FTTHよりオールIP化のほうが重要
NGNは本来、巨大な電話交換機で制御する電話網を安いルータで切り替えるIP(Internet Protocol)網に替えてコストを削減するためのもので、BT(英国通信会社)やFCC(米連邦通信委員会)もIP化を最優先の目標に掲げている。IP化は電話局の設備を取り替えるだけで、家庭の配線の工事は必要ないので、コストは光化よりはるかに低いが、PSTNで実現している非常通報などのサービスをソフトウェアで実現しなければならない。
しかしNTTは'90年代に(当時最新鋭の)ATM交換機を全国に配備したため、なかなか交換機を捨てられない。またNTTのNGNはIP化と無関係なFTTH(家庭用光ファイバー)を一緒に進めようとしたため、高価になって普及が進まない。私は2年前の論文でそれを指摘し、最近は経営陣も「IP化が優先だ」というようになった。電話網をIPに替えれば、コストは劇的に下がり、交換機にかかわる余剰人員は削減できる。
だから低コストでブロードバンド化を行うには、電話網を撤去し、それに付随する余剰人員を削減することが不可欠である。これから高齢化した要員が大量に退職するので、あと5年ぐらいで交換機は撤去できるだろう。そうすれば残るのは銅線とルータだけで維持費も大したことはないので、無理やり銅線を巻き取る必要はない。
だから必要なのは、国策会社をつくって銅から光へ変更することではなく、交換機を撤去して電話網からIPへの移行を進めることだ。IPのインフラは光でもDSL(デジタル加入者線)でも無線でもよい。必要なのは1社独占のインフラ会社が強制的にメタル回線のサービスを止めるといった社会主義的な手法ではなく、多様なインフラのプラットフォーム競争によってイノベーションを最大化することだ。
ブロードバンドで、かつて「日本の奇蹟」を起こした最大の功労者はソフトバンクだが、それはNTTの計画経済に挑んだ孫正義氏のギャンブル的ともいえる大胆な戦略と、既成概念を捨てて激しいイノベーションに即応した柔軟な戦術によるものだった。その孫氏が「銅線を強制的に撤去して全国一律の価格で光ファイバーを」という社会主義的な計画を提唱するのは残念だ。そのエネルギーは、むしろ大詰めを迎えている電波開放に注いだほうがいいのではないか。
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