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池田信夫の「サイバーリバタリアン」 ― 最終回

日本のITはなぜ終わったのか

2011年10月20日 12時00分更新

文● 池田信夫/経済学者

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ジョブズはもう日本には生まれないのか

 スティーブ・ジョブズの死去は、世界に大きな衝撃を与えた。彼については多くのコメントがあるので、ここでそれに付け加えるのはやめておこう。むしろ問題なのは、かつてはソニーやホンダを生んだ日本が起業家精神を失い、ジョブズのようなイノベーターが生まれなくなったのはなぜかということだ。

 一つは、どの企業でも起こることだが、経済が成熟するにつれて企業の規模が大きくなり、経営者も年を取り、守るべきものが増えてくるということだ。アップルのように売り上げが年間400億ドルになってもイノベーションを持続できる企業は珍しい。普通は役員が多くなるとコンセンサスで意思決定が行なわれるようになり、とがった製品を出すことが困難になる。これ自体は避けられない。

 問題は、古い企業が老化する一方で、新しい企業が出てくる新陳代謝が起こらないことだ。これにはいろいろな原因があるが、最大の問題は人材の流動性が低いことだ。特に知識産業にとって重要な人材が大学卒業とともに生産性の低下した大企業に就職し、ほとんどの人がそこで定年まで過ごす。「終身雇用」という規範が成立しているのは大卒の男子ホワイトカラーだけだが、この層が意思決定を行ない、企業の生産性を決める。

 もう一つは、1990年代以降のグローバル化の波に日本が乗り遅れたことだ。企業が大きくなっても、国際競争にさらされていると、つねにイノベーションを起こさないと生き残っていけない。特に新興国から安い製品が輸出されるようになると、よい製品を安くつくるという日本の製造業の強みはなくなるので、新興国につくれない新技術の開発に重点をうつす一方、生産そのものは新興国で行なう国際分業が重要になる。

 ところが日本の企業は「自前主義」にこだわって、グローバル化に対応できなかった。たとえばアップルと同じ時期に携帯音楽プレイヤーを開発していたソニーは、レコード会社をもっていたためにコピーフリーのMP3をサポートせず、自社の工場で生産するため「カンパニー」間の調整に最大の時間を取られて意思決定が遅れた。ソニーがMP3をサポートしたのは、iPodから3年たった2004年である。

 他方アップルは、1990年代に業績不振で製造部門を切り離し、ほとんどの部品をアジアで調達し、組み立ても中国で行なうようになった。このように「ファブレス」(工場なし)企業になることによって、本社は付加価値の高い研究開発とソフトウェアに特化できたのである。「ものづくり」にこだわって自社生産を続けた日本メーカーは、グローバル化で後れをとり、コスト競争に敗れた。

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