VRおじさんの「週刊VRかわら版」 第15回
ボトムズやデレマスの反響でわかる、VRのキラーコンテンツは「なりきり」だ
「巨大ロボに乗りたい!!」という野望にVRが応える!
2016年07月10日 10時00分更新
バットマンスーツを身につけるたびに振る舞いが変わる
ふたつのニュースからいえるのは、まず有名IPを利用することで、なんとなくVRを知っていたレベルの人々を、「やりたい!」「欲しい!」と一気に「こちら側」に引き込むことに成功したという点でしょう。
この連載でも何度も強調してきましたが、VRヘッドマウントディスプレーの面白さは、言葉や写真、動画を見ただけでは絶対に理解できず、自分でかぶってもらって「あっ、これはスゴい」と気づかないとわかりません。そういった点で、まず体験してみようかなという動機を多くの人に提供することになったのが、素晴らしい点といえます。
さらに、各IPについているファンの想い、つまり「あのロボットに乗ってみたい」や「あの伝説のライブをもう一度見たい」という欲求をストレートにすくい上げているという部分も重要です。
有名IPを使える企業では、下手すると「話題になっているから、とりあえずVR版もつくってみる?」となりがちですが、既存のゲームを単純に360度見えるようにしただけでは、VR酔いの問題が起こったり、VRならではの面白い体験をつくり出せなかったりと、残念なものに仕上がることもままあります。そして、「初めてのVR」でそんな微妙なコンテンツを触ってしまうと、「うーん、話題になってるけど、VRってこんなものか」と落胆して、以後VR離れを起こしてしまう危機的な状況も生まれるでしょう。
その点、バンナムといえば、VR業界では2014年という昨今のブームの早い段階からPS VR向けに「サマーレッスン(仮)」を開発している企業です。何が本当にVRで面白い体験なのかを真剣に考え、その開発に異常なまでの情熱を傾けている人材が、複数の部署に存在していて連携しているというのが稀有な状況です。
以前、VR系もカバーしているジャーナリストの西田 宗千佳さんと話していた際、今年6月に米国で開催したゲームの祭典「E3 2016」について興味深い話を聞いたことがあります。バットマンになりきれるPS VR向けコンテンツ「バットマン:アーカムVR」の待機列に並んでいた際、自分の前で体験している人が、バーチャル空間でバットスーツを装着していくたびに、その振る舞いがバットマンらしくなっていったそうです。筆者の勝手な予想ですが、この方は気持ちよさをもう一度味わいたくてPS VRを購入するでしょう。
ファンの多いIPはそれだけで人々を引き込んでくれますし、さらに質の高い「わかっている」コンテンツに昇華していれば、やみつきになってしまうはずです。VRでは、そんな「なりきり」がキラーコンテンツとして大きなジャンルを築く可能性を感じます。そして、ファンのツボをきっちり抑えているバンナムは、今後、国内におけるVRの普及を大きくドライブしていく存在になっていくでしょう。
PS VRでは、デモ段階でも「アクエリオン」や「ダンガンロンパ」、「初音ミク」などの有名IPを引き込み、製品版でも「ファイナルファンタジー」や「バイオハザード」、「デッドオアアライブ」、「グランツーリスモ」などのVR対応が目白押しです。海外では、「スタートレック」の宇宙船に乗ったクルーになりきれるタイトルも発表されています(PANORAの記事)。
なりきりではないですが、来週15日には、アニメ「ゼーガペイン」が10周年を記念し、バーチャル集会アプリの「Cluster.」とコラボして記念式典を実施する予定です(関連記事)。きっかけは有名IPでも、まずは知ってもらわないことには、広がる余地が生まれません。ファンの方なら躊躇せず、ぜひVRの世界に飛び込んでみてください。新たな可能性に気づけると思いますよ!
広田 稔(VRおじさん)
フリーライター、VRエヴァンジェリスト。パーソナルVRのほか、アップル、niconico、初音ミクなどが専門分野。VRにハマりすぎて360度カメラを使ったVRジャーナリズムを志し、2013年に日本にVRを広めるために専門ウェブメディア「PANORA」を設立。「VRまつり」や「Tokyo VR Meetup」(Tokyo VR Startupsとの共催)などのVR系イベントも手がけている。
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