こんなに才能のある人がいるなら、一緒にやろう
── まずはARiAを中心となって作られたとくさんの背景をお聞かせください。そもそもボーカロイド曲を投稿しようと思ったのはなぜですか?
toku 自分のメインの仕事はアレンジャーなんですが、周りのミュージシャンが初音ミクを使って動画をアップしているのを見て、誘われたのがきっかけですね。昨年の4月に初めて投稿した「COLOR」がそこそこ再生数もいって、楽しくなってしまった(笑)。それがちょうど1年くらい前の4月頭です。
宅録ミュージシャンが一番困るのは、歌い手を探すところなんですよ。自分でも「beatica」というバンド活動をやっていましたが、歌い手さんと知り合っても時間あわせたりしなきゃならない。スケジュールも人それぞれで、なかなか制作が進まないこともありました。だから、ボーカロイドのような、歌い手のことを考えずに何もかもコンピューターで指示した通りに歌ってくれるツールがあるというのは面白いですよね。ほんと自分勝手ですけど(笑)。
toku(とくP)【作詞・作曲・サウンドプロデュース】
「中の人」は、アンジェラ・アキ、Superfly、新垣結衣などの楽曲に参加する、アレンジャー・マニピュレーターの阿部尚徳氏。「とくP」としてボーカロイド楽曲をニコニコ動画に投稿。声優・原田ひとみが歌うMF文庫Jライトノベル「機巧少女は傷つかない」のイメージソング「MACHINE DOLL」にてサウンドプロデュースを手がけるなど、商業作品にも進出中。
── 初音ミク以前、メジャーではないところでも音楽活動はやってたんですか?
toku Twitterで「ついコン」という活動をやっていました。Twitterも初期からやっていて、その古参のメンバーが集まってコンピレーションアルバムを作ったんです。
音楽業界ってパソコンを使って曲を作っている人がほとんどなので、ネットサービスとの親和性が高いんですよね。mixiでは2000番台のIDを持ってたりしました。
── 2000番代! それは相当早い。ついコンも、ARiAと同じコラボでひとつのアルバムを作るという方法ですが、ここ数年で作品制作やコラボについて何が変わったと考えていますか?
toku ニコ動もそうですけど、ネットで個人が作品を出して、露出しやすい状況ができていますよね。そしてパソコンや機材が安くなったので、お金をかけなくてもある程度曲を作れる。もちろん機材を揃えた先の「プロの領域」もありますが、それでもすごく作りやすい環境になっています。
あとはTwitterやSkypeなどのコミュニケーションツールの登場が大きい。相手の場所にいかなくてもすぐにやりとりできるというのは便利ですし、コラボ相手がどんなことをやっているかはネットで公開されている作品を見れば一目瞭然で、話が早い。
refeia 会ったこともないような人と「一緒にやろう」という流れになりやすくなりましたよね。Twitterで発言すると、知っている人だけでなくて知らない人にも伝わっていきますし。昔から「自分のやりたいことは声に出しておけ」っていわれていますが、それが速い速度で成り立つようになってきていますよね。
refeia【イラスト】
岐阜生まれ・工学修士。2006年3月まで研究開発系エンジニア、2006年4月よりフリーのイラストレーターとして活動。ライトノベル挿絵、PCゲーム原画、DLsite.com月間イラスト、livedoorBlogキャラクター「ディタ&セト」などを手がける。ゲームラボ誌2010年4月号より「萌える! CG教室」の講師を担当中。
── ニコニコ動画などの投稿サイトは、あえて動画も音楽もすべて一人でやって「これが俺の世界観だ!」と出すという手法も考えられます。その中で、なぜコラボの道を選ばれたんですか?
toku 一人でやっているのがつまらないんです。アレンジャーの仕事って、曲を渡されて「あとは好きにやって完パケで納品してください」っていうことが多い。そうすると、もっと誰かと組んで作りたいという気持ちがわいてくるんです。
ましてや動画で上げる必要があるニコ動では、音楽だけでなく、動画やイラスト、デザインなど、さまざまな分野がある。自分一人でもがんばればできるかもしれませんが、周りにこんなに才能のある人がいるんだったら、じゃあ一緒にやろうよという。
一人でやられている方はスゴいですし、尊敬します。でも、僕だったらコラボでやりたいなと。
── アレンジャーとして仕事をしていく中の「もの足りなさ」がニコ動などの活動につながっているという。
toku 仕事だとスケジュールの関係などで、自分はもっと作り込みたいけど、クライアントがオーケーといって納品してしまうとか(笑)。予算状況などが露骨に出てきてしまったりしますよね。
それを何回も繰り返していく中で、自分が満足するまでやりたいという気持ちが芽生えてきて、それがBeaticaやニコ動でのコラボにつながるわけです。最後まで自分で見届けられるし、しかも発表した後の反響が見えるのも、すごく楽しい。
仕事はアレンジャーですが、「歌もの」が作りたくて、ラフ段階の曲をいっぱいストックしているんです。日課としてワンコーラスを作っていて、調子がよければ1日に数曲を書くのは苦じゃない。だから、聴いてもらって「いい」って言われたら、作品として仕上げたいなという、趣味です。
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