「無料経済」への流れは止まらない
これに対して日本の新聞社やテレビ局の対応策は、さらに時代錯誤だ。新聞はウェブには記事を全文掲載せず、テレビもごくわずかの番組しかウェブには出さず、リンクも1週間ぐらいで切れてしまう。「リンクが切れたからテレビで見よう」という視聴者がいるとでも思っているのだろうか。NHKオンデマンドにいたっては、1年間でたった140万アクセスという惨状だ。
![]() | インターネットを中心に増え続ける“無料”ビジネスで、なぜそれが成立するかを見る。みずからも無料ビジネスを実践すべく、書籍の全内容をPC上で閲覧できるキャンペーンを日本でも実施していた(すでに終了) |
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クリス・アンダーソンの新著『フリー 〈無料〉からお金を生みだす新戦略』(NHK出版)は、情報が無料になることは避けられないので、情報は無料で開放し、それに付随するサービスやイベントなどで儲けるべきだと提言している。経済学の教えるように、需要と供給で価格は決まるので、供給が絶対的に過剰なデジタル情報は無料になる。それに価格をつけるには、なんらかの方法で稀少性を作り出すしかない。
たとえばEconomist誌は最近、ウェブサイト(印刷版)の全面有料化に踏み切った。同誌は世界の指導者が読んでおり、その記事は専門家向けで一般のメディアには出ていないので、金を出しても読む価値があるからだ。同じ意味で成功しているのは、ポルノサイトである。普通のサイトがポルノを流すことはできないので稀少性があるのだ。
情報が過剰になるとノイズが増えるので、不快な情報を排除するフィルタリングには需要があるかもしれない。企業秘密が盗まれたりウイルスが侵入したりするリスクが高まるので、企業はセキュリティには金を払う。ウェブでは得られない情報を提供するイベントと結びつけて儲けるビジネスもある。いずれにせよ、過剰になった情報を使って稀少性を作り出すことが今後のビジネスモデルだ。
しかしこうしたビジネスは、在来メディアにはむずかしい。彼らはコンテンツ制作に特化し、紙や電波などのインフラ独占によって高い広告料をとるビジネスで利潤を上げてきたので、広告以外の情報サービスで収入を上げるノウハウをもっていないからだ。この意味では、アメリカでコムキャストがNBCを買収したように、インフラ企業のコンテンツ部門として生きていくしかないのかもしれない。
どういうビジネスが成り立つかどうかわからないが、間違いないのは、アンダーソンも言うように情報が無料になる流れは止まらないということだ。イノベーションとは単なる技術革新ではなく、このような新しいビジネスモデルを開発することだ。この「無料経済」の先に、アンダーソンが言及する、企業に代わって個人が主役になる新しい社会があるのか、それとも資本主義が没落して情報の生産が止まるのかはわからない。確かなのは、この流れを逆転させることは不可能であり、それに抵抗する者は淘汰されるということだけである。
筆者紹介──池田信夫
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1953年京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。1993年退職後。国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は上武大学大学院経営管理研究科教授。学術博士(慶應義塾大学)。著書に、「希望を捨てる勇気―停滞と成長の経済学」(ダイヤモンド社)、「なぜ世界は不況に陥ったのか」(池尾和人氏との共著、日経BP社)、「ハイエク 知識社会の自由主義」(PHP新書)、「ウェブは資本主義を超える」(日経BP社)など。自身のブログは「池田信夫blog」。
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