三枝に「高橋くんの回路は測定器みたいだね」って言われたんですよ。

―― 波形が綺麗すぎるということですか?

坂巻 測定器が発達したおかげで、それを見ていれば、ある程度の音は誰でも作れる。でも、いろいろ試行錯誤して分かったんですが、回路の美しさや、正しい波形を出すことが正解じゃないんですね。

「回路の美しさや、正しい波形を出すことが正解じゃないんです」

高橋 オシロ(スコープ)でどんな風に見えても、音がカッコ良ければそれでいいんだ、ということです。

坂巻 楽器である以上、出音がすべてなんですよ。

高橋 だから、monotronにはMS-20と同じフィルター回路が入っているんですが、これを使わないわけにはいかないと思いましたね。

―― 高橋さんが見てもグッと来る回路なんですか?

高橋 いや、初めて見たときは分からなかったです。でもこれで本当に動くし、音もすごい。それで2オシレーターを止めて、LFOにして。結局、すごい遠回りして、今のスタンダードな構成にたどりついたんですね。

―― その辺りがメーカーとしての伝統になるんでしょうね。

坂巻 その間のブラッシュアップの仕方は本当にすごかったですよ。今までアナログを作ってきた人のアドバイスは、すごく効いていると思います。もうひとつは操作感ですね。このツマミを回した時の感じはこうあるべきだ、というような。それはモデリングシンセを作ってきた人達の意見を入れてあります。つまり、コルグのアナログとモデリングシンセの経験を高橋が集めてきて、ここに集約したわけです。

(次のページに続く)

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