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池田信夫の「サイバーリバタリアン」 第35回

ガラパゴス化が進む日本のウェブ

2008年09月23日 10時00分更新

文● 池田信夫/経済学者

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日本のブログ・SNSの「引きこもり」


 リーマンのニュースで、新聞サイトと並んでアクセスを集めたのは、経済学者ポール・クルーグマン(Paul Krugman)やアナリストのバリー・リソルツ(Barry Ritholtz)などのブログだった。Huffington PostBoing Boingなどの人気ブログは、マスメディアと変わらないアクセスを集めている。ブログが新しいジャーナリズムとして既存メディアを脅かしているのだ。

 これに対して、日本のブログでそれほどの影響力を持つものは皆無だ。Diggで最近の人気記事を見ると、上位のほとんどは米大統領選挙関連だが、「はてなブックマーク」の人気記事にはリーマンも自民党総裁選もなく、身辺雑記とオタクネタが並んでいる。日本のブログの作者も読者も社会的な関心が薄く、狭い世界に引きこもっているのだ。

 SNSも、Facebookでは大統領選を巡って多くのサイトが作られ、各候補者もアカウントを持ってインターネットによる選挙戦を展開している。しかし、日本の公職選挙法ではインターネットは禁止だ。SNSのほとんどは、ひとりごとのような日記と、身内のコミュニティーでの世間話である。



携帯サイトに未来はあるか


 さらに日本の特異性は、携帯サイトがPCサイトを上回るアクセスを集めていることだ。携帯で最大のアクセスを集めるモバゲータウンは、月間150億ページビュー(PV)と、Yahoo! JAPANの200億PVに次いで日本で第2位のアクセスを集め、mixiでもモバイルのアクセスがPCを上回る。これは日本の携帯がガラパゴス化し、世界に類をみないデラックスな仕様になっているためだ。

 しかし携帯端末で入力できるのは短文だけなので、身内のコミュニケーションとサイトを見るだけの情報消費が中心にならざるをえない。このように内向きになるのは、日本語という特殊で難解な言語の宿命だが、今後、世界の携帯電話が第3世代に移行してリッチ・コンテンツが利用されるようになれば、日本の進んだサービスが生きる可能性もある。モバゲータウンを運営するDeNAは、今月から海外向けのモバイルSNS「MobaMingle」を開始した。

 一部の携帯端末の販売奨励金が廃止されて、端末の販売台数はダウンしたが、これは端末メーカーがグローバルな製品開発をするチャンスである。成熟した国内市場でコップの中の競争を続けるより、SIMロック(携帯端末を特定のキャリアに固定するしくみ)もやめて、世界市場に打って出るべきだ。

 リーマンが破産して「アメリカの投資銀行はバカだ」と笑っている日本人がいるが、邦銀の傷が浅いのは、金融技術がなくてビジネスに参加できなかったからにすぎない。戦後、日本が奇跡的な成長を遂げたのは、製造業が海外に市場を求めて進出した結果だが、国内市場が大きくなるとガラパゴス化し、特に金融とITは海外では壊滅状態だ。ソフトウェア・ハードウェアともにグローバル化しないと、日本のIT産業に未来はない。


筆者紹介──池田信夫


1953年京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。1993年退職後。国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は上武大学大学院経営管理研究科教授。学術博士(慶應義塾大学)。著書に「過剰と破壊の経済学」(アスキー)、「情報技術と組織のアーキテクチャ」(NTT出版)、「電波利権」(新潮新書)、「ウェブは資本主義を超える」(日経BP社)など。自身のブログは「池田信夫blog」。

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