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池田信夫の「サイバーリバタリアン」 第135回

新卒一括採用が「ITゼネコン構造」を生む

2011年02月16日 16時00分更新

文● 池田信夫/経済学者

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学生も企業も消耗する新卒一括採用

 大学生の就活は、もうピークである。また、今春卒業予定の大学生は史上最悪の状況とも言われ、内定率は7割にも満たない。学生は企業がどういう人材を求めているのかわからないため、当てのない会社回りを何十社もやる。企業のほうは、就職サイトで何万人もの学生が応募してくるため、採用にかかるコストが膨大になる一方、本当に優秀な学生が埋もれてしまう。

 その原因は、日本だけの新卒一括採用という雇用慣行にある。企業は新卒しか採らないため、学生は卒業までにどこかに潜り込まなければならない。企業のほうは、新卒で採らないと中途採用ではいい人材が採れないので、優秀な人材は早めに押さえたい。両者の利害が一致して、就活の時期が3年生に繰り上がる。

 面接では学業成績は問われず、「コミュニケーション能力」や「バイタリティ」などの曖昧な印象で採用する。IT産業でも、大卒総合職ではテクノロジーの専門知識はほとんど問われない。その結果、人柄がよくて調整能力が高いだけの汎用サラリーマンが大量に生まれ、日本企業の国際競争力は低下する一方だ。

 このような非生産的な雇用慣行を改めようという試みも行なわれたが、うまく行かない。たとえばJavaのコーディング能力で採用すると、それを使うソフトウェアの開発をやめたとき、そのプログラマーが社内失業してしまう。日本以外の企業では仕事のなくなった社員は解雇されるのが普通だが、日本では解雇規制や「終身雇用」の規範が強いので、仕事がなくなってもクビにできない。

 だから40年間いろいろな部門で使い回すことを考えると、特定の専門知識を基準にして採用することは意味がなく、どんな部門に配置転換されても文句を言わないで器用にこなす人物を採るしかない。年功序列で昇進や昇給を横並びにしているので、中途採用すると人事管理が困難になる。新卒一括採用は、大卒の生涯賃金が(年金・退職金なども含めて)4億円以上の固定費になる雇用慣行のもとでは、やむをえないリスクヘッジなのだ。

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