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渡辺由美子の「誰がためにアニメは生まれる」 第13回

存在しない「欧米市場」は狙わない

「鋼の錬金術師」プロデューサー、次の狙いは?【後編】

2011年02月12日 12時00分更新

文● 渡辺由美子(@watanabe_yumiko

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「欧米市場」なんて存在しない

田口 別の方向のアプローチとしては、昨年(2010年)の10月から11月にかけて、ちょっと面白い座組みで、初めてアニメヨーロッパツアーというのをやったんです。「JAPAN ANIME LIVE」という、鋼の錬金術師と、「BLEACH」、「ONE PIECE」、「ガンダム」、「NARUTO」の合同イベントなんですけど。

 名シーンに現地の声優さんが生アテレコしたり、日本の舞台役者さんが剣劇を披露したり、生歌もありと、中身はタイトルごとにさまざまです。フランス、ベルギー、ドイツ、イタリアの4ヵ国で合計6公演やりました。まずアニメを見てもらい、ファン層を大きくしていく。コミックを広める方法としては、海外も日本と同様ですよね。海外では、アニメの先として配信コミックの方に繋げていくということをやりたいなと思っています。

 JAPAN ANIME LIVEでは、私はベルギーとドイツに行ってきました。フランスの「Japan Expo」に行ったときに、向こうのファンが非常にホットなのは分かったので、ハガレンに関しては、ドイツでは放映もしてないし、おそらく一番アウェーかなと。だからこそドイツを見に行こうということで。

―― いかがでしたか?

田口 ベルギーは驚いたことにフランスよりも多くのお客さんが集まっていました。カップルやファミリーの姿も目立ちましたし、盛り上がりや歓声や笑いのひとつひとつが、とても温かかったです。

 一方のドイツは、開場前の入場列のコスプレイヤーの数が多くてびっくりしました。ハガレンの主題歌(YUIの「again」)が生演奏されたんですが、お客さんが一緒に歌ってるんですよ、番組は放送されていないのに。いやー、いろんな方法を駆使してちゃんと観てるんだなと(笑)。

 アウェーだと思っていましたが、どちらの国にもお客さんはたくさんいました。近隣の都市までひっくるめて上手にプロモーションすれば、もっともっと集客できたと思います。

―― そういった海外イベントの参加に積極的なのはなぜですか。

田口 一番コアな層をダイレクトに見られるじゃないですか。実際に行くと、人の気質とか人気の出るものって土地によって全然違うんだなと感じられるんですよ。「劇場版 鋼の錬金術師(シャンバラを征く者)」のフィルムを持って世界中を回ったときも、お客さんが笑ったり泣いたり盛り上がったりするところが、土地ごとにちょっとずつ違うんです。それを見るのが面白かったですね。

 以前別の部署にいたとき、「アメリカ市場はこう」「ヨーロッパ市場はこう」みたいなことが言われていたことがあったんですね。でも、実際に見てみると、ヨーロッパといっても、イギリスとフランス、ドイツとイタリア、スペインとで全然違いますから。アメリカの中でも特徴は分かれますよ。アメリカの東西南北で。

―― そこまで違いがあるんですか。

田口 特徴はすべての土地ごとにありますよ。たとえばうちの支社がロサンゼルスにあるんですけど、同じアメリカでも走っている車が違うわけです。ロサンゼルスだとトヨタ、ホンダ、あとはドイツ車が強い。東海岸では、リンカーンとかフォード車、アメリカの国産車が強いですよね。土地によって気質の違いがあるから、購入するものも違うんです。

 日本にいる僕たちが欧米の人から「(ひとくくりに)アジア市場はこうだ」と言われると、変だと思いますよね。日本・韓国・中国・台湾、全部気質が違うから。「欧米市場」なんてものはないんですよ。いかにわれわれが、これまで乱暴な捉え方で市場を見てきたかってことだと思います。

 今後、海外展開をビジネスとしてやっていくのであれば、それぞれに「違う」という前提をもって、実際に生でお客さんを見るべきでしょう、というのがイベントに積極的な理由ですね。自分の中では。

―― その人たちに向けるものは、土地ごとにビジネスのやり方も違えば、コンテンツの内容も違うと。

田口 生で見ることによって、うちのコンテンツの中で喜ばれているのはどの作品だろう、この作品はどういう部分が受けているんだろうと考える。最初はそこだと思うんです。そこからどう掘り下げていくかというのは、その先にある話ですけど、まずお客さんがどんな人たちかを見ないといけない。

(次のページに続きます)

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