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池田信夫の「サイバーリバタリアン」 第87回

テレビが没落し、ウェブが「第一のメディア」になる

2009年10月07日 12時00分更新

文● 池田信夫/経済学者

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ウェブの質を高めるイノベーションが必要だ

 テレビというのは、非常に特殊なメディアである。活字の世界では本が100万部売れたら驚異のベストセラーだし、新聞が(公称)1000万部も売れるのは日本だけだ。ところがテレビの世界では1%が100万人で、ゴールデンアワーで10%(1000万人)取れなかったら、民放では打ち切りだ。他のメディアとは桁違いに多い客を相手にするビジネスなのだ。しかも番組がどう評価されたかは、視聴率という数値でしかわからない。それが視聴者に高く評価されたかどうかという質を量る指標がほとんど無いからだ。

 これは番組を作る側にとっても厄介だ。民放は商業ベースだから割り切って、なるべく低コストで「数字」のとれるワイドショーやクイズ番組ばかりやっているが、NHKの場合は局内のコンセンサスが基準になる。プロデューサーやニュース編集長(50代)を「平均的な視聴者」と考えて、彼の好みで内容を決めるしかないので、最先端の情報や理論的な説明は「わからん」といって切り捨てられる。「NHKスペシャル」のような大番組になると、仕事の半分は局内の根回しだ。

 要するに1000万人の人々の「平均的な好み」なんて誰にもわかりっこないので、それを想像して番組を作ると、NHKは当たりさわりのない話ばかりになってしまうし、民放は低俗番組ばかりになってしまう。人々の好みは多様だから、みんなを満足させようとすると、誰も満足できないのだ。だから若者がテレビを見なくなり、PCや携帯のようなパーソナルなメディアに移るのは当たり前だ。今テレビを見ているのは、インターネットの使い方を知らない老人ばかりで、視聴者の平均年齢は50歳を超える。

 他方ウェブは極端にマイナーで、誹謗中傷や有害情報が山のように出てくる。これをネット規制みたいなもので取り締まるのはナンセンスで、むしろ膨大なノイズの中から必要な情報だけをいかに選ぶかが今後のウェブの最大のイノベーションだろう。その試みの一つとして、私が編集長になってBLOGOSというブログのネットワークを今月から始めた。まだささやかな試みだが、没落するマスコミに代わってウェブが第一のメディアになる日は遠くない。その質も、マスコミに負けないものにする仕組みが必要だ。

筆者紹介──池田信夫


1953年京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。1993年退職後。国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は上武大学大学院経営管理研究科教授。学術博士(慶應義塾大学)。著書に「なぜ世界は不況に陥ったのか 」(池尾和人氏との共著、日経BP社)、「ハイエク 知識社会の自由主義 」(PHP新書)、「電波利権 」(新潮新書)、「ウェブは資本主義を超える 」(日経BP社)など。自身のブログは「池田信夫blog」。

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