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渡辺由美子の「誰がためにアニメは生まれる」 第10回

その1:「人類の敵らしいもの」との対話

機動戦士ガンダム00と、2つの「対話」 【前編】

2010年12月04日 12時00分更新

文● 渡辺由美子(@watanabe_yumiko

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 機動戦士ガンダム。その国民的アニメが扱ってきたテーマは、あまりにも巨大だ。

 戦争と科学技術、軍隊と人間らしさ、武装兵器と平和、人と人が通じ合える可能性……。戦後、日本のロボットアニメとして、常に「大テーマ」を扱ってきたガンダムシリーズ。その最新作が、今夏に公開されて話題を呼んだ、「劇場版 機動戦士ガンダム00 -A wakening of the Trailblazer-」だ。

 テレビ版「機動戦士ガンダム00」シリーズへの、ひとつの「回答」として作られたこの映画。だが、その評価は見事にまっぷたつに割れた。初代ガンダムからの「往年のファン」は「これはガンダムなのか」という疑問を口にするが、初めて映画を見た人からは絶賛の声が上がっている。この差はいったい何なのか。

 最終戦争の代わりに「来たるべき対話」という言葉を使い、能力者(イノベイター)たちの葛藤を描いた渾身の劇場版。その「対話」とは、いったい何だったのか。監督・水島精二氏に、ガンダムを通じて伝えようとしたメッセージをあらためて聞く。

※ 記事の中に、映画本編の重要な場面についての「ネタバレ」が含まれています。ご注意ください。(編集部)

「劇場版 機動戦士ガンダム00 -A wakening of the Trailblazer-」

 24世紀初頭、突如として現れた私設武装組織「ソレスタルビーイング」。彼らはガンダムによる戦争根絶を掲げ武力介入を開始、一時は組織壊滅の危機を迎えながらも、争いの絶えなかった世界を急変させた。

 地球連邦政府の成立、独立治安維持部隊アロウズの専横による戦争状態を経て、ようやく「武力に頼らない社会」ができた西暦2314年、再び危機が訪れる。130年前に廃船となっていた生体反応の無い木星探査船が地球圏に接近してきた。それは、人類の存亡をかけた戦いの始まりだった――。

 オフィシャルサイトはこちら

監督・水島精二氏について

 1966年生まれ。東京都出身。東京デザイナー学院卒業後、東京アニメーションフィルム(現アニメフィルム)で撮影を、サンライズにて制作進行を務めた後、フリーに。1998年「ジェネレイター・ガウル」で初監督。代表作に「地球防衛企業ダイ・ガード」「シャーマンキング」「鋼の錬金術師」「劇場版 鋼の錬金術師~シャンバラを征く者~」「はなまる幼稚園」など。


「来たるべき対話」とは何だったのか

―― 「劇場版 機動戦士ガンダム00 -A wakening of the Trailblazer-」(以下「ダブルオー」)のテーマは「対話」ということでしたが、なぜテーマをそこにすえたのでしょうか。

水島 「人は分かり合うことができるか」というのは、『ガンダム』シリーズが扱っている、一つのテーマだと思うんです。今回の劇場版では、テレビシリーズで描いた「イオリア計画」と、「来たるべき対話」が何なのか回答を出したかったのと、それに関連して、「ダブルオー」はコミュニケーションの物語であるというスタンスを最後まで貫き通し、結末を描こうと思ったのが大きな理由です。

 「分かり合う」というのは、「鋼の錬金術師」や「シャーマンキング」などでもずっと扱ってきた自分自身のテーマのひとつだったので、特にダブルオーで「今までとまったく違う新しいガンダム像を作ろう!」という気持ちでこのテーマを掲げたわけではなかったんですよ。

 ただ、結果的に「劇場版ダブルオー」は、「ガンダムらしくない」というふうに言われることも多かったようです。

水島精二監督

イオリア計画 : 私設武装組織「ソレスタルビーイング」を作り、人類同士の戦争を根絶することを目標とした計画。異星体(エルス)との接触にそなえ、「イノベイター」と呼ばれる特別な能力がある人間が配備されている。

―― 「ガンダム」らしくない?

水島 テーマは対話だ、コミュニケーションだ、というときに、劇場版の「ダブルオー」では、対話の相手として設定したのが、「人」ではなかった。エルスという「異星体」が地球に攻撃をしかけてくるんですが、その異星体をあえて金属生命体にしたんですよね。

 人が直感的に理解し得る範囲の生物って、地球上に存在するものじゃないですか。それ以外の空想の生物、宇宙人でも、やっぱり人間の体型に近かったり、皮膚の色が近いぐらいの、分かりやすい、人間に近いものですよね。もしくはタコのような火星人とか(笑)。

 でも今回、「対話」というテーマを描くにあたって、人類が直面する対話の対象を何に設定したら、テーマが最も伝わるかと考えたとき、「人には生物だと想像できないもの」だったんです。一見するとオブジェのような、生物っぽくないもの、意志のないように見えるものにしたかった。

―― それはなぜでしょうか。

水島 人類側が、相手を攻撃することに「躊躇しにくいもの」「罪の意識を持ちにくいもの」にしたいと思ったんですね。

 何だか分からないけど、自分たちに向かってきている。それが、明らかに自分たちの生命を脅かす存在であることは分かった。それに対して、攻撃しようと思えるのって、やっぱり人間じゃないからと言うのが大きいと思うんです。それが金属のオブジェにしか見えなかったら、生命があると思わないだろうし。

 それと、どう見ても生物に見えない、どんな意志を持っているか分からない。それって怖いですよね。その「恐怖」を感じさせたかったんです。恐怖というのは、相手のことが分からない、理解ができないことから生まれるんだと思いますから。

―― あえて、対話が成立しにくいものに設定したのですね。

水島 そうですね。まったく人間と違うものだから、コミュニケーション不全が浮き彫りになる。それをどうやって接点を持ち、コミュニケーションを果たすか、という話にしたんです。

 でも、そうしたら「ガンダムらしくない」という声が上がってしまった。

 生物かどうかも分からない「モノ」との対決を描くのは、それまでの「ガンダム」ではないだろうと。でも、TVシリーズからの流れもありましたし、僕らとしては自然な流れのアイデアだったんです。でも、宇宙人との戦いはガンダムらしくない「なぜ『人vs人』じゃないんだ?」と、(周囲から)反対の声も出ていたんです。

―― 「分からない相手との対話」こそが、描きたかったということですか。

水島 そうですね。地球に謎の物体が突然襲来して、接触すると、金属に取り込まれて死んでしまう。物体がなぜ人類を襲うのか、彼らに意志はあるのか、それすら分からない。パニック映画もそうですが、「なぜこんな行動を起こすのか」を想像できないとき、人は恐怖を感じますよね。恐怖を感じる相手との「対話」ができるかどうか。

―― それは難しそうですね。

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